美味と物語 ~ライターびんこのブログ~

美味と物語 ~ライターびんこのブログ~

山形生まれなのに、いきなり沖縄に15年住みました!
その後やってきた大都会の東京は、いろいろタイヘン!!
元・琉球放送報道部リポーターのびんこがお届けする、
仕事と、美味と、言葉のブログです♪

 

このところ私は、炭水化物を控えている。

その日も、炭水化物を控えようと、あえてシメのご飯などのメニューがない、シンプルかつカジュアルな立ち飲み日本酒バーへ行った。
そもそも「ダイエットするんならお酒を飲むな」という意見もあるが、それは私にはゼッタイにムリなことなので、議論はしない。
とにかく、お酒は控えられないが、炭水化物は控えられるのである。

とはいえ、お腹は空くので、ちょっとお腹がふくれそうなおつまみを頼む。

その日は、チーズの盛り合わせをつまみながら、熱燗をいただいた。
「チーズがお腹にマクを張ってくれるはずだから、ちょっと安心かもね~」
なんぞと、常連のお客さんたちと自分に甘い言葉を交わしつつ、ほろ酔いになるまで飲んだ。

いや、ほろ酔いというには、酔いすぎだったのかもしれない。気づいたら、その店の閉店時間であった。

「じゃ~ね~!またね~!」
常連さんたちにバイバイと手を振りつつ、私は自分を最寄り駅まで連れて行ってくれる電車に乗り込んだ。
「お!ラッキー♪」
私が乗り込んだ車両の真ん中あたりの座席に、1席だけ空席があったので、すかさず座った。

その日は立ち飲みバーで飲んでいたから、ちょうど座りたかったのである。

それが、間違いのもとであった。

立ち飲みはある意味、キケンである。

なにがキケンなのかというと、立って飲んでいるから、本人は「あまり酔っていない」という、酔っ払いにありがちな意識が増幅される。

しかし実は、お酒を飲んでいるわけだから、本人が思っている以上に酔っ払っている。
それがわかるのが、帰りの電車なのだ。

立っていれば、立った状態をキープしなくてはならないから、本人が「酔っていない」という意識に近い状態を保つことができる。

しかし、座ってしまうと、その意識は、負ける。なにに負けるのかというと、眠気に負けてしまうのである。
 

案の定、立ち飲みの後に、帰りの電車で座ってしまった私は、眠気に負けた。
幸いにも、酔っ払って眠っているわりには、いびきをかくわけでもなく、ポカンと口を開けるわけでもなかった(らしい)。

頭を下に向け、スヤスヤと眠っていた(らしい)。

そして、ハッと気づいた時、電車はとある駅に停車していた。
「乗り過ごした!」
眠っていた私は、そう思い込んだ。バッグをひっつかんで、あわてて電車から降りた。

その駅は、私が住む街の最寄り駅から1つ手前であった。
「あ~あ、やっちまった…」
次の電車を待ってもよかったのだが、もし、次の電車でもまた眠ってしまったら、いよいよ乗り過ごしてしまう。

そう思って、1駅分だけ歩くことにした。

「ま、ダイエットしてるわけだし、ちょっと歩くのもいいか~」
そう思って、深夜の住宅街を歩き始めた。

住宅街といっても、その駅の近くには大きな大学があるから、学生が住むようなアパートやマンションが多い街である。
 

そういう街に多いのが、24時間営業のチェーン店だ。
コンビニ、ファストフード、牛丼屋にラーメン屋…。酔っ払っていても、そういう店には心ひかれることはなかった。
しかし…。とある店の前で、私の足がぴたりと止まった。

うどん屋であった。

透明なお出汁に白いうどん、そして細かくさいた鶏のささみの乗った「期間限定!ゆず鶏うどん」という、

いかにもヘルシーな感じのポスターが、深夜の街に浮かび上がっていた。
正直、私はこの寒い季節の「ゆず」の香りに目がない。
「ラーメンとか牛丼よりは、ヘルシーだよね」
私は、心の中でそうつぶやくと、うどん屋の自動ドアを開けた。

そうして、食券を買う機械の前で、悩んだ。
目的の「ゆず鶏うどん」の写真が、単品ではなかったのである。

そのうどんの隣りには、黄色い卵をまとった「親子丼」が鎮座していた。
「お、親子丼とのセット…」
いや、実は写真がセットだっただけで、メニューにはちゃんと「ゆず鶏うどん単品」というものがあった。

それは、酔っ払った頭でも確認できた。
 

しかし、である。私は、この季節のゆずの香りの他に、季節を問わず、親子丼にも目がないのである。
あの、トロリとした半熟状態の卵に包まれた鶏肉と、その下のご飯。それを一緒にかきこむときの、あの食感…。

「いや、いかん!炭水化物は控えているんだから、こんな深夜にダブル炭水化物は、ゼッタイにいかん!」
…という、私の頭の中の天使のささやきは、もう聞こえなかった。気がつけば私は「ゆず鶏うどんと親子丼セット」の食券を買っていた。
「ありがとうございます。ゆず鶏うどんと親子丼セットですね~」
深夜のうどん屋に響く、明るいスタッフさんの声。
私は小さく「は、はい。お願いします」と返した。

 

ちょっとだけ、ダブル炭水化物に対する罪悪感を覚えながら…。