24-3-24(日)

 大谷祥平君の若妻が(ドジャースとパドレスの開幕戦を義父母と一緒に観戦していた時に)大声で応援するので、何かのど飴を舐めていたらしい。そののど飴のブランドがどうこうというので、4日くらい前まで、ネット民の間で話題になっていた。ここまであからさまにどうでもいい話題も珍しい。大谷君の若妻など何の興味もないが、こういう記事を見ると私のようにかえって不快になる人も多いのではないかと思う。

 それはともかく、ここのところ野球にほぼ関心のない私にとっても大谷君はいろいろな意味で話題の種になっている。大谷君の通訳を勤めていた水原一平氏が違法賭博に手を出して多額の借金を作ってしまい、大谷君の口座からその借金が引き出されていたということが今度は問題になっている。まだ真相は良く解らないが、水原さんは開幕戦はドジャースのベンチに入って大谷君のサポートをしていたらしいが、2戦目からは別の方が通訳をやっていた(らしい、私はもちろん確認していない。)

 ただ、最初にこの件に関して女性のスポーツ記者(アメリカ人のようである。いずれにしても白人。名前は失念した。)に水原さんは「大谷君に借金を肩代わりしてもらった」という趣旨の証言をしていたらしいが、後程この発言を撤回し、「大谷君に黙って口座から借金を支払った」と、前言と矛盾したことを言っていた。前述の白人女性が「私に嘘をついたのか?」と詰問すると、水原さんは「そうだ」と言って自らの過ちを認めた。水原さんはドジャースを解雇され、ドジャースも公式には「大谷君は被害者だ」とこの事件の火消しにやっきになっている。

 私は5年に及ぶ介護生活の中で、嘘をつかれたことはいくらでもある。その中で2つの定跡(というか、嘘にかかわる一定の規則)があることに気がついた。「2つの証言に矛盾がある場合、往々にして最初の発言が真実である」「嘘をついているうちに、最初の嘘を取り繕うため、別の嘘をつかなければならないので、嘘は雪だるま式に膨れ上がってくる」というのがその“定跡”である。今日はちょっとその定跡に従ってこの事件の真相に迫ってみよう。

 前述の水原さんの2つの証言であるが、最初の発言が真実であったとしよう。「賭博でこんなに借金を作ってしまった」と水原さんが大谷君になきついたところ、「日頃お世話になっている(大谷君が大リーグに行って何年になるのかよく知らないが、未だ通訳を介さないと日常生活も送れないというのはいささか情けない)水原さんのためだ。一肌脱いでやろう」と水原さんと一緒に自分の口座から借金の肩代わりをしたと考えてもおかしくない。(ただそれにしては借金の額が大きすぎるという疑問が残る。しかし、大谷君がいかに親しいとは言え、水原さんに自分の口座のパスワードまで教えてしまうというのはもっと不自然。私も外資系の銀行に口座を持っていたことがあったが、ああいうところのセキュリテイーの厳しさは日本の銀行の比ではない。何にしても大谷君がこの損失補填について何も知らなかったという弁解は難しいと思う。)大谷君がこの振り込みについて知ったのは「開幕戦の後のことだった」とドジャースは弁解しているが、(これは大谷君に対して好意的に書いているのであるが)これが“違法行為”であることを知ったのが開幕戦の直後であった、という意味ではないであろうか?日本では「お世話になった人のしりぬぐいをする」というのは美談であるが、アメリカでは「違法行為は処罰の対象」(そして「法の無知は寛恕せず」)となることを知らなかった可能性はある。

 ドジャースは大金を出して大谷君を取ったに相違ない。大谷君が不法行為をしたとなれば、彼が半年くらいの出場停止を食らうくらいの処罰は受けるだろう。ドジャースとしてはそれは何としても避けたい。私が知っている範囲ではかつて西武ライオンズでエースだった東尾投手がやくざと賭けマージャンをやったとのことで半年の出場停止処分をくらったことがあった。アメリカではもっと厳しい処分が下るかもしれない。そこで「水原さんは大谷君の口座からお金を盗み取った」「大谷君は自分の口座から違法な金が振り込まれているのを知らなかった」という苦しい口裏あわせをしたのではないか?

 このシナリオが本当であるかどうか私も知らない。真実は全く別のところにあって、私の預かり知らぬところにあるのかもしれない。しかし、このシナリオで一応全てのこと(大谷君が何も疚しいところがないのであれば、自ら説明責任を負えばいいのにそれをしないことも含めて)が説明できる。大谷君も野球が好きなのは結構であるが、もっとアメリカの文化や法制度について知っておくべきであった。(他の日本人大リーグ選手もそうであるが、イチロー君だけは例外的にそれをしっかり学んでいたように見える。)

 最後に、これは阿佐田哲也先生(麻雀の神様と言われるプロの方。純文学作家としても知られ、色川武大の本名で直木賞もとっている)の言うところの「何か大事なものを得たと思った時には、同時に何か大事なものを喪っている」という現象なのではないであろうか?大谷君は大事な若妻を得たのと同時に、長年アメリカでの生活をサポートしてくれた水原さんを喪った。これはユング心理学でいうところの非因果的共時性(アコーザル・シンクロニシテー)なのではないか?そんな気がして仕方がない。

 

(せっかくここまで書いたのだから、大谷祥平君にこの窮地からどう脱するか指南しておこう。これは好意で書いているのである。私なら真美子さんと相談したうえで、記者会見を開き、洗いざらいすべて本当のことを話すであろう。もちろんそのため1年くらいの出場停止処分を食らい、その間ドジャースは下位に低迷するかもしれない。ただ、嘘をつき続けて生きるのは非常につらいはずである。真実を語るというのはいかなる場合でも最低限度の徳を保証する。もっともそんなことをすればドジャースは大損をすることになる。大谷君はやはりそのようなことは出来ず、罪悪感を感じながら今後プレーをしなければならないと思うと、いささか気の毒である。)

 

(このブログを書いている最中、ラジオのニュースで立憲民主党の方が、自民党の不正疑惑議員の証人喚問を求めていた。これはしつこさの度が過ぎるので、私が岸田総理なら「解散・総選挙」の大博打を打つであろう。そうすれば自民党は大勝、不正疑惑議員は晴れ晴れと禊を済ませて国会議員の地位に居直ることが出来るだろう。そもそも国民は政治家が正直だなどと少しも思っていない。しかしアメリカの野球ファンは選手に「クリーンであってほしい」と思うらしい。これは比較文化論的にも興味深い事例であると私は思う。)