では、具体的にガスライティングにどのような手法があり、それが国際ロマンス詐欺においてはどのように利用されているのかを見てみましょう。Exciteニュースの「わざと誤った情報を流し人を混乱に陥れる心理的攻撃「ガスライティング」を仕掛けるひとが使う11の方法」という記事を参考にしました。

 

ガスライティングを仕掛ける人が使う11の方法:

1. わざとあからさまな嘘を吐く

2. それまでの発言を否定する
3. あなたの身近なもの、大切なものを武器として利用する
4. 時間をかけて徐々に陥れる
5. 行動と言動が一致しない
6. ポジティブな強化で混乱させる
7. 混乱させれば弱らせることができると知っている
8. 投影する
9. 人々があなたに反感を持つよう仕向ける
10. 周囲の人々にあなたが狂っていると吹き込む
11. 周りの人間は誰もが嘘つきだと言ってくる

 

この中から、国際ロマンス詐欺でよくみられる傾向やあり得そうな手口は、以下の点が挙げられます。

 

1. わざとあからさまな嘘を吐く
 見え透いた嘘をつくこと、それを真顔で言うこと。もちろん詐欺師は嘘つきなので真顔で嘘をつくわけですが、時として明らかに嘘だってわかることが出てくるかもしれません。例えば上級大将のポジションにいる人がジープを運転してパトロールなどするでしょうか。

 一度大ウソを吐いたら、受け手はそれが本当なのか嘘なのかわからなくなってきます。その混乱が彼らの狙いです。

 

2. それまでの発言を否定する
 一度行ったことを否定する。国際ロマンス詐欺ではしばしば被害者が経験するかもしれません。何とか難を逃れた送金していない被害者の方には、「Aといったのに次にはAを否定してBと言って来たり、矛盾だらけだからおかしいと気づいた」と仰る方がおられます。この段階で気が付いていれば良いのですが、このようなことが積み重なると、どちらが本当だったのか被害者は自信を持てなくなる。

 

 被害に遭ってない人同士でこのような矛盾を詐欺師がいうのは、彼ら詐欺師がバカだからだと言って笑いのネタにします。しかしよく考えてみると、はまってしまった人にとってはガスライティングになり得る。例えば子供の数などを2人と言ってたのに、しばらくしてから病気になった子供がたった一人の息子だと言って来たり、一度言ったことを否定し、そのようなことを言っていないと否定。

 「ジェフの女」さんという被害者の方のブログにこの典型が描かれていました。

(1)電話で写真が送れないエラーが出るとジェフ(詐欺師)がいう。去年NYで買ったのだといった。しかし最近、海外出張で電話を紛失し、新しく買ったといって新しい電話番号を詐欺師が教えてくれたことを被害者さんは記憶していた。

(2)被害者さんがモラハラのカウンセリングを受けた日、詐欺師に「あなたのカウンセリングはどんなだったの?」とたずねた。そうすると、ジェフ(詐欺師)は「カウンセリングなんて行かない、ハニーが勘違いしいている」という。実は前に被害者がチャットしたときは、別れた妻の浮気が原因で離婚した時に女性不信になったと言ってその時カウンセリングを受けた」と被害者に伝えていた。

「ジェフの女」さんは「ジェフ」が言っていたこと(電話のことやカウンセリングのこと)を覚えていました。しかし、「ジェフ」はそのことを否定。このようなことが重なると、被害者は現実に自信を持てなくなってきます。そして、相手の言うことを信じるようになってしまう。幸い、この方はお友達のアドバイスがある前に「おかしい」と気が付いて、少しずつ疑いの芽を成長させることが出来ました。

 

4. 時間をかけて徐々に陥れる
 ガスライティングは語源の映画と同じように時間をかえてじわじわと被害者を貶めるものです。偽の情報…詐欺師の言うことはみな嘘ですが…をサイバー空間の密室で吹き込まれ、蓄積してゆく。そうすると、「おかしいな」という感覚がマヒしてゆき、相手の言うことを信じられるようになる。国際ロマンス詐欺被害で出会いから送金までの時間は様々です。2,3週間の短期間で送金要求が出てくる場合もありますが、長いものになると半年から1年以上送金要求もなく、「いい人」を演じた後に送金させる手筈を整えるケースもあり。

 

5. 行動と言動が一致しない
 ガスライティングを仕掛けてくる人の行動と言動は一致しません。「何々する」と言っても実行しない。「ジェフの女」さんのブログにもこのような話が書かれていました。詐欺師の側は被害者が連絡取って来なかったりチャットに応えないと怒る一方で、詐欺師のほうはSMSに応えなかった理由を「オリンピックを見ていた」と言いわけする。


6. ポジティブな強化で混乱させる
 送金しなかったり、あるいはチャットに応えなかったなどという状況が生じると詐欺師は被害者を責めます。被害者は自分がひどいことをしてしまったのだろうかと苦しめられる。その一方で、甘い言葉と称賛の言葉を連発。詩のようなメールを送ったり。

 お金をとったり、チャットに応えなかったことで激怒したりした後でこのような賞賛の言葉を与えることで、被害者は「相手は悪い人ではないんだ」と考え直すようになる。このようにして被害者は現実に自信を持てなくされてゆく。

 

7. 混乱させれば弱らせることができると知っている
 ロマンス詐欺師がいう矛盾した事柄が、本当に意識してやっていることなのか、それとも経験的に学び取ってるものなのかは定かではありません。しかし、情報を混乱させることで被害者が正常な感覚を失うことを熟知していることは確かでしょう。以前は、矛盾したことを言う詐欺師はバカだからだと思っていましたが、このような心理学的な記事を読むと必ずしも矛盾した情報を被害者に与える詐欺師はバカではなく、心理学的に人間を操作する術を持っているのではないかとも思います。


8. 投影する
 問題は詐欺師のほうにあるのに、被害者のせいであるとして非難する、これを投影と言います。

作り話の中で発生する投影。それは例えば、送金した被害者が詐欺師にお金を返してほしいという。「ジェフの女」さんのブログにもありますが、詐欺師は被害者が自分を理解してくれないみたいなことを言い、被害者の心ない態度で傷ついたという。お金をだまし取った詐欺師のほうが悪いのに、いつの間にか「被害者が理解してくれない」という話にすり替えられて被害者が悪いという流れにされてしまうのです。何度も繰り返し非難されると、被害者は自分を弁護しようとするので、加害者の行為から注意がそらされる。


10. 周囲の人々にあなたが狂っていると吹き込む
 これはガスライティングの行為者にとって最も有効な武器の1つと言われています。国際ロマンス詐欺ではこのようなことはないと思っていましたが最近は変態な合成写真を作ってSNSの被害者の友達にばら撒く詐欺師がいるとの報告も受けたので、このような合成写真をばらまいて「こいつはおかしい」と言いふらされる可能性は無きにしも非ずです。変態写真をばらまかれてしまうと、周囲の人に自分が可笑しな奴にはめられていると訴えても信じてもらえなくなる可能性もあるかもしれません。(まだその事例は報告されていません。)

 

11. 周りの人間は誰もが嘘つきだと言ってくる
 被害者の現実をぐらつかせる手段の一つとして、周囲の人間が皆嘘をついているということが挙げられます。これは例えば、家族や友人が「あなたのお相手は詐欺師じゃないか」と疑いをさしはさんだり、あるいはたまたまテレビやネットや新聞などで「ロマンス詐欺とは」といった報道を見たとする。被害者は「本当のところはどうなの?」と、詐欺師に相談してしまう。当然「自分は詐欺師だ」などというはずもなく、詐欺師はあらゆる言い訳をして自分が詐欺師ではないことを主張し、家族や友人、ニュースなどが間違いなのだと吹き込まれる。実は相手が詐欺師ではないことを願っている被害者は、ここで現実のぐらつきが生じる。ニュースの報道や、友だちが見せてくれた詐欺情報提供サイトの記事、もしかするとAntiscam団体が出してきた「同じ手口の事例」など全てが信用できないと被害者は判断して詐欺師が正しいはずだと信じてしまうわけです。

 

 ガスライティングは被害者の精神状態を錯乱させて、ガスライティング行為者の言うことしか信じないように仕向けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

参考資料:

Wikipedia 『ガスライティング』

Excite News:わざと誤った情報を流し人を混乱に陥れる心理的攻撃「ガスライティング」を仕掛けるひとが使う11の方法