今の日本で公文式を知らない人は恐らくほとんどいないでしょうが、本書はその公文式に関する著書です。
題名だけを見ると、いかにも公文式礼賛本といった印象を受けてしまいますが、著者は公文式の歴史や公文に子供を通わせている保護者及び公文式の教室長、さらには他の大手有名塾の講師などの意見を参考にしつつ、公文式のメリット、デメリット双方を多角的な観点から考察しています。
内容の詳細に関しては長くなるので割愛しますが、本書で書かれている公文式のメリット及びデメリットを簡単に紹介すると、
<メリット>
・学習習慣が定着する
・計算が早くなる
・何学年も先の学習ができる
<デメリット>
・試行錯誤が苦手
・一度解いた以外の問題を解くことが苦手
・パターンが羽州を重視しているため、正答できるが理解していないことが多い
・指導が楽な分野しか教えていない
・字が雑になる
デメリットの最後の「字が雑になる」などは正直どうでもいいとは思いますが(笑)、公文についてよく指摘される点が簡潔にまとめられているように思います。
ただ、本書では指摘されていませんが、公文式と他の学習塾との大きな違いについて、私なりに調べて気づいたことを述べさせていただきます。
それは「公文では学校の授業に合わせた指導やテスト指導、受験指導などはほとんどしていない」ということです。
公文についてよく知っている方なら何を当たり前のことを言っているんだと思われるかもしれませんが、公文の最大の特徴は学年関係なく子供の学力に合わせた指導を行うことであり、定期テストの点数を上げたり、偏差値の高い難関校や名門校に合格することを直接的な目的としているわけではありません。
実際東大生の3人に1人が公文式の経験者であるにも関わらず、公文式のオフィシャルサイトには他の塾と違い合格実績の類は掲載されていません(もしうちの塾生の3人に1人が東大に合格したらもうキ〇ガイのごとく宣伝しまくりますが)。
それに公文式の創始者である公文公氏自身、公文式を「今学校でやっていることよりも、将来の大学進学を楽にするための学習法」と定義付けていますし、また公文が設立した公文国際学園が公文式中心という教育方針の転換を余儀なくされたことも、公文式と学校教育の相性の悪さを裏付けています。
なぜなら本書でも触れられていますが、公文式とは「学校ではやらないことを自ら進んでやる学習法」だからです。
つまり公文は最終目標である大学受験に必要最低限な学力や問題を解く速度、そして学習意欲を効率的に伸ばすことに特化した教育機関で、学校のテストで1位を取ったり、有名進学校に合格しても、公文にとってはそれはあくまで「結果」であって「目的」ではないのでしょう。
こう考えると、保育園や小学生の時から公文をやっていたお子さんが中学進学とほぼ同時期に公文から他の塾に移籍する例が多いのもうなずけます。
たとえ公文で高校の数Ⅱや数Ⅲレベルまで進んでいたとしても、中学校の試験や高校入試ではそんな問題は出ませんし、逆に学力の低いお子さんの場合、テストや入試が目前に迫っているのにも関わらず小学校レベルの問題をやらされるという目も当てられない悲惨な状況になる可能性もあるわけです。
ですので、テストや受験勉強に追われることがない、未就学児や小学生のお子さん、その中でも大量のプリントを地道にコツコツやり続けられるような根気強い性格のお子さんには公文は最適でしょう。
ですが、中学生以降はきちんと学校のテスト対策や受験対策をしてくれる塾に移籍された方がよいと私個人は本書を読んで感じました。
ただ、これはあくまで私個人の「感想」であって、世の中には公文だけで高校受験や大学受験を乗り切ったお子さんがいることも付け加えておきます。