秋鮭と小松菜のキッシュと、おにぎりの具 | 美味と物語 ~ライターびんこのブログ~

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山形生まれなのに、いきなり沖縄に15年住みました!
その後やってきた大都会の東京は、いろいろタイヘン!!
元・琉球放送報道部リポーターのびんこがお届けする、
おいしいもののブログです♪

 

その日も、原稿を書き終えると、午後11時を回っていた。

いつものワインバルで、かなり遅い夕食に選んだのは「秋鮭と小松菜のキッシュ」。

白ワインを飲みながら待っていると、ほどなくしてアツアツのキッシュがやってきた。

「はい、お待たせしました」

「わ~い!今日のキッシュもおいしそう!」

 

フランスの家庭料理がメインのこの店で定番メニューのキッシュは、

パイやタルト生地の器に卵や生クリームを混ぜて流し込み、オーブンで焼き上げたもの。

この店では、季節によって具材が変わるから、飽きることがない。

こんがりと焼き目の付いた表面にフォークを刺すと、サーモンピンクの鮭が顔をのぞかせた。

 

「こんばんは~」

メガネをかけたサラリーマンの常連さんが、自動ドアを開けて入ってきた。

「あれ?今夜は遅いですね」店長が声をかける。

「いや~、今日は大残業で、こんな時間になっちゃいました」

「お疲れさまです」

 

普段、私がこの店に来る頃には、この常連さんはすでにほろ酔いになっていることが多いのだが、

今日は珍しく、私の方が先になった。

こんな時間でも残業帰りだから、先方もお腹が空いているらしい。私が食べている小皿をのぞきこんだ。

「お、キッシュですか。中身は何ですか?」

「秋鮭と小松菜です」

「キッシュに鮭って、合うんですね」

「そうですねぇ。鮭っていうと、おにぎりの具のイメージですもんね」

「ああ、確かに」

「あ、そういえば私、今日のお昼は鮭おにぎりだったわ~」

 

それからこの常連さんと私は、ワインを飲みながら、おにぎりの具について話した。

「おにぎりの具って、何が好きですか?」

「ん~、定番の梅やおかかも捨てがたいですが…。

とっても好きなのは、たらこ、明太子、いくら。魚卵に目がないんです」

「お~。魚卵ですか。おいしいですよね。ボクは、佃煮系が好きなんです」

「おにぎりの具の佃煮っていうと、こんぶとか?」

「そうですね。こんぶとかきゃらぶきとか。味がしっかり濃い目の」

「あ~、それもいいですねぇ。ご飯のおともですよね」

 

ちょっと都会っぽい雰囲気のある常連さんが佃煮好きというのが、少し意外な気がした。

案外、家庭的な味の方が好きなのかもしれない。

そういえば、この店のメニューは家庭料理は家庭料理でも、フランスの家庭料理。

鮭も、おにぎりやお茶漬けではなく、キッシュと一緒になって、ワインに合う料理に変身する。

 

「じゃ、今度は佃煮とか煮物とかがあるお店に行きましょうよ」

「お、いいですね。ボク、日本酒も好きなんです」

ところ変われば料理も変わるし、酒も変わる。

いつの間にか、キッシュのサケの話から、

おにぎりの具のサケになり、日本のサケの話になっていた。