僕が心臓のネジを巻く時 -11ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

その日も彼は夜遅くまで

自分の部屋で仕事をしていた

もうすっかり街の火は落ち

街の人々は夢の世界へと旅立っていた






なかなか仕事が片付くことなく

彼がコーヒーを入れ直そうかと席を立った時

風と共に彼の部屋の窓が揺れ

1匹の猫が彼の部屋に入ってきた





猫はおびえる様子もなく

彼の方に近づくと

彼の足に顔を擦りつけ

何かをねだった





どうやらお腹がすいたらしい

彼はコーヒーと共にミルクを温め

それをお皿に移すと

猫に差し出した

そして猫はおいしそうに

差し出されたミルクを飲み始めた





よく見ると、それはメスの猫だった

首輪も付けておらず

どこかで飼われている様子もなかった

野良猫だろうか

それにしては毛並みも良く

美しい猫だ

彼がそう思いながら優しく彼女の頭をなでてやると

彼女は甘えた様な声で鳴いた

そして彼女はミルクを飲み終えると

また、窓を通り抜け外へと出て行った





ただ、休みに来ただけか・・・

彼はそう思って

煎れたてのコーヒーを飲みなおし

また仕事に取りかかった






ところが、どういうわけか

その日から彼女は、いつも通り

決まった時間にひょっこり現れて

甘えた声で彼にミルクをせがんだ







「お前がどこから来て、どこに行くのか分からないが

 他に行く所がないんだったら

 ここにいてもいいぞ」

彼がその猫にそう言うと

彼女は意味も分からず

甘い泣き声をあげた

そしてミルクを飲み終えると

ひょいっと窓枠に飛び乗り

外へ出て行った

「やはり帰るべき場所があるのか」

彼は残念そうに彼女の姿を見送った







それからも彼女は度々、彼の下を訪れ

ミルクを飲んでは帰って行った

そんな彼女の為に彼はいつも

窓を少しだけ開けておいた

風の強い日も、凍えるような寒い日も

少しだけ窓を開け

彼女を待った






ところがしばらくすると

彼女は彼の所に全く顔を出さなくなった

おそらく良い飼い主が見つかったのだろうか

それとも元の飼い主の下に戻ったのだろうか

どちらにしても彼の下に現れることはなかった






そんなある日・・・

それはとてもとても寒い夜だった

彼は悪夢を見た







真っ暗な闇の中に落ちて行く夢だった

自分の立っていた所だけが急に崩れて

深い深い闇に落ちて行った

そしてそんな自分の様子に誰も気づくことなく

周りの時間は流れて行った

気付くと深い深い闇の底で

彼は長い時間、横たわっていた






落ちた時の衝撃で体はもはや

動かすことは出来なかった

あまりにも深い闇で

自分が元いた所すらも見えなかった

そしてそんな横たわる彼を遠くから

1匹の猫が見ていた

彼女だった





彼女は彼の様子を遠くから見ると

しっぽを向けて去っていった

彼はそんな彼女の様子を黙って見ていた





仕方ないか・・・

そう思った

しかし、彼女の後ろ姿が見えなくなり

しばらくすると

目から一筋の涙がこぼれおちた







どうしようもない

だから全て仕方がないことだ

そう、仕方がないこと・・・

全てが仕方のない事

そう何度、言い聞かせても

涙が止まることはなかった

悔しくて悲しくて寂しくて切なくて

どうしようもなくて

どうにもできなくて

この深い闇の中で

ただ1人であるかの様な思いが

彼を包み込んだ







それでも彼はかすかに動く手を伸ばし

見えなくなった自分の元いた場所をつかもうとした

しかし、それに届くことはなかった

そして今度は見えなくなった猫に向かって

手を伸ばし、そのしっぽをつかもうとした

しかし、やはりつかめることはなかった





届かないであろうことは

分かっていた

それでも手を伸ばさずにはいられなかった

それでもやはり

彼の手はそこには届かなかった






彼は力なくその腕を下ろすと

静かに目をつぶり

全てを終わらせようと思った

この深い深い闇の底で

誰にも知られることもなく

この物語を終えようとした

そして目を閉じた






しかし、その時

耳に何やら違和感を感じて

彼は目を開けた

そこは見慣れた自分の家の天井だった







どうやら夢から覚めたらしい






頭を動かして

横を見ると

猫が彼の耳をなめていた

彼が手を伸ばし猫の頭を優しく撫でると

彼女は甘えたような声で鳴いた





もうとっくに日が昇っていた

すっかりお腹をすかせた彼女が

甘えた鳴き声で御飯を催促しに来たようだ





彼はゆっくりと起き上がり

ミルクを沸かすと猫に差し出した

ミルクが差し出されると

待ってましたとばかりに猫はミルクに駆けより

それを丁寧にぺろぺろと舐め始めた







「お前、お腹が減っていただけか?

 それとも俺を悪夢から助けようとしたのか?」

そんな彼の言葉に耳を傾けることもなく

猫はミルクを舐め続けた

そして全てのミルクを飲み干すと

お腹一杯とばかりに

愛苦しい顔で彼を見た

彼はそんな彼女の顔を見て笑った





「まあ、いい

 どちらでもいい

 お前がここにいることには変わりない」






そう言えば、まだ彼女の名前を聞いていなかったと思い

彼は彼女に名前を聞いた

しかし、彼女が答えられるはずもなく

彼は自分の名前の一部を彼女に与えた

そして彼は彼女の頭を優しく撫でると

彼女に向かって言った

「お前も行きたい所があるだろう

 だから俺には引き留めることはできない

 でも、もしも、良かったら

 またここへ戻って来てくれないか?

 気が向いたらでもいいよ

 御飯を食べに来るだけでもいい

 毎日、出来る限り、お前の元気な顔を見せておくれ」

彼がそう言うと彼女は意味も分からず

甘い泣き声をあげた

そうしていつものように

窓の隙間からささっと出て行った






そうして彼は彼女の後姿が見えなくなると

その日の仕事に取り掛かった







しかし、どういう風の吹き回しだろうか

その日から彼女は彼が眠りにつく時を見計らって

彼のベッドに潜り込むようになった

それまでは朝晩問わず

どこかをほっつき歩いていたのに






ただ帰る場所がなくなっただけかもしれない

ただ行く所がないだけかもしれない

しかしそれでも彼にとっては嬉しかった






彼女は彼の布団に潜りこむと

すやすやと寝息をたてて

眠り始めた

そして彼もまた

そんな彼女の温もりを抱きしめながら

幸せそうな寝顔を見て

すらすやと眠る彼女の寝息を耳に

眠りについた






Angela Aki - This Love
ある時から彼には1つの夢があった

彼はその夢に向かって走り続けたものの

力ない彼は、いつまで経っても

その夢に届きそうになかった





だから彼は悪魔と契約し

望んだ力を手に入れた

悪魔は彼と契約する時にこう言った

「生まれ変わって新たな力を望むのなら

 今までのお前を捨てなくてはいけない

 今、お前が持っている全てのものを差し出すなら

 代わりに大いなる力を与えてやろう」









そして彼は、手に入れたその力を使って

彼が望んだ世界を手に入れた

しかし、その世界を手に入れた時

彼はふと思った





僕はこの世界を手に入れて何がしたかったんだろう・・・。






気付くと誰かが彼の方を見ていた

それは小さな女の子だった

とても悲しそうな顔をして

彼女は彼の方を見ていた







彼が近づいて行って

なぜ悲しそうな顔をしているのか尋ねると

彼女は「あなたはきっと大切なものを失ってしまったから」と言った






彼は自分が望んだ世界を手に入れた

だから彼は大切なものを失ったどころか

手に入れて満足するはずだった

でも、この満たされない気持ちはなんだろう・・・

彼は思った






彼は彼女に尋ねた

「僕がなくした大切なものが何か
 
 君は知っているのかい?」

彼女は悲しそうな顔をしたまま首を振った







僕は何をなくしたのだろう

僕がなくした大切なものとはなんだったんだろう







彼はどう頑張っても

自分がなくした大切なものを

思い出すことが出来なかった

だから彼はもがき苦しんだ

力があればすべてが手に入ると思っていたのに

すべてが手に入った今、

それが間違いだったのではないかと思い始めた







彼は手に入れた力を使って

自分を傷つけて大切なものを取り戻そうともがいた

そんな彼の様子を見て彼女は

さらに悲しそうな顔をした






彼女にも彼を助けることは出来なかった

ただ黙って彼が苦しむ様子を見ているしかなかった

でも、とうとうそれも限界に近付いてきた

自分に向けられた、あまりにも強い彼の力が

彼の心と体を粉々に砕き始めた






だから彼女は彼に黙って

悪魔の所へ言った

そして彼女は悪魔と取引をした







そうして彼女は彼の全てを取り戻し

それを彼に与えた

彼がそれを手にすると

彼は全てを取り戻し

そして彼は思い出した

大切なものが何だったのかを







彼の大切なもの

それは目の前にいた彼女そのものだった

彼は彼女に出会った時から

彼女に見せてあげたい世界があった

それは彼女が見たいと望んだ世界だったから

だから彼はその世界を彼女に見せてあげる為に

走り続けた

しかし力なき彼はその世界に手が届かなく

悪魔と契約を結んだのだ






それを思い出し

ついに望んだ世界と大切なものを手に入れた彼は

目の前にいた彼女の手を取り

彼女が望んだ世界を見せてあげようとした

しかし、彼女にはその世界を見ることは出来なかった

なぜならば彼女は悪魔との取引で

自分の光を差し出したから






悪魔は彼女に言った

「彼の大切なものを望むのなら

 代わりに、かつてお前が望んだものを差し出せ

 お前が望んだ世界を差し出せば

 彼の望むものをやろう」





だから彼女は自分の目を差し出し光を失った

そうして彼女は自分が見たかった世界を失った






彼がそれを知り大いに嘆き悲しむと

彼女は彼の手を握り返し微笑んで言った

「例え私の望む世界を失ったとしても

 私にはあなたがいるから

 だからそれだけで十分だよ

 だって、それが私の大切なものだから」

 




彼女は続けた

「大切なものと望むものは

 時として、違うもの

 大切なものを守る為には

 自分が望むものを捨ててしまっても

 きっと幸せになれるから

 だからこれでいいんだよ

 私はこれで幸せだから」

 




そうして2人は望んだ世界で

大切なものを手に入れました






音のない世界 My Little Lover PV
北の大地

荒れ果てた土地

花も咲かないような極寒の地で

女の子が1人、種を蒔いていました




来る日も来る日も

彼女は明日を信じて

花の咲かない大地で

種を蒔き続けました

一体どれだけの種を蒔けば

芽が出て花が咲くのでしょうか

一体どれだけの種が

芽を出すことなく枯れていったのでしょうか




彼女は思いました

やはり自分には無理なのだろうか・・・





それでも諦めずに彼女は働き続けました






そんなある日、彼女の下に1人の商人が現れました

商人は彼女に言いました

「私は星を売っています。

 お1ついかがですか?」





最近、星を見てないなぁ

そう思った彼女は星を1つ買う事にしました

しかし、彼女には

星を買うだけのお金がありませんでした

それを商人に言うと

彼はこう言いました

「それでは貴方が育てている花と交換しましょう

 お代はそれで結構です」





しかし、もう何度も種を蒔いたのに

芽すら出ません。

まして、花など咲く気配すらありません

だから彼女は商人に言いました

「それでは何年かかるか分かりません

 もしかしたら一生、咲かないかもしれません」






それを聞いて商人は言いました

「それでも構いません

 私は貴方を信じて待ちましょう

 貴方が花を咲かせる時を楽しみにして

 私も旅を続けます

 そしていつか、私がまたここを訪れた時

 花が咲いていれば、それを私にください」





彼女は少し困惑していましたが

商人は袋を開けると中から星を取り出し

笑顔で彼女に渡しました





「ありがとう」

笑顔で彼女がそう言うと

商人が話をしました

「知っていますか?

 人が星を見る時、
 
 同時に希望や願いを込めます

 しかし、何かに一生懸命に生きている人ほど
 
 星は見ないものです

 なぜならば違うものを見ているからです

 それが何か分かりますか?」





彼女が少し考えて首を振ると

商人は笑顔で答えました

「それは未来です

 未来を見ているのです」

それを聞いて彼女はにこっと笑いました





そして彼女は商人からもらった希望を胸に

商人は彼女がいつか咲かすであろう未来を胸に

それぞれの明日に向かって歩き出しました





「それでも明日はやってくる」鈴木結女