ブーニンのリサイタルは、わたしにとって35年ぶりでした。
 

2022年にNHKBSで放送された、それでも私はピアノを弾くで再起をかけてピアノに臨もうとする姿に胸をうたれ、ツアー最終日の演奏会を聴きに行きました。

 

 

 

🎹プログラム

 

ショパン:

ノクターン第5番 嬰ヘ長調 op.15-2

ポロネーズ第1番 嬰へ短調 op.26-1

プレリュード第15番 変ニ長調 op.28-5「雨だれ」

マズルカ op.63-2、3

マズルカ op.50-3

ポロネーズ第7番 変イ長調 op.61「幻想」

 

 

シューマン:

色とりどりの小品op.99より数曲

 

メンデルスゾーン:

無言歌集 第1巻よりop.19-1「甘い思い出」

 

予定されていたプログラムに、少し変更がありました


2024年1月8日

ザ・シンフォニーホール

ピアノ FAZIOLI

*****


曲目は、家族のお気に入りを選ばれたそうです。

ノクターンは祖父

マズルカは父

幻想ポロネーズは本人

シューマンは家族全員のお気に入り

 

おじいさま、お父さまもピアニストでした。

 


ショパンの細やかなフレーズや複雑なハーモニーには、高度な演奏技術が必要です。

前半、思っていた以上に手を動かすことが難しい状態のようでした。

気持ちは弾きたいが体がついてこない…

というもどかしさが感じられて、正直心苦しくなりました。

 

しかし、「それでもわたしはピアノを弾く」という強い意志と、立ち向かう姿に胸が熱くなりました。

 

情感あるメロディーの歌い方と音の美しさは、この人が持つ独自の世界でした。

シューマンの小品からは、平穏や悲嘆、喜びや踊りの情景など、さまざまな場面が頭に浮かびました。


アルバムをめくりながら、自身の人生を重ねて弾いているよう。

 

 

右手に杖をつき登場し、ピアノの前に座ると傍らのテーブルに杖を置きます。

テーブルには水が入ったコップとおしぼりが置かれ、数曲ごとに水を飲み間をとりながら進める、満身創痍の演奏でした。

 

 

割れんばかりの拍手に応えて


アンコール

ショパン:マズルカ op.67-4

J.S.バッハ/ヘス編:主よ、人の望みの喜びよ

 


後半、調子がよくなってきたようで音に力強さも感じられました。

もう純粋にピアノが好き、音楽が好きという気持ちが溢れていて、心が和み励まされました。

 

ブーニンさんは、はにかんだような表情で客席の拍手に応えていました。

 

 

今年元旦に2022年からブーニンに密着したドキュメント ~天才ピアニスト 10年の空白を越えて~スタニスラフ・ブーニン(NHK総合)が放送されました。

 

*8日までの見逃し配信、終了しました

 

 

2023年秋からはじまった今回のツアーは、思うように動かない自分の手に苛立ち「新しい手がほしい」と口にする場面もありました。

 

 
1985年ショパンコンクールでの入賞者、ジャン・マルク・ルイサダとの交流や励まし、妻の献身によって一歩一歩前へ進む様子が映されていました。

 

 

「幻想ポロネーズ」について語った言葉です。

 

ーひとりの人間が生まれて亡くなるまでの一生を描いているといえます

ーこの中には葛藤がありまた愛があり悲しみがあります

ー彼の苦悩や悲しみが昔より理解できるようになりました

 



ブーニンさんのピアノを聴いて先日観た、一枚の絵が心に浮かびました。

窓から射す静謐な光。

 


室内、床に映る陽光

ヴィルヘルム・ハマスホイ


強烈な光ではなく、やわらかくそっと射しこむ静かな明るさを感じました。