メッセージやメールでご相談くださる国際ロマンス詐欺被害者の方にも、私のブログ記事でも、いつも『詐欺師をブロックしてください』とアドバイスしています。本当にその通りになさる方もおられますが、そうできない方々もおられます。一度ブロックしても、再度ブロックを解いてしまう方もおられる。『ブロックしました』と仰るので信じていたら、しばらくしてから『詐欺師に脅されています、どうすればいいですか?』とご相談いただいたこともあります。話をよく聞くと、やはり言われた通りにブロックなさっていなかった。被害者の方々のお気持ちは分かりますが、結局は犯罪グループと繋がり続けることになんの益も得られないのです。

 

『XXXを見てはいけません』と言われると『見たくなるのが人の傾向』です。1980年に公開された米伊合作のローマ皇帝カリギュラの話を映画化した作品があまりにも過激な場面が多いため、上映地域が制限されたそうです。それがかえって人々の関心を引いたということから、「見るな」と言われるとかえって見たくなることを『カリギュラ効果』といいます。

 

『見てはいけない』と言われて『見てしまった』というお話は神話や伝説、昔話、宗教書などでいろいろ語られています。ここで宗教談義や比較文化論などを論じるつもりはなく、『なぜこの人は見てしまったのか』ということを『国際ロマンス詐欺の被害者』が『ブロックしてください』といわれても相手の詐欺師をなかなかブロックできないことに結び付得て考察しました。宗教的・文化的解釈や細かい意味合いではなく、「動機」に焦点を当てていますので、各ストーリーに伴う『教訓』とかについては詳しく触れません。

 

最初はギリシャ神話のパンドラです。リブログしましたのは、新川てるえさんのブログ、『パンドラの箱を開けてもあの日には戻れません』

 

1) パンドラ … 好奇心は誰でも持ってる

 

物語:-------------------

プロメテウスが天界から火を盗んで人類にもたらしてしまいました。それに怒ったゼウスは人類に災いをもたらすために『パンドラ』という女性をつかわすのです。パンドラの名前の意味は『すべての贈り物』。女神アテナは機織りや女性のする仕事の能力、美の女神アフロディーテからは美など、様々な能力や魅力を神々から与えられます。そしてパンドラは『決して開けてはいけない」という壺(箱)を与えられ、その後で大神ゼウスから『好奇心』を授けられるのです。そしてパンドラはプロメテウスの弟エピメテウスの元へ送り込まれます。

 

エピメテウスは兄から『ゼウスからの贈り物は受け取るな』と言われていたにも関わらずパンドラと結婚します。エピメテウスが出かけていないときに、パンドラは好奇心に負けてこっそり箱を開いてしまう。すると、そこから様々な災い、疫病、悲嘆、欠乏、犯罪などが飛び出し、蓋を閉めたときに最後に残ったのが『エルピス』。このエルピスをしばしば「希望」と訳されていますが、「予兆」とも解釈が出来ます。(したがって最後に残った『エルピス』が必ずしも好ましいものだったとは限らない。) この箱を開けたことで、世界に様々な災厄に満ち溢れるようになったということです。そして『予兆』が箱の中に残ってしまったために、災いの予兆が現れない、つまり人類は災いを予測できないのです。

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パンドラはなぜ箱を開けてしまったのか…それは好奇心からでした。

 

パンドラは箱を与えられてから、「好奇心」が授けられました。そしてそれは、プロメテウスが火を広めたことへの報復としてゼウスが仕込んだもの。つまりはパンドラの『好奇心』が必ず箱を開けて、人類に災いを開放してしまうことをゼウスは知っていたのです。従ってパンドラが示した好奇心というのは誰でも人間が持ち合わせているものでした。

 

昔話で『見るな』とか『してはいけない』と言う人は、神様とか天使とか、支配者や年上の家族や配偶者だったりします。つまり、『いうことを聞かたかったら大変なことになる』ということを熟知している人々。パンドラに箱を開けてはいけないと言ったのは神々でした。そしてエピメテウスに『ゼウスからの贈り物は受け取るな』と言ったのはエピメテウスの兄のプロメテウス。自分より知識や経験のある人の言うことを聞かないで禁止されていることをしてしまうことで問題が生じるというのが、神話や経典や昔話で描かれている『見るなのタブー』の教訓です。

 

国際ロマンス詐欺において、『詐欺師との接触を断って、ブロックして関わらないようにしてください』と私や他の警告活動する人の多くがアドバイスする根拠は、やはりこういう問題を熟知している人々(例えば海外のRomancescams NowとかRomancescam.comの主催者・アドミニストレーター等)からそのようにアドバイスされ、そのアドバイスが道理にかなっていると判断しているからです。また、私自身も被害者の方々にアドバイスを続けている過程で被害者の方々からの実際の経験をお聞きしたりしたことからも、自分が聞かされていたアドバイスが『正しい』と確信できるからです。

 

『接触を断って』というアドバイスに従うことが難しいと考えてしまう場合、もしその動機がただの『好奇心』だけなのであれば、相手が尻尾を出したら『やっぱりね』で済ませて、何も問題もなく終わるかもしれません。しかし相手の詐欺師を好きになってしまっている被害者には、それ以上のことが心の奥底に潜んでいます。それは次のお話でゆきましょう。

 

Wikipedia『見るなのタブー』