24-4-17(水)

 今年度に入ってから、火曜日の深夜番組(TBSのドラマ・ストリームという枠であるらしい)で『からかい上手の高木さん』(月島琉衣、黒川想矢主演)という番組をやっているらしい。(らしい、と書いたのは、リアルタイムで見たことは一度もないからである。毎年この季節(季節の変わり目)には身体(特に足先)の冷えが酷く、夕方になるともう眩暈と頭痛がしてくるので、午後9時に寝て、朝3時に起きるという生活で何とか凌いでいる。当然深夜番組など見られない。世間の人が夜やるであろう仕事は午前3時に起きてすることになるので、ネットの見逃し配信で視聴している。私のようにいろいろ持病を抱えている人間でも何とか生きられるのはネットのおかげかもしれない。)これまで3回放送されていて、いずれも小豆島の美しい自然を背景に、月島琉衣演じる高木さん(中学生の女の子)が、隣の席の同級生、西片君(黒川想矢)に何かとちょっかいを出してからかう。西片君(この2人は幼馴染であるらしく、一緒に登下校している)は何とか高木さんに仕返しとしてからかい返そうとするが、高木さんの方が一枚上手で、結局高木さんの掌でころがされることになる。要は性に目覚めるころの淡い初恋を描いたほのぼのとした30分番組であるが結構楽しめるので、読者の方も一度視聴されることをお勧めする。(もっとも美しい瀬戸内海の自然を舞台に、日本の中学生ならば誰もが体験しているような日常生活がたんたんと描かれているだけであり、私や芥川龍之介の言うところの「筋のない小説」(芥川は『文芸的な、あまりに文芸的な』の中で、「筋のない小説は詩に近い」とおっしゃっているが、確かにそうかもしれない。)がたんたんと続くだけである。好みの別れる作品となるであろうが、私は好きである。昨晩放送の第3回を見ている途中、私は思わず号泣してしまった。何故私が号泣したのか良く解らなかったので、今(午前9時半前後)にもう一度視聴してみたが、これと言って感動的なシーンもなかった。深夜というのは“月”の世界であり、それは人を狂わせる要素がある。(午前3時に起床して、一人パソコンに向かってTverで中学生の恋愛を見ている公認心理師というのは確かに不気味な感じが私もする。)

 話を変えるが、コロナ禍をはさんでDVのケースが非常に増えている。正確にはコロナ以前からのようで、2010年代半ば以後、私はDVの治療が上手いという評判が立ったらしく(DVに関して学会発表とかも結構やったからかもしれない)、そうした口コミもあって多くのDVで苦しんでいる方(女性は勿論男性の方も)が私の相談室の門を叩いた。多くの女性の方(妻)は好きな男性(夫)にちょっかいを出す、というか悪気もなくちょっとからかってみたくなるらしい。男性(夫)の中にはそれ(からかい、ちょっかい)を「バカにしている」と被害的にとらえることがある。そして多くの場合、男性(夫)は女性(妻)には口では勝てない(西片君が高木さんに勝てないように)そこで「これは男の沽券にかかわる」とつい手が出てしまうというケースが結構ある。(これは夫の方が妻より年下の場合に良くあるケースである)

 もう慧眼な読者はお気づきと思うが、高木さんは西片君が好きなのである。「好きだから何とか気にとめて欲しい」「好きだから私の掌でころがして可愛がってみたい」。この気持ちがお解りになるであろうか?そういう時は、女性にころがされるのを楽しめばいいのである。私も短い期間であったが結婚生活を経験したことがある。家での細かいことは妻に任せておけばそれでいいし、妻が明日の休みの日に「工藤静香の二科展」に行きたいと思っているのならば、一緒につきあってあげればそれでいい。女性(妻)が笑っている家庭は太陽の照っている農家のように皆笑顔でいられる。どうもDV家庭の夫はそれが解っていないらしいのである。高木さんは自分の気持ち(西片君が好き)が良く解っているが、性に目覚める頃にありがちな恥じらいのこころがあって、ついからかってしまう。一方西片君も高木さんが気になっているが、その自分の気持ちが解っていない。この年頃(中学生くらい)で同級生であれば、女の子の方が男の子よりも大人である。

 病院に勤めていた頃だったと思う。私がある女性(1周り半くらい年下の女の子であった)に「どうもプロポーズというのは男性側がするように見えて、実際には女性に告白されるように仕向けられているらしい」ということを申し上げると、「そんなこと当たり前だよ!先生今頃気がついたの?」とバカにされた。(その女性も私のことを良くからかって楽しんでいたようである。)心理学的に見た場合に、女性のこうした能力(受動的なふりをしながら、相手を上手く操作して、自分のやりたいように関係を構築していく)は幼年期後期(3~6歳前後)に形成されるらしい。エリクソンに言わせると、この時期に子供たちは自分の性別を意識し、男の子は「ヒーローごっこ」「ピストルごっこ」などを好むようになり、女の子は人形と遊んだり、ままごとを好んだりするようになる。今では性役割というのは時代遅れの定跡になっているかもしれないが、まだあと20年くらいはエリクソンの理論は有効だと思う。(女性で、恋人がいて、結婚したい時に自分から男性にプロポーズする人は今でもそう多くはないはずである)

 私が何故深夜にこの番組を見て号泣したのかやはり良くは解らない。ただ、私もまた中学生であった頃があった。その時にひどく女の子を避けた経験があるので、「もっと素直になっていればよかったかな」と後悔していたのかもしれない。そして、この甘美な「青春助走期」というのは2度と戻ってこない懐かしい日々として、今でも私のこころにありありと刻みこまれている。

 

(この『からかい上手の高木さん』(深夜のドラマ・ストリーム版)というのは5月に封切される映画『からかい上手の高木さん』(映画版)の序章として制作されたようである。映画版は、中学校を卒業して10年後の高木さんを永野芽衣が、西片君を高橋文哉君が演じるそうである。しかし、この2人が結婚するという設定はいくらか無理がある。中学時代の初恋は初恋として、大事に思い出としてとっておくほうがいいように私は思うが、読者諸兄はいかがお考えになるであろうか?)