24-3-6(水)

 寒い一日である。明日は胃カメラを飲まなければならないのが憂鬱であるが、今日は特に急ぎ仕事もないので、こうしてパソコンに向かっている。

 昨日はスーパーチューズデイで、アメリカでは今まだ昨日の夜なはずなので開票が終わっていない。共和党ではトランプ氏が15の州をすべて制する圧倒的な強さを見せたらしい。トランプ氏はその立ち居振る舞いや品位や性格はともかく、選挙は強い。アメリカ人には結局、このように単純に「強さ」をアッピールする人が受け容れられるのかもしれない。8年前の秋、トランプ氏が初めて大統領に選出された時、民主党の対立候補はヒラリー・クリントン(ビル・クリントン元大統領の奥さん)で、アメリカの多くの人たちはヒラリーの勝利を信じていて、(それがいいことか悪いことかは別にして)私もそう信じていた。「初めて女性がアメリカの大統領に就任するのを見たい」と言う老齢のアメリカ婦人もいた。ところが蓋を開けてみると接戦になって、西部の州をどちらが抑えるかで勝敗が決まる(アメリカは広い国で、国内でも時差があるので、東部の州で開票が終わっても、西部の州で逆転ということもあり得る)という手に汗握る戦いとなった。そして結果は皆さんのご存じの通りである。私事であるが、この時も訴訟を抱えていて、弁護士の事務所に行って、「トランプが勝ったらしい」というと「何をやるか解らないから嫌だな」と弁護士の先生がおっしゃったのを覚えている。

 共和党というのは伝統的に「小さい政府」「夜警国家」を理想としている。だから例えば国防の問題にしても「日本や韓国や台湾は自分の国は自分で守れ。守って欲しければ金を出せ」という主張を選挙中さんざんしていた。(余談だが、ウクライナ支援を打ち切るかもしれないという噂もこういうところから出てくる。)私の友人の台湾人が「トランプが当選したら、中国に飲み込まれる」とおびえていた。しかしトランプ氏はいざ当選すると「そんなことは言っていない」と過去の発言を撤回し、台湾問題に関して言えば蔡英文総統の肩を持って「反中国」の姿勢を明白に打ち出した。そして中国との間で米中貿易戦争まで始めた。今回もトランプ氏は中国との間にもめごとを起こしかねない主張をしている。(当選したらまた「そんなことは言っていない」というかもしれないが。)一方で民主党は「親中反日」という伝統がある。日本を無理やり第二次世界大戦に引きずり込んだF.D.ルーズベルト大統領は民主党である。だからバイデン氏が当選した時も、彼の対中政策がどういうものになるのか非常に気になったが、当選直後の演説で「中国は世界の不安定要因である」という趣旨のことを言ったので、いくらか安心した。

 民主党と共和党でもっとも政策が対立するのは“銃規制の問題”と“人工妊娠中絶”の問題であろう。オバマ氏(民主党)が大統領になった時に、最初に彼は人口妊娠中絶容認の法案に嬉嬉として署名した。バイデン氏が当選した時にそれをしたかどうか私は寡聞にして知らないが、彼の場合はカトリックの信者であるので署名しないかもしれない。それは私も知らない。民主党のイデオロギーと信仰の問題が対立する場合、どういう態度をとるのかは人によって違ってくるだろう。これはアメリカ人にとっては深刻な問題なので、あまり深く立ち入らない方がよいのであるが、私個人の見解を述べる(ブログというのはそもそもがそういうもので、私のブログには私の主張が書かれているに決まっているが)ならば、「中絶するのは女性の権利!」とデモ行進している女性たちは悪魔に取りつかれた魔女の大群のように思える。「自分の子供は自分のものだから殺す権利がある!」何という恐ろしい思想であろうか。

 共和党の場合、その票田であるキリスト教ファンダメンタリズム(保守的なプロテスタントの一派。彼らは創価学会と似た体質があって、必ず投票に行き、共和党の候補に入れる)が強力な支持基盤であるため、この党の大統領はほぼ確実に人工妊娠中絶を非合法化する。もしバイデン氏が人工妊娠中絶を容認する法案に署名していたとしても、トランプ氏はそれを即座に破棄するであろう。前述のキリスト教ファンダメンタリズムは聖書を金科玉条のように信じていて、神がユダヤ人にパレスチナの土地を与えたと信じているので、ウクライナは見放しても、イスラエル支持はトランプ氏は継続するであろう。

 こうしていろいろ書いているが、私が何を言いたいのかというと、「共和党」「民主党」と言ってもかつてほどその特色を強く打ち出しにくくなってきているということである。共和党も民主党的な政策(例えば中国からの輸入品に関税をかける)を遂行することもあれば、民主党も共和党的な政策(イスラエル支持)をとることもある。結局のところ現実にとりえる政策がそれほど多くないので、2大政党制というのは少なくともアメリカでは上手く行かなくなっている。

 あるイギリス人の友人に「保守党と労働党の政策の相違は何か?」聞いたことがあるが、彼は真面目な顔で「大した違いはない」と言っていた。日本では自由民主党という絶対的な与党があって、自民党が暴走した場合、野党がブレーキをかけるという55年体制が未だ続いているが、自民党は極めて多くの主義主張を持った人の緩やかな集合体であって、案外この体制(55年体制)は2大政党制より優れているのかもしれない。