23-9-30(土)

 9月下旬にも関わらず、鎌倉が真夏日になった先日、のっぴきならぬ事情があって上京し、「虎ノ門ヒルズ」という駅で下車した。ここは何かの複合施設が出来て、それに伴い日比谷線に新しい駅が出来たようである。最新のレストランなどもあって人気があるスポットらしいが、バブルの臭いの強い駅で、私の趣味には全くあわなかった。東急東横線の渋谷駅が地下に潜って以来、かつての渋谷の面影のなくなって(というか、どこを見ても高い人口的な建物ばかりで町に個性がなくなって)東京に行くとすぐに鎌倉に帰りたくなる。(バブルと先ほど書いたが、日経平均は3万円をかためるなどバブル期を超す水準にあり、またあの時代が戻ってくるのかと思うとぞっとする。)しかし、これも多くの人たちの望んでいることなのだから仕方がない。

 ここからが本題なのであるが、道東の釧網線(釧路~網走)、花咲線(正式には根室本線の釧路~根室を指す通称)が廃線の憂き目を見そうであり、多くの鉄道ファンが動画をアップして何とかそれを食い止めようと必死で抵抗を試みている。JR北海道の釧路支部(?)にも路線存続の会があるようで、JR北海道と交渉しているらしい。動画を見た限り、確かに道東の景色は夏だけではなく冬も美しく、真に旅情を感じたい人にとってはお薦めの行楽地のように思える。いかんせん地元の人がほとんど利用していないので、ほとんどの駅が無人駅で、駅で降りる人もいないか2~3名である。確かにこれではJR北海道が不採算路線として廃線にしたくなる気持ちも解らなくもない。

 私は道東の景色(特に根釧原野)が好きであるが、これまで2度しか訪れたことがない。最初は上智大学の修士1年の時に学生割引と北海道周遊券を使って1週間ほど旅行した。あの時に「さいはての地に来た!」という感慨に浸りたいというただそれだけの理由のため、千歳空港からわざわざ特急に3時間ほど乗って(帰りも釧路から千歳空港まで特急に乗った)、釧路で一泊。その次の日の朝、花咲線で納沙布岬を見て厚床まで引き返して、標津線で中標津を経て根室標津で一泊した。あの時に標津線に乗っておいて本当に良かった。というのは、この時道東に遊んだ次の年に、標津線(標茶~根室標津と中標津~厚床)は廃線になった。ギリギリのチャンスを何とか乗れたのである。標津線はさほど乗客の数が少なかったとも思えず、むしろ混んでいたような記憶があるが、国鉄が分割民営化されてJR北海道になって以来、不採算路線の大胆なリストラが行われ、私は国鉄の最後の年に標津線に乗ったことになる。2度目の時はもう病院に勤めていて、夏休みの休暇を利用して3泊くらいで行ったような記憶がある。時間を短縮するために釧路空港を使って釧路で一泊。そして次の日はまたもや花咲線に乗った。この時は朝早くの列車に乗り遅れたので、次の列車で根室まで行ったのであるが、3時間近く釧路の街で待たされて、駅前の喫茶店でコーヒーを飲んで時間を潰すなど苦労した。根釧原野も見たかったので鈍足ノロッコ号(日本で一番速度の遅い列車だそうで、観光用に走らせている)にもこの時に乗った。次の年、私は病院を退職した。ほとんど唯一の趣味である一人旅がもう楽しめなくなった(旅行そのものは楽しいのであるが、真夏の東京から急に涼しい道東に行ったので、自律神経がついてゆかず、ほとんど眠れなかったので、観光が十分楽しめなかった)ので、何のために働いているのか解らなくなったからである。

 花咲線、釧網線の廃線の議論がどうなってゆくのか解らない。あれだけ詩情を感じられる鉄道はそう多くはないので、なんとか存続して欲しいと言うのが私の本音であり、また廃線廃止の人たちの主張もおおむねそのようなものである。ただ、鉄道を走らせても乗客がほとんどおらず、駅に止まっても乗降客がここまで少なくなったのは、この地域の人口が極度に減少しているためらしい。そしてここからが大事なのであるが、かつては通勤・通学などで利用していた地元の人が、こうしたローカル線が不便なので車を使うようになったのだろう。寒い冬など駅で長い時間ジーゼルカーが来るのを待たされるのは嫌だし不便である。不便であれば使わなくなる、使わなくなれば乗客が減る、乗客が減れば廃線の議論が出てくるのはある意味必然である。今鉄道の存続を希望している地元の人は、自動車を代替交通手段として利用することによって、自分で自分の首を絞めていたのである。観光客頼みはやはり一定の限界があり、夏の間はいいが、冬の寒い時期にわざわざしばれるこの地域に旅行に行く人は少ないだろう。

 私のブログにしては珍しく(?)手厳しいことを書いたが、この地域の自然は美しく貴重であり(ラムサール条約で保護すべき地域と指定されている)、海産物も美味しい。今は介護などあって鎌倉を離れることは出来ないが、一度冬の道東を訪ねて、温泉につかって美味しいものを食べて、根釧原野を見て歩くという旅をもう一度してみたい。北海道は観光客(特に外国人観光客)に人気があり、そのためコロナ禍によるダメージも大きかったが、これは一時的なものと信じたい。夏だけではなく四季折々のこの地域の魅力を宣伝する(例えば動画に英語の解説を入れるなど)して、1年中いつでも楽しく旅行が出来ることが解れば、観光路線として花咲線、釧網線の存続に希望が持ててくる。ただやはり自助の精神は必要であり、地元の人がもっとこの路線を使うようにならないと、分割民営化されたJR北海道は企業の論理で遠慮なくこの路線を切り捨ててくるだろう。

 

(以前私は三菱UFJ銀行の大船支店の藤沢支店への統廃合を批判したが「では私自身、銀行のATMを使っているか?」と自問すると、ここのところほとんど使っていない。コロナ禍に陥って以来、私はヤマダ電機の大きな支払いから、セブン・イレブンでソーダー水を買うということに至るまで、ほとんどクレジット・カードを使っている。三菱UFJ銀行は勿論企業の論理で動いているので、ATMの利用者が減ればそこを廃止するのは当たり前の選択であり、私もまた「自分で自分の首を絞めていた」のかもしれない。)