国際ロマンス詐欺被害のリバウンドの可能性を低減-ポジティブな代替思考

 

ダイエットだけではなく、喫煙や薬物の乱用などの習慣を克服する行動にもリバウンドがあります。

そして国際ロマンス詐欺でも『リバウンド』があります。

金銭被害のあるなしに関わらずよく知られた手口で同じまたは異なる詐欺師に引っかかる人、詐欺師が使っていた写真の人にコンタクトをとり、不愉快な思いをする人など。詐欺被害者を支援する人(支援団体やカウンセラーだけではなく、被害者の家族・友人等も)は、被害者に『詐欺師との関係を断ち切り、写真の人のことも思い出さないように』とアドバイスするでしょう。しかしそれがかえって逆説的効果を引き起こしてしまうのです。思考を抑制されるとかえってそのことを考えてしまう、これを皮肉過程理論といいます。(https://ja.wikipedia.org/wiki/皮肉過程理論

 

未練型コーピングで『失恋』に対処しようとする詐欺被害者に『詐欺師のことを考えない』『写真の人のことを考えない』と言うと、本当は望んでいない「思考の抑制」を受けたことになるかもしれません。

 

 

少し古い論文ですが2004年の教育心理学研究に載せられていた論文に『望まない思考の抑制と代替思考の効果』というものがあります。この論文によると、ポジティブな代替思考を与えられると単純抑制をされたグループに比べて抑制中の思考数や主観的侵入試行数が低減していた。ネガティブな代替思考を与えられると単純抑制をされたグループと同様に高い深い感情を持ち、試行数の低減や主観的侵入試行数の低減が見られなかった。代替思考は逆説的効果を防ぎ効果的な抑制を促すがその思考内容に注意をはらう必要があるとされています。

 

また、同じ方の2005年の論文では個人が持つ抑制スタイル(思考を徹底的に頭から締め出す積極抑制スタイルと、侵入思考を受け流す受動的抑制スタイル)による逆説的効果の違いを報告しています。この論文によると、積極的抑制スタイルを持つ者がかえって逆説的効果を生み出したのに対して、受動的抑制スタイルは逆説的効果を生じさせていなかった。また、抑制時に代替思考を用いた方略使用抑制を用いた場合、逆説的効果が見られませんでした。

 

思考を抑えようとするとかえってその思考が増大し、反芻拘泥を長引かせ、感情状態が悪化することで心身の健康を脅かす結果になります。一方で、詐欺被害者が詐欺師や写真の人のことを考え続けるならば、トラウマからの回復は遅れます。

 

失恋コーピングの方法を変えようと努力している被害者であれ、家族や友人や助言をする第三者であれ、国際ロマンス詐欺被害者がリバウンドしないように助けるには、ポジティブでかつ考えが元に戻らないような代替思考を被害者の思考の中に入れられるようにする必要があるということでしょう。

 

精神医療や心理学の視点からのプロフェッショナルなカウンセリングは専門家が行なうものです。ここで具体的にどういう方法をもって代替え思考を被害者に提供できるかについては論じません。一般論的に言えば、現実社会において繋がれる家族や友人とのつながりを被害者が修復し、それらの人々との健全で楽しい交友に注意を集中できるならばプラスな効果を見出せるかもしれません。

 

しかし、メンタルな問題を抱えている場合や自殺願望などがある場合、素人考えでの「気分転換」はあまり効果がないかもしれません。その場合、心療内科の医師やセラピストからのアドバイスを受けることがベストでしょう。

 

気分転換 リラックス

 

 

参考資料

木村 晴 (2004). 望まない思考の抑制と代替思考の効果. 教育心理学研究2004、52、115-126

木村 晴(2005). 抑制スタイルが抑制の逆説的効果の生起によ及ぼす影響. 教育心理学研究 2005、53, 230-240