お友達や親族が詐欺にあっている。どうすればいい? と、時々ご相談いただきます。すでにあの手この手で「証拠」を被害者の方に示され、それでも拒絶される。親族だったら、ある程度強硬手段には入れるでしょう。例えばウェスタンユニオンや銀行に親が海外送金できないように手を打つなど。

 

しかし友人やつながりの薄い親族になると、そこまで強制力を働かせることは無理です。そうなると、被害者の方が究極の悲劇に陥って自分で気が付くまでるまで何もできません。きっと、SNSをブロックされたり、メールや電話を拒否されたりするでしょう。近所の人だったら、訪ねてきても被害者の方が居留守を使って出てこないかもしれない。

 さて、ここから被害者さんに焦点を当てます。

「何かの間違いに決まっている」「こんなにいい人が悪いことするはずがない」「疑いをかける人のほうがどうかしている」とカモにされた被害者の方が思われるのはもっともです。

 

注意をしてくれた友人や親族を「人を信じることは大切」「何も確かめないで人を詐欺師呼ばわりするような人は友達ではない」と拒絶される被害者の方もおられます。

 

例えば、詐欺被害者の方が大事にしていた詐欺師である恋人に少し疑いを抱き始めたとしましょう。例えばお友達から「あなたの彼氏、なりすましじゃない? このサイトに写真が載ってる」と、疑いを投げかけられる。被害者の方は詐欺師を固く信用しているので、「本人に確認」するという「大人な方法」をとる。

 

「友達のAさんがXという名前であなたの写真を使ったフェースブックを見つけたけれどどういうこと?」「友達のBさんがあなたの写真を詐欺情報掲載サイトで見つけたっていうの。これはどういうこと?」などと質問したら、詐欺師はどうこたえるでしょう。当然ですが自分は詐欺師だなんて、詐欺師がカモに言うはずもないです。

 

「僕の写真が勝手に誰かに使われてしまったんだ」とか、「友達がいたずらで勝手にフェースブックのアカウント作ったんだよ」とか、「そうだよ、あのサイトにあるのは僕の写真だ。もちろん僕は本物だよ。そして意地悪な友達がいたずらで僕の写真を載せてしまったんだ」などと理由を説明してくれるかもしれません。何となくもっともらしく感じられるかもしれません。たとえ相手の金銭要求の手口が複数のAntiscamサイトやFBIの注意喚起に書かれているものと全く同じであっても。

 

さらには、詐欺師は「自分が疑いをかけられて被害をこうむっている」みたいなことまで説明してくれるかもしれません。そして、詐欺師は被害者にAntiscamサイトに代わりにクレームするように頼んだり、Antiscam活動をしている人のアカウントをSNSの運営団体に訴えて削除してもらうよう依頼してくることもあるでしょう。

 

しかし、よく調べてみると、例えば相手が写真を使い始めたのはごく最近。その写真を最近のものと言い切っている。しかし詐欺情報サイトには同じ写真が2007年から存在している。そうすると、「誰かのいたずら」で詐欺情報サイトに掲載されたってことは考えにくいですね。

 

あるいは、「写真の本物の人」を友達が見つける。その「本物の人」は既婚で、奥さんと肩を組んだ仲睦まじい写真をカバーに使っています。詐欺師はバツイチで5年前に不貞妻と別れたと言っている。被害者が「あなたのフェースブックを見つけたわ。なんで女性と一緒の写真をカバーに使っているの?」と聞けば、詐欺師は「古いフェースブックだよ。あれは元妻とまだ一緒だった時に撮った写真だよ。今はログインできないんだ」などと説明してくるかもしれません。被害者はそれを固く信じる。実際に日付を見てみると、写真は一カ月前のもので、2年前に離婚した妻と一カ月前に肩を組んで写真撮ってるってあり得るのか?? なんて感じかもしれない。それでも被害者は愛を信じてしまうのです。

 

被害者の方で実際にいろいろ調べられる方もおられます。そして、相手が詐欺師だと判断できた方も少なくないと思います。しかし「相手を信じたい」という気持ちが強いと、調査も甘くなる。彼が本物だという理由のほうを探したくなるでしょう。例えば見つけたYoutubeのビデオの写真の人の声が電話の声に似ていたと思って、「彼は本物だ」と信じてしまう。たとえ写真の本物の人がごく最近結婚されて結婚式の写真までフェースブックに載せていたとしても。

 

友達や親族からオンラインで交際している外国の大切な友人について疑問を投げかけられた場合、詐欺師のほうを信じれば気持ちは楽になります。「人を信じるのは大切」「人を疑ってはいけない」なんて言葉をフェースブックに貼り付けて、とても清々しい気持ちになるかもしれない。そして注意してきた友達や親族の言うことを受け入れたら、非常に苦しくなります。

 

今月後半、Dr Phil Showの番組を続けて紹介しますが、この番組でロマンス詐欺を扱った回でも、番組中で被害者の方に相手が詐欺師であるという証拠が突き付けられ、最初は自信たっぷりで疑いをかける成人したお子さんや親せきを論破する意気込みを見せていますが、後半になってくると被害者は苦しみ、涙を流します。この苦しみって、実は回復に向けるプロセスにおいて大切なのかもしれないと思いました。友達や親族の忠告を受け入れることは苦しく、そしてプライドをひどく傷つけられる結果になるかもしれませんが、それは一時的なことです。お金を失えば、それによる苦痛は一生ものです。だから、ネットで知り合った恋人に対して友人や親族から疑いを投げかけられたら、是非一時的な苦痛である友人や親族からの忠告を受け入れてほしいなと思います。苦しいのは一時的ですから。お金が無くなって借金だらけになり、詐欺師からも棄てられた後の人生、想像してみてください。

 

友人や親族の言うことを聞かず、大金を奪われたとおっしゃる、ハンドル名「田吾作」さんという方のブログがあります。大金をアフリカの詐欺師にだまし取られ、本当につらい思いをされて、ロマンス詐欺の被害を受ける人を減らせればと思い、死ぬほどつらい気持ちをこらえて書かれているようです。あまり苦しくて、ブログが続いていないようです。でも、彼女が書かれた部分まで読んでも、この種の詐欺の恐ろしさがよくわかります。

 

もし、ネットで知り合って実際に会ったことのない「大切な恋人」が詐欺師だと誰かに言われて、少しでも疑いは持ってみたものの相手を信じたいと強く心に決めて、そしてAntiscam活動している人々を批判的に思われている方おられましたら、是非「田吾作」さんのブログをお読みになって下さい。ブログの執筆が続かなくて、完結していないストーリーのようですが、それがあなたの数年後の姿であってほしくないと田吾作さんも望んでおられるでしょう。

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