僕が心臓のネジを巻く時 -17ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

その日、彼女は泣いていました
彼に理由も言わず
ずっと泣いていました




彼が珍しく紅茶を作ってあげても
背中をさすっても
話しかけても
全然、泣きやみませんでした




困り果てた彼は
本棚から学生の時に使っていた
化学の本を取り出して
彼女に差し出しました



「この教科書に
 涙の成分が書いてあるから
 読んでみなよ」



彼女は泣きながら本を受け取ると
その本を開きました




そこにあった
名前も知らない化学者の写真
そして、その顔に書かれた
いっぱいの落書き




アフロにちょんまげ
ひげにほくろ
サングラスに吹き出し




しかもその化学者だけじゃなくて
その次の人も、そのまた次の人も
そしてページの片隅には
パラパラ漫画
いかにも遊びつくした教科書



「真面目に勉強してたの?」
彼女は彼に聞きました



「してたよ
 どんな難しい世界でも
 楽しめる方法を
 勉強していたのさ」
彼は笑ってそう言いました




でも肝心の涙の成分はどこにも
書かれていませんでした
だから彼女は彼に聞きました




「それで、涙の成分は何?」
すると彼は笑って答えました
「アンモニアじゃないかな?」




それを聞いて彼女は笑いました
「目からおしっこと同じものが出てるの?」




だから彼も笑って答えました
「本当は違うと思うけど
 ちゃんと勉強していなかった僕には
 それ以上の事は分からないよ
 でも僕の化学の本に載ってる化学者達は
 そう言ってるよ」




皆ひどい落書きをされた化学者達



彼の言うことは間違えているけれど
それでもその化学者達が教えてくれた
『どんなに難しい世界でも
 楽しめるものがある』
というのは間違ってないと思う

彼女はそう思いました


BUMP OF CHICKEN プラネタリウム
ある日、商人が
「馬鹿には見えない服」を持って
王様の下に来ました




それは王様と呼ぶにはまだ若い
幼さの残る王様でした




その王様に向かって彼は言いまいた
「この服、とても素晴らしいと思いませんか?
 この素晴らしい服を
 是非、王様にと思いまして
 お持ちしました
 でもこの服、馬鹿には見えない服なんです
 どうですか?」





王様はその差し出されたものを見て
大臣に聞きました



「大臣には見えるか?」




すると大臣は言いました
「いいえ、私は馬鹿ですから見えません」




王様はメイドにも聞きました
「メイド、お前はどうだ?」




するとメイドは言いました
「私も馬鹿ですから見えません」




それを聞いて王様は笑いました
「ははは、商人よ、すまないな
 この城にいる者は皆、馬鹿ばかりらしい
 俺にもその服は見えないよ
 来る所を間違えたんじゃないか?」




商人はそれを聞いて
そこにいた者達の顔を見渡しました
そして言いました
「やはり馬鹿ばかりでしたか」





それを聞いて
そばにいた王様の護衛が
剣を抜きました
しかし王様は
彼らの方を向いて
静かに剣をおさめるように言いました




「なあ、商人」
王様は商人に語りかけました



「俺は10歳でこの国の王様になった
 前の王様であった俺の父が亡くなり
 俺はその年でこの座を継いだ


 たかが10歳のガキが
 この国の頂点に立ったわけだ
 まだ女の扱いも知らないようなガキがだ


 それでも皆は王様、王様と言って
 俺を立ててくれた


 ここにいる者達は
 そんな俺を一人前の国王にすることで
 精一杯だった
 国の事を放っておいて
 俺の面倒を見たわけだ
 でも俺は縛られるのが嫌だったから
 文句を言っては逃げ回っていたのさ


 でもある時、こっそり城を出て
 街に遊びに行った時
 俺は見てしまったんだ

 

 変わり果てたこの国を




 俺が王様、王様とはやし立てられている間
 誰もこの国を統治するものがなく
 この国は荒れ果て 
 国民は苦しんだ
 この馬鹿な王様のせいでね



 俺と同じくらいの歳の子が
 パンを盗んでいたんだ
 そしてそれを家に持ち帰って
 小さい兄弟達に食べさせていたんだ


 
 俺と同じくらいの歳の子達が
 奴隷として売りに出されていたんだ
  



 全部、俺のせいなんだ
 俺が嫌な現実から目をそむけている間に
 他の誰かが苦しんでいたんだ
 他の人達が泣いていたんだ 



 だから俺は城に帰って
 猛勉強したのさ
 


 政治から経済、哲学に宗教
 城にある本を読みまくって
 勉強したのさ



 毎日、毎日
 


 それは馬鹿な俺にとっては
 大変なものだったよ
 何度も投げ出した
 何度も壁に本を投げ付けた
 何度も何度も
 俺を国王にしたことを恨んだよ
 


 
 俺が国王としてこの世界に
 生まれなければ
 他の人達は幸せに
 暮らせたかもしれないのだから




 そうして俺は
 たくさんの規則を見直して
 法律をまとめ直し
 そうしてこの国を立て直したのさ



 そうして今の国ができた
 



 前と比べるとだいぶ豊かになったよ
 俺と同じ歳の子供達が
 盗みをしたり
 売りに出されることはなくなった



 でも、それでも
 すべての人が幸せに
 暮らしているわけではなかった
 ほんの一部
 それでも
 確かにそこにいる人達
 



 それは、ほんのわずか
 それでも、俺の国民
 その彼らが苦しんでいた
 この馬鹿な国王のせいでね」




王様の話を皆は黙って聞いていた




「なあ、商人
 その服が見えるようになったら
 俺は彼らを救えるのかな
  


 俺がその見えない服を着れば
 俺は馬鹿じゃなくなって
 彼らを救えるのかな 




 きっと俺は皆から
 馬鹿な国王と思われているよ
 それはここにいる
 皆も知ってるよ




 それでもいいのさ
 俺は何と言われようともいいのさ
 



 でも、馬鹿であってはいけないんだ
 俺が馬鹿であるばかりに
 苦しむ人達がいるんだ
 だから俺は馬鹿ではいけないんだ




 だからその服を着よう
 その服で俺が守れない
 残りの国民を守ってみせよう」




王様がそう言うと
商人はその服をしまい
頭を下げて言いました



「私は間違っておりました
 私は相手を間違えた様です
 



 私の家はとても貧しい家でした
 今日、食べるものにも困るほどでした
 そうなったのもすべて
 馬鹿な国王のせい
 そう思っていました



 しかし、それは間違っていたようです
 この服を着るのは
 私の方でした
 だから持ち帰らせて頂きます」



そう言って頭を下げました




本来なら王様に無礼をはたらいた罪で
死刑でもおかしくはない
しかし、そんな商人に向かって
王様は言った



「実は俺も
 馬鹿には見えない服を
 持っていてな



 馬鹿な俺には見えなくて
 すぐに、どこにいったか
 分からなくなって
 困っていたんだ



 それも持って帰ってくれないか
 俺には不要のものだ



 俺が頭のいいメイドに頼んでおくから
 城の出口で受け取ってくれ」




その話を聞いて
誰もが王様の考えていることが分からず
不思議に思いました




商人は王様から直々に
物を頂けるなど恐れ多いと思い
断りましたが
王様は「命令だ」と言って
にこっと笑いました




そして商人は頭を下げて
その部屋を出て行きました


城の出口に着くまで
商人は王様の言ったことの
意味を考えていました


商人が城の出口まで来ると
王様の言った通り
賢そうなメイドが
コートを持って立っていました


「王様がこれを貴方にと」
そう言ってメイドが
コートを差し出しました



それは普通のコート
特に変わったところはありませんでした
しかしコートを持った瞬間に
ずっしりと感じた
その重み




なぜこんなに重いのだろうと思い
袖を通してみると
その重みの秘密はどうやら
コートのポケットにあるようでした



そして商人が両方のポケットに
手を入れると中から
たくさんの金貨が出てきました



「これは・・・」と思い
メイドの顔を見て尋ねると
賢そうなメイドは言いました




「これって、どれですか?
 馬鹿な私には何も見えませんが」



そう言って、仕事があるからと
頭を下げて、メイドは城の中に戻りました



なんということだ
本当に馬鹿なのは
王様ではなく
私の方だった


商人は城の門をくぐると
振り返って
もう一度、頭を下げて
ずっしりとした重みを
感じながら帰って行きました



Bump of chicken 車輪の唄
神様はこの世界を平和にする為に
僕を創り出しました



そんなわけはないけれど
本当にそうできるのなら
それがいい




僕は彼女をこの世界で1番幸せにする為に
生まれてきました



そんなわけはないけれど
本当にそうできるのなら
それがいい




僕は自分が生まれてきた理由も
自分が進むべき道も知らない
でも僕にとっては
使命とか自分の存在意義とか
そんなものよりも
目の前にいる人達を
幸せにする方が大切なんだ
自分らしく進んでいく方が
分かりやすいんだ




それが分かってるのに
見えるものよりも
見えないものを考えてしまうんだ
誰かに何かを与えるよりも
受け取ることを望んでしまうんだ





今まで僕は
生きていることが当たり前だった
愛されることが当たり前だった
物がある
友達が仲良くしてくれる
困ったら助けてもらう
話しをする相手がいる
平和な世界で暮らす
花がそこに咲いている
鳥が空を飛んでいる
太陽がそこにある
今日も健康に暮らす
そういうものが当たり前だった





だから僕が生まれてきたことも
進んでいくことも
存在することも
当たり前だった
だから僕は
それがそこにある理由を考えなくなり
自分の存在意義や価値観を忘れてしまった





でもそれらをなくしてしまえば
それらが当然ではなくなれば
僕は思い出すかもしれない
忘れてしまったものを







そうして僕は息を止めてみた
目を閉じて耳を塞いで
しばらくじっとしていた




するとそいつは確かに聞こえてきた
僕の体の奥底から





とても小さな音
だけどしっかり鼓動している音
確かにそこにあるのに
意識しないと聞けない音
僕の心臓が動いている音





僕は確かに生きていた
今ここで生きていた
それが僕が生きている
何よりの証





そうして僕は思いっきり息を吸って
前を見て歩き始めた




難しい事に縛られず
大切なことだけに目を向けて
進んでみようと思う

僕は確かに生きている



Dragon Ash - Viva la Revolution