版木は用いられた「木の素材」によって特徴が異なります。浮世絵の時代には硬くて精緻な彫りに適した山桜が使われましたが、今では希少で高価なため桂や朴の無垢板に。
多くの版木を使う多色摺りや大きなサイズが必要な場合は、合板材のシナベニヤが重宝します。扱いやすく手頃な価格ですが、難点は「微細な彫り」には向かないこと。
細心の注意を払って彫っていても、大事な箇所がポロッと欠け落ちてガックリ。仕方なく接着剤で修復したりしますが、摺りの工程で剥がれるかもと不安が残ります。時には予防措置として、水で薄めた木工用ボンドを版木に染み込ませる方法も。
自然由来の版木には、一枚一枚に「個性的な顔」があります。紙ヤスリで研磨しながら、柾目か板目か、順目と逆目の方向、年輪や節の形状を見つめ、図柄の配置、彫刻刀の入れ方、絵の具の乗り具合等を尋ねます。まるで「版木と語り合うか」のように。
版画家にとって、版木は絵筆そのものです。作品の出来映えは「版木の活かし方」次第。
版木それぞれの「味わい深い木理」を眺めながら、思いを巡らせる毎日です。