22-6-13(月)

 学生時代から不眠症に悩まされていた。私にとって不眠症ほど恐ろしい病気はない。その他精神科にはいろいろな病気(統合失調症、躁鬱病、神経症など)があるが、実は睡眠さへ安定していれば、そういった病気もさほど重くなることはない。このブログの読者は公認心理師(あるいは臨床心理士)、精神科医、精神科看護師、薬剤師などが多いのであろうが、患者さんの病態がどれくらい重いか知りたい時、「夜良く眠れますか?」が最初の質問であることは定跡として覚えておいた方がいい。私は今ではクスリなしで生活できる夜が多くなってきたが、この週末はちょっとあぶなかった。

 一昨日(11(土))は午後から前の晩7時に寝て、深夜0時に起きるなどまずいパターンにはまっていたので、朝からかなり眠かった。遠近両用メガネを買って1週間たったので、大船のメガネ・スーパーに行ってメガネのかかり具合などをチェックしてもらった。何と言っても5万円もだして買ったメガネなので、アフター・サービスも凄い。私が看護学校の講義用にこのメガネを買ったことも何故か店員に知られている。(最初に私がそんな趣旨のことを言ったのだろう)。

 午後からは親友の精神科医のクリニックに遊びに行く。2人ともウイークエンドのこの会合を楽しみにしている。11時半頃ついてしまって、診察が終わっていなかったので、心理検査室(カウンセリング・ルーム件、従業員休憩所)に案内されて休ませてもらったが、お腹が空いていたので、昼食を先に食べてしまうとたちまち眠気がやって来た。深夜0時に起きているので、普通の人にとってはもう夕方5時近いという感覚なのだろう。

 午後1時~4時頃までケース・カンファレンスに入るが、最初はここのところの私の不眠をどうするか?どういう処方がいいのか聞いた。「不眠に対する恐怖心が強すぎますね。オーソドックスにブロチゾラム(不眠症でもっともよくつかわれるごく平凡なクスリ)を眠前に、ジアゼパム2を朝昼晩3回飲むというのでやってみたらいかがですか?」と助言され、処方箋を書いてくれた。彼は土居健郎先生ほどではないものの、私が知っている範囲では最も優秀な医者である。彼に処方されたのでプラセボ効果(ここでは医師に対する信頼感、安心感のため、クスリの効き目が良くなる現象)でが働くに相違ない。私はなんだか重荷を卸したように一安心して、彼が処方箋をプリント・アウトしている音を聞いていた。

 今回のケース・カンファレンスでは、私が今直面している姉妹精神病(普通は二人精神病(現在の概念では感応性妄想障害と呼ばれている)と呼ばれるが、多くの場合、さほど知的ではない姉妹が、夫や家族も信頼できず、周囲から孤立してこの病にかかることが多いので、我々の間では姉妹精神病と呼ばれることが多い。今でも田舎では結構この病気は見当たる)のケースについて、彼等が送って来たEメールなどを精神科医に見てもらって意見を求めた。姉妹精神病の場合、どちら一方が主たる妄想の保持者で、もう一人の方は「主たる妄想者にひきづられて」妄想を持つようになる。したがって従たる妄想保持者を主たる妄想保持者から引き離せば,従たる妄想保持者の妄想は休息に消え去る(病気が良くなる)ことがラ・セーグとファルレの研究によって知られている。新興宗教(folie a beaucoup)などについて考えればこれは解りやすいだろう。例えばオウム真理教の麻原彰晃(主たる妄想保持者)を中心に教団が結成され、多くの信者が集まって生活してハルマゲドンを待望した場合でも、そういった信者たちを“なんとかサテイアン”の生活から解放し、麻原彰晃から切り離した場合、「ハルマゲドン」云々の妄想は急速に消失する。今の世の中は精神的権威が喪われていることもあって、2人精神病の症例は増えているような気がする。私が解らなかったのは「妄想体系」だけを持った精神障害(クレペリンの言う純系のパラノイア)という病が実在するかどうかであるが、ICD―10(WHO?の作った診断体系)の中にそういう病気の記載があるそう。ただ、その場合刑事責任能力が問えるのかどうかは解らないとのこと。folie a duexは内因性精神病とまでは言えないという理解が一般的で、そういった妄想に基づく犯罪が行われた場合には、心身喪失、あるいは心身耗弱と判断されるのは難しいのではないか(責任能力が問われ、刑事上、民事上のペナルテイが課せられることになる)というのが彼の意見であった。何にしても精神病理学の話しをしているうちに私も興に乗ってきて、頭がフルにまわってきて楽しい清談となった。

 帰りに地下鉄で戸塚まで出たのであるが、地下鉄の中で急に眠気がやってきた。先週眠れなくて飲んだクスリが強すぎた(半減期が極めて長い)ので、こういうことになったらしい。戸塚の駅でスマホのメッセ―ジを確認しようとした瞬間、貴重品を入れたバックを電車内に置き忘れたことに気がついて、急に目が覚めた。戸塚の駅の駅員に「今、湘南台行きの地下鉄の中に貴重品を入れた緑色のバックを忘れた」旨興奮して話した。スマホだけではなく老眼鏡や保険証など入っている貴重なバックだったので、私の顔色が真っ青になった。1時間後、湘南台の駅で私は女性の駅員の方からそのバックを取り戻すことが出来た。こういう時にはどんな女性の方でも天使のように見えるものである。駅員の方々も皆喜んでくれた。

 何とか鎌倉の家に帰ってくるものの、その後の記憶がはっきりしない。昨日日曜の朝に起きると、寝巻も着ずに裸で布団に入っている。昨日の夕食は食べた跡が見られないし、また風呂に入った形跡も認められない。そしてブロチゾラムも減っていないのだ!恐らく風呂に入ろうとして服を脱いで、ベットに横になって、そのまま寝てしまったのだろう。クスリは本当に怖い。

 そういうわけで、親友に出してもらった処方で寝たのは昨晩が初めてである。午後9時に寝て、起きたのは午前1時半である。もう1時間半くらい寝ると、9時寝~午前3時起きの理想的なパターンにもどれるが、なくした貴重品を返してくれた神様がいずれそうしてくださるだろう。

 これから朝飯前の祈りと、聖書の勉強をして、午前5時に朝ごはんを食べる。6月いっぱいはこれも出来るが、夏に入るとまた生活が乱れるだろう。そういう時は遠慮なく医師や薬剤師に相談しようと思っている。

 

(とにかく不眠症だけはものすごく怖いので、私は誰かに「かかりつけ薬剤師」になってもらうことを真剣に検討している。眠剤は種類がいろいろあって、半減期もまちまち。ジアゼパムの使い方には自信があったが、だんだんそれも怪しくなってきた。かかりつけ薬剤師を依頼すると月50円くらい(3割処方の場合)かかるそうだが、その程度で.この「不眠の力」から解放されるなら安いものである。)