国際ロマンス詐欺被害のリバウンド

 

リバウンドというと、ダイエットのリバウンドを思い起こす方が多いと思います。リバウンド(rebound)とは英語で跳ね返るという意味で、ダイエット以外でも使われます。

 

Wikipedia "リバウンド  ---------------------------

 

バスケットボールでシュートミスによってゴール版やリングにはじかれたボール、あるいはそれを取ること

アイスホッケーで、ゴールキーパーが弾いたパックを取ること。これを攻撃側の選手が叩き返すことを「リバウンドショット」という。
ダイエットで、体重を落とした後に元の体重に戻ってしまうこと。
反跳作用(リバウンド作用) - 臨床医学で、服用している薬を止めると症状が再発したり以前より悪化すること。
リバウンド (交際) - 現象学的社会学で、恋愛関係が解消された後、その関係を未練なく過去のものとするために積極的に新しい交際を模索する期間、あるはその対象のこと。

 

--------------------------------------------Wikipedia より引用終

 

 

国際ロマンス詐欺でも『リバウンド』があります。

● 詐欺師と関係を断ったあと罪悪感から相手とのコンタクトを再開し、さらに騙される結果になる

● 詐欺師との関係を断ったあと、次の恋愛対象を同じような経路からの新しい関係を期待する。そして2回目・3回目の国際ロマンス詐欺被害を『別の詐欺師』(但し同じ詐欺団の場合もあり)から受ける結果になる。

● 詐欺師とのコンタクトは断ち切ったが、写真の人を想うあまり写真の人とコンタクトを取ってしまい、ストーキング的行為に走る。

 

実際、金銭被害のあるなしに関わらず、同じ手に引っかかり、相談して来られる被害者の方がおられます。(以下は、複数の方から聞いた話を統合して脚色しています。特定の方から言われた内容ではありません。)

  • 詐欺師との関係を断つようにアドバイスした方⇒『実はあの後まだ相手とやり取りをしていたのです。そして私がFBIのブラックリストに載せられているため、弁護士にお金を送る必要があると言われ、送金してしまいました』
  • 知らない外国人をSNSで承認しないようにアドバイスした方⇒『また知らない外国人から友達リクエストがあり、承認してしまいました。今度は軍人ではなくてエンジニアなので大丈夫だと信じていました。しかしインドネシアの税関から荷物が保管されていると言われ送金してしまいました。』
  • 国際ロマンス詐欺の手口をよく覚えてとアドバイスした方⇒『今お付き合いしている方なのですけれど、この方がシリアで軍医をしていて云々…この方も詐欺でしょうか?』(国際ロマンス詐欺の手口を学習していない)
  • 写真の人とコンタクトとらないでそっとしておいてと伝えた方⇒『写真の人に「写真が詐欺に使われている」とお伝えしたら速攻でブロックされました。どうすればいいでしょうか』(写真の本人にコンタクト取らないでといったのに写真の人にコンタクト取ったため写真の本人から嫌がられた)

『詐欺師との関係を完全に断ち切って、写真の人への後追いもしないことです。この種の詐欺の手口をよく学んでおいてくださいね』と忠告してもリバウンドしてしまう詐欺被害者が存在するのはなぜなのか。

 

『思考を抑制すると、逆にそのことが頭から離れなくなり、結果として被害のリバウンドを引き起こしてしまうからです。これを皮肉過程理論といいます。(https://ja.wikipedia.org/wiki/皮肉過程理論

 

 

思考を抑制するとかえってそのことを考えてしまうという傾向については様々な研究がなされています。有名なのがシロクマの実験です。

 

アメリカの心理学者ウェグナー氏らのグループは、被験者にシロクマの一日を追った同じ映像を見せました。そして被験者A,B,Cの3つのグループそれぞれに:

グループA: シロクマのことを覚えておくように伝える

グループB: シロクマのことを考えても考えなくてもいいと伝える

グループC: シロクマのことだけは絶対に考えないように伝える

一定の時間が経った後にシロクマの映像について最もよく覚えていたのが『絶対に考えないで』と伝えられていたグループCでした。

 

 

国際ロマンス詐欺被害者が自ら抑制して詐欺師のことを考えないようにしたり、写真の人のことを意識的に考えないようにする場合もあるでしょう。また周囲の人(例えばバーチャル浮気を許してくれた配偶者や、お金の喪失に関して寛容になってくれた親族)が詐欺師や写真のことを過度に考えないようにと協力してくれる場合もあるでしょう。また、サポート団体のボランティアも詐欺師や写真の人と接触することをしないようにとアドバイスします。それが上手くゆく場合もあります。一方で、抑制が結果としてリバウンドになってしまうことも。

 

詐欺師を後追いしたり、同じような出会いや感覚を求めて同じ手口に引っかかったり、あるいは写真の人を想い続けてストーキング的な行動をすることには注意を促し、写真の人にコンタクトを取るべきではないことは伝える必要があります。詐欺師や写真の人に固執するなら被害のトラウマから抜け出られないため、被害からの精神的回復が長引くのです。(次回に続く)

 

 

Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. (1987). Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology, 53, 5–13.
Wegner, D. M., & Zanakos, S. (1994). Chronic thought suppression. Journal of Personality, 62, 615–640.