ゴールデンウィークはまさに怒涛。
12時間休みなしの耐久レース連続3日間も終盤に差し掛かったころ。
朦朧とする頭の中。
もう少し…もう少しで解放される…
あまりの忙しさに辞める目的がなんだか「しんどいから」へとすり替わってきそうな
錯覚を覚えた俺。
違う、そうじゃない。確固たる意思のもと新たなスタートを切るために
この店を辞めるんだ。
終わったら「辞めます!」とバシッと言ってやる。
洗い終えた食器を拭きながら次の仕事へのモチベーションを高めていく。
だが、ゴールデンウィークの前に店長が言っていた事が頭に引っ掛かっていた。
「フロア担当希望だったのに人が足らなくてごめんなぁ。
ゴールデンウィークが終わったらフロアを担当してもらうから、もう少しだけ我慢して」
てっきり、ずっとキッチンをやらされると思い込んでいたのでこれは嬉しかった。
希望が叶う喜びよりも、ちゃんと考えていてくれたことが有難かった。
そんな店長を前にして「いや、別にしたい仕事が出来たので辞めます」と言う勇気はなく
実際その話が出たとき、俺は実は辞めようと思っていることを全く言い出せなかった。
「やっぱり、オーナーの話は断ることにしようかな…。」
よぎる弱気と同時に、拭いていた食器が手から滑り落ちる。
跳ねるプラスチックの音で我に返った。
やっぱり辞めるって言わないと。
飲食店でずっとバイトしているわけにもいかない。
自分の未来は自分で作らなくては。
食器と同じく、ぼんやりしていたらチャンスもまた俺の手から滑り落ちてしまうだろう。
辞める為の文句を散々考えた挙句、俺は"辞めざるを得ない、辞めさせざるを得ない卑怯な嘘"を思いついた。
ゴールデンウィークが終わったバイト先。
神妙な面持ちで店長に声を掛ける。
「あの…すみません。実はウチの父親が倒れてしまって…仕事の手伝いをしなければならなくなったんです。慣れてきたところで大変申し訳ないのですが…。お店を辞めさせていただきたくて…。」
すると、店長は驚いた顔で言った。
「えぇっ!親父さん大丈夫か!?君が居なくなるのは残念だけど、それは仕方ないなぁ。店の事は気にしなくていいから。大変だと思うけど、頑張れよ!」
胸が痛んだ。
店の事よりもまず俺の事情を心配してくれるその優しさが刃物のように感じられた。
普段なら救われる言葉なのに。
それを凶器に変えているのは他でもない、自分の心。
これでよかったんだろうか・・・。
いや、言ってしまった以上後悔はするべきじゃない。
今思えばこの件を機に、俺の良心は痛みを感じなくなっていったのかもしれない。
次回へ続きます