24-3-3(日)

 今週の火曜日はスーパーチューズデイで、この選挙で勝利すると、共和党、民主党それぞれの大統領候補者戦でかなりの優位が築ける。私はアメリカの大統領選挙にはかなり関心を持ってみているが、(恐らくは)世界で最も権力のある人物が決まり、それが今後4年間は続くのであるから、日本でも興味津々で観戦している人も多いかと思う。

政権奪還を目指す野党・共和党候補では4年前にバイデン大統領に敗れたトランプ氏の勢いが止まらない。すでに4つ(?)の州で勝利している。共和党はもう一人、国連の職員をやっていた何とか言う女性の方(名前は失念した)が対立候補であるようだが、まだどの州でも勝てていないなど全くパッとしない。対する与党民主党はどうなっているか良く知らないが、現職のバイデン氏がまた出てくるだろう。バイデン氏はパレスチナ問題でイスラエルを支援しすぎたあまり、イスラム教徒の反感を買っているのを意識して、最近急に親イスラム的な政策を打ち出しているが、うまくいくかどうか解らない。トランプ氏が大統領になった場合、これまで通りウクライナの支援を続けるかどうかは不透明である(私は支援を続けると思うが)。このように、この選挙によって世界中の情勢が大きく変わってくるので、私も非常に憂慮している。

それにしてもトランプ氏は何故こんなに人気があるのであろうか?私はこの人気の背景には現在日本で放映中の『不適切にもほどがある!』の人気とどこか共通するものがあるように思えて仕方がない。阿部サダヲ演じる『不適切にもほどがある!』の主人公は昭和のバブル助走期の体育会系の中年の教師であるが、ある日突然令和6年(?)にタイム・スリップしてしまう。バブル助走期にはp.c.運動など存在しないため、阿部サダヲはセクシャル・ハラスメント、エイジズム、ルッキズムなど(現代の社会から見て)不適切な言行をくりかえす。(阿部サダヲ演じる中年教師にはこれといった悪意はない)。彼の言行は令和の現代では空回りし、最初は周囲から非難を浴びるが、やがてコンプライアンス(というかもっとはっきり書くがポリテイカル・コレクトネス運動)によってがんじがらめにされた現代人は、自分たちが「正義」と信じて信奉しているものが本当に普遍的な正義であるのかどうか疑問に思い始めるという内容らしい。(私の家にはテレビがないので見ておりません。悪しからず。)

この番組に人気があるのは、阿部サダヲが深い考えもなく本音をズバズバ言ってしまうので、本音が語りにくくなっている(というよりほとんど言論統制が敷かれている)現代人は、普段の社会生活で言いたくても言えないことを代弁してもらうことで、ある種のカタルシスを感じるからであろう。それでも日本人は「本音」と「建前」という2本建てで語ったり、考えたりすること(例えば本音では同性愛は嫌いだが、一応建前としては「ボーダーレス社会に向かっている私たちは進歩している」と言って人権派におもねっておくというがごとき適応)ができるのでまだいい。

 アメリカでは「本音と建前」「表と裏」が一致してないと単なる「うそつき」にされてしまう。そういうアメリカの社会(英語で物を考え、自分の思想を発言しなければならない社会)は現在日本以上にポリテイカル・コレクトネス運動によって息苦しくなっているはずである。そんな中で時には性差別、人種差別的な発言であっても、本音で言いたいことを言いまくるトランプ氏はなんだか英雄のように思えるのだろう。私には”Make America great agein”という彼のスローガンも「力強いもの」というより、「瀕死のアメリカ帝国主義」の最後のあがきのように思えるのであるが。

 多くのアメリカ人(というよりWASP=白人で、アングロサクソン民族で、プロテスタントの信者。アメリカのエスタブリッシュメント)にとっては国内の黒人やイスラム教徒やヒスパニック(スペイン語が母語の、南アメリカからの移民)の人たちと共存するのは内心では嫌であろう。そして日本や中国のような白人国でない国が大きな経済力を持っているのは我慢が出来ないだろう。トランプ氏は当選したら中国からの輸入品に50%の関税をかけるそうである。(これも「メキシコとの間に壁を作って移民を排除する」という公約と同様、実現する可能性はほぼないが。)逆に言えば50%の関税をかけないと国内産業が守れないほどアメリカの産業は斜陽なのである。トランプ氏が大統領になっても、アメリカはもうかつての“偉大さ”を取り戻すことはできないだろう。

 最後に今年の11月になって、いよいよトランプ対バイデンの再戦となった場合、バイデンには勝ち目はないと思う。この4年間、バイデンが何をしたかよく覚えていないし、またおそらく大したことはやっていないのだろう。これはスタンド・プレイを重んじるアメリカでは決定的に不利になる。そして4年前にバイデンに投票して、かえって不利益を被った人やWASPの連中は嬉嬉としてトランプに投票するだろう。日本人も一応それは覚悟しておいた方がいい。

 

(私がアメリカ人であっても、「苦渋の決断」でトランプ氏に入れるかもしれない。バイデン氏は現在81才で言い間違い、書き間違いなど結構多く、認知症が進行している可能性を否定できない。もっともトランプ氏も77才で今度当選すると80才を超えて現職でいなければならない。大統領とちょっと違うが、日本の元天皇陛下(というか現上皇陛下)のように、ある年齢を越して自分の職務が全う出来ないと解れば、潔く身を引くべきである。なんだかエイジズムに毒された発言であるが。)