認知症などの脳機能の低下というと老人がなるイメージが強いですが、実は子供でも発症する場合があります。
その代表的なものが「起立性調節障害」です。
「起立性調節障害」は、自律神経の乱れによって、座った状態の時や立ち上がった時に脳への血流が低下してしまう病気です。
小学校高学年から中学生にあたる10~16歳の思春期の子どもに多く、倦怠感や起床困難、頭痛、めまい、立ちくらみ、腹痛といった症状があります。
午前中に強く見られるこれらの症状は、その日の午後には軽減することが多く、周囲からは「怠けている」「甘えている」と受け取られてしまい、適切なケアが受けられないまま放置されてしまうケースも少なくありません。
起立性調節障害の原因は自律神経の機能低下による血圧の低下とされています。
血圧を決める因子は「血管抵抗」と「血流」です。
人の体は、仰向けの体勢から起き上がると、重力により血液が下半身に移動し、静脈を経て心臓へ戻る血液量が減少して、血圧が低下します。通常なら、自律神経系の1つである交感神経が作用して血管抵抗を上げ、血圧を維持します。しかし、自律神経が正常に働かず血管抵抗が下がっている上に、摂取する水分が不足すると血液量が少なくなり、血圧が維持できなくなります。その結果、体(特に上半身)や脳への血流が低下し、めまいや立ちくらみをはじめとする様々な不調が起きるのです。
思春期の子どもたちに「起立性調節障害」が起こる原因としては、次のものが考えられます。
・体の機能が変化する第二次性徴期には自律神経も変化し、調整が難しくなる。
・水分の摂取不足
・日常生活での活動量低下
・遺伝(日本人は自律神経の機能が弱い傾向がある)
また、症状を悪化させるものとして、思春期ならではの悩みや、学校・家庭でのストレスがあります。
起立性調節障害の症状と特徴には次のようなものがあります。
<主な症状>
・立ちくらみ
・めまい
・動悸
・頭痛
・腹痛
・倦怠感
・起床困難
・食欲不振
・乗り物酔い など
<症状の特徴>
・起立性調節障害の症状は午前中に強く、午後には軽減する傾向がある。そのため、夜眠れずに起床時間が遅くなるという悪循環に陥ることも。
・起立性という名の通り、起き上がる時に発症し、重症になると横になってしまうと起き上がれなくなる場合もある。
・小学校高学年から中学生(10~16歳)に多く、軽症の例も含めると小学生の約5%、中学生の約10%に症状が見られる。
・不登校の子どものうち約30~40%に症状がある。
・勉強に集中できなくなり、記憶力も思考力も低下するため、知識を覚えようと思っても覚えられなくなる。
起立性調節障害の主な症状とその特徴は上記の通りですが、中等症から重症になると、日常生活にも支障を来し、不登校につながることもあります。
日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3カ月で改善しますが、学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要することもあるので、早期の発見と治療が必要です。
集中力が低下するというと、生活に大きく影響するようにも思えますが、実は全ての集中力が保てなくなるわけではありません。
例えば子どもたちが好きなゲーム。勉強はすぐに飽きてしまうのに、ゲームを一度始めるとなかなかやめないという子どもも多いのではないでしょうか?
それは脳の構造、特に脳に栄養を送る血管が異なることによって起こる現象と考えられます。
勉強など思考作業する時は、主に脳の前のほう、ゲームをする時は主に脳の後ろのほうを使うのですが、脳の前のほうと後ろのほうでは血流を担当する血管が異なります。
脳の後方の血管は比較的真っすぐですが、脳の前方にある血管の走行は蛇行し、距離も長く、血流が低下しやすい形状になっています。このことが勉強する時の集中力の下がりやすさにつながっていると考えらえます。
子どもの様子に変化が見られたら、以下の症状があるかチェックしてみてください。
●起立性調節障害の症状チェック
□立ちくらみ
□失神
□気分不良
□朝起床困難
□起き上がった時の頭痛
□腹痛
□動悸
□午前中に調子が悪く午後に回復する
□食欲不振
□乗り物酔いしやすい
□顔色が悪い
鉄欠乏性貧血や心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患などの病気を患っていない上で、3つ以上が当てはまる、あるいは、当てはまるものが2つ以下でも症状が強いようなら起立性調節障害を疑いましょう。
かぜなど他の病気と重なる症状もあるので、1週間ほど様子を見て症状が改善しないようなら、小児科のかかりつけ医に相談しましょう。万が一、本格的な治療が必要になった場合も、専門医を紹介してもらえます。
起立性調節障害の予防には、血圧や自律神経を正常な状態に近づけることが大切です。そのポイントとなるのが、規則正しく、健康的な生活を送ることです。とはいえ、健康で自覚症状のない思春期の子どもにあれこれ言っても、なかなか思うように動いてくれないでしょう。簡単にできて有効な予防法を1つだけお伝えするなら「家でゴロゴロ寝そべらない」ということです。帰宅後や食後などの空いた時間に横になってスマホをいじったりゲームをしたりしているようなら、やめるように声をかけてください。
また、起立性調節障害になってしまった場合の再発防止対策として役立つこともご紹介します。
●起立性調節障害の再発防止対策
・軽めの運動やストレッチで血流を促す。
・夜更かしせず規則正しい生活を送る。
・朝日を浴びて体内時計を整える。
・ぬるめのお風呂でリラックスする。
・寝る前にスマホやパソコン、ゲーム機などを操作しない。
・水分や塩分の摂取を心がける。
起立性調節障害は、まだまだ世の中での認知度が低い疾患です。
しかもその症状から「怠けているだけでは?」「気のもちようで治る」などと勘違いされ、適切なケアがなされない子どもたちがたくさんいます。
子どもたち自身も、学校に行きたいのに行けない、勉強が遅れてしまう、自分はこれからどうなるのだろう……といった不安やつらさを感じ、悩んでいます。
「うちの子も、もしかしたら……」と思い当たることがあれば、まずは、適正な診断を受けるために小児科のかかりつけ医に相談しましょう。
もし、起立性調節障害と診断されても、しっかり治療をすれば完治できる病気です。周囲の大人は、病気を理解し、怒らず、焦らずに見守りながらサポートしていきましょう。