二代目一平さん作の紫電書。

金属加工職人だったびりたんだが、当時はワンポイントで

入っていたマグネットで磁力固定出来ないステンレス板の

研削加工を来る日も来る日も行っていた。

びりたんの会社は真空チャックも冷凍チャックも設備が無いし

ステンレス板の研削加工は経験もなく専門外である。

そんな仕事は受けちゃいけないのだが営業が受けて来た。

赤字になったはずだ。

研削専門のプロもいたが、彼ですらステンレス板の

研削経験は無いと。

仕方無く、びりたんは彼に聞いて、

研削テーブルにマシンオイルを垂らし、

ステンレス板を乗せて四方向を磁力で固定出来る

磁力固定した鋼材で挟み込んであげて無理やりクランプするという

イレギュラーな手法を使った。

ステンレス板自体は吸着していないし、安全第一には反しているし

負荷をかけ過ぎると吹っ飛んで危険なこともあり、

普通の鋼材の1/10の研削量の0.001㎜ずつ研削するのだ。

研削音に耳を澄ませ、研削火花の状態に目を凝らす。

少しでも砥石が目詰まりしたら、研削砥石のドレッサーが必要だ。

砥石の目詰まりに気付くのが少しでも遅れたら

ステンレス板は研削焼け(火傷)して大きく反って変形する。

修正するのにまた何日もかかる。

ステンレスでなければすぐ終わる仕事が

ステンレスだと8時間、16時間、24時間と

時間をかけても終わらないのだ。

油断できず全集中が続くので精神をやられて

気が狂っていた。

そこで頑張った自分への褒美で

青山碁盤店様経由でオーダーメイドで手彫駒を

作って頂いたのだ。

当時としては奮発した価格で、

最後の将棋駒にするつもりだった。

もちろん手彫り駒なんて見た事も無かった。

当時は裏朱の源兵衛仕様の駒がタイトル戦で使われたら

良いのにとか、今思うとアフォな事を考えていた。

特に要望はしなかったが、価格を抑える為であろうが

磨き無しで作って下さっていた。

その事は後に駒師日向さんに教えて頂いた。

金属の磨きはやっていたが木工は素人なので

磨いて光沢のある駒なんて見た事が無かったことに

間抜けにも気付いていなかった。

今見ると、面取りも無しに見える。

 

 

山田久美女流四段との四枚落ち指導対局で使わせて頂いた。

山田久美女流四段は「珍しい書体ですね?」と

王将の駒を両手で持ち上げ、駒尻の銘を眺めて下さった。

ふむ。

残念だが「紫電」とはこの彫刻では読めないな。

今までたくさんの先生の指導を受けて来たが、

社交辞令のリップサービスとはいえ、マイ駒に興味を示して下さったのは

山田久美女流四段おひとりだけなのだ。

 

 

木目は無地に近い薩摩黄楊材である。

当時は自分の求める好みの駒なんて知るはずも無く、

たくさんのことを学んだはじまりの駒である。

 

当時の一平さんは凄まじい製作点数で

本当に手彫りだろうか?という書き込みを

ネット上で見かけたものだが、

今確認してみたら、細部が異なってるし手彫りに見えますね。

しかし、字母貼って輪郭を彫って

ここまで異なるものかなあ?

天竜さんも字母紙彫らずに彫れるのは今は

俺のみとおっしゃってたし、

一平さんは字母無しとは思えないのですけど。

 

そうそう。

当時は好きな書体が少なくて、

NHK初代光匠一字書(機械彫り光花作シャムツゲ材を所持していた)と

紫電と蜀紅だったのです。

メルカリもヤフオクも手を出しておらず、

蜀紅の駒は碁盤店の通販で販売していないし、

当時、手彫り最安値の25,000円だった

一平さんの彫り駒でも無理した出費だったのでした。