全130ページの著者自身があとがきで言うところの
「異色の準長編小説」。

 

 

他に

●「香水の甘い匂い」

●「刑場のネオン」

●「黄色い夢」

の短編が収録されています。

1冊がまるっと「四十一枚目の駒」という小説じゃないんなら

「短編集」とタイトルに入れておいてよと思うのはびりたんだけですかね?

 

 

『将棋世界』1975年1月号~6月号までに連載された推理小説なのかな?

 

 

●舞台は通天閣やジャンジャン横丁が登場する大阪。
本職は持っているものの賭け将棋をやる「指し将」が主な登場人物。
紫地の金襴の駒袋に納められた「清安書・信華作」の
虎斑の逸品の将棋駒を持った被害者と最後に
難波のホテルの一室で賭け将棋をした人間として主人公は
警察から追われている。
●「清安書・信華作」の駒は盛り上げ駒かどうかは

作中の描写では不明。

「王将と王将を拾い上げ」と記述されているので
誤植でなければ「双玉」の模様。

駒サイズが小振りとかも全く描かれてません。
●被害者の久保沼さん「良い駒だろう。
僕のこの世における最愛のマスコットだよ」
●被害者はフェリーの発着する港の岸壁から突き落とされ
海に浮かんでいた。
後頭部を鈍器で殴られ、首はネクタイか何かで
絞められた形跡があり、肺にも海水は入っておらず
どこか他の場所で殺され、運ばれ、海に突き落とされた模様。
●被害者の背広の上着の横ポケットには歩が一枚だけ
入った駒袋が入っていた。
警察官「将棋に疎いわしらは、あれは将棋好きの
被害者(ガイシャ)のお守り袋やろかと思うたわけや。
あれに何ぞ意味があるのかね?」
●駒袋。
中には歩がひとつだけ。
1枚だけの歩。
これは一体何を意味するのか。
駒袋に歩が1枚だけしか入っていなかったことの意味は
安治にはとっくに痛いほどはっきりと分かっている。
それは久保沼四段が駒袋から愛用の自分の駒を取り出して、
将棋盤の上にさらりとあけ、どこかで誰かと将棋を
指したことを明らかに物語っている。
一揃いの将棋の駒を自分で買った経験のある者なら誰でも
新しい駒の総数が41枚あることを知っている。
実際には18枚あれば充分な歩の駒が19枚あるのがお決まりだ。
高価な品の場合、歩は余分に2枚、合計20枚あることもある。
将棋の駒の中で歩の数は飛び抜けて一番多く、形は一番小さく、
それだけに紛失する危険率は歩が一番多いのは当然だ。
その万一の場合を慮(おもんばか)って駒作りの職人は
余分に歩を1枚つけて置くのが古くからの仕来りとなっている。
ホテルの5階の部屋で安治と指した時も久保沼四段は
紫地の駒袋から自慢の駒を盤上にあけてから
歩の1枚をつまみ上げて、それを駒袋に戻したのを
安治の眼ははっきりと記憶にとどめている。
どこかの部屋で誰かと気の毒な最期の将棋を指した時も恐らく
久保沼氏はその通りの動作をし、もしかしたら歩を1枚だけ入れた
駒袋を一応上衣のポケットに入れたのではないかと想像される。
もしその対局が無事に終了していたら駒袋には当然41枚の駒が
戻っていた筈である。
それが死体となって発見された久保沼氏の上衣のポケットの駒袋から
歩が1枚だけ発見されたというのは何を意味するか。
対局が終了するまでに、つまりは対局中に久保沼氏が…(中略)
41枚のその一揃いの虎斑の駒は一体どこへ行ってしまったのか。
現在どんな状態でどこにあるのか。
あるいは用心深く焼かれるかどうかして、もはやこの世に
存在しなくなっているのだろうか。
焼かれることは恐らくあるまい。
その理由は、それがあまりにも立派な駒であることだ。
久保沼氏を殺害した人物は現金だけでなく左手首にはめていた
腕時計まで奪ったという。
そういう人間なら当然あの見事な虎斑の駒の値打ちを
見逃すわけが無い。
安く見積もっても30万円でなら、あの駒の買い手なら
いくらでも現れそうだ。
それに久保沼氏ほどの指し手が対局する気になった相手なら
きっと相当な棋力の持ち主だったに相違なく、それくらいの
指し手なら駒の値打ちを見分ける眼も一応具えていたに違いないのだ。
 

 

●主人公の大鹿安治さんは、誰にも話したことが無いのに

お父さんが大学の教授をしているということを将棋道場や

雀荘の誰かが嗅ぎつけたらしく、「助教授」という好きになれない

あだ名で呼ばれるようになった。

●安治さんはアマ大会に出て最後の8人には残る程度の棋力。

生計の為のアルバイトのつもりで1局1~3万円ほどの真剣を指すことがある。

独身。

社長が将棋好きの印刷会社に嘱託の形で雇われ、外交と校正の仕事をしている。

●久保沼さんは40歳越えで、四間飛車が得意の関東のアマ古豪。

身長は170㎝以上で眼光も鋭い。

土木事業の成功者の社長で、金持ちで大金を掛けて指すのが好きなので

真剣師の間でも有名。

●久保沼さんと1局30万円の10番勝負を戦う相手は受け将棋の山福四段。

(10連勝なら300万円が手に入る)

彼は金が無いので大阪市内でパチンコや料理屋などを

いくつか経営している60歳過ぎた老人のスポンサーが賭け金は出していた。

山福四段が勝ち越せば二割が山福四段の懐に入る。

●旅館で両対局者は褞袍姿で対局を行う。

山福四段はスポンサーが背後についている責任感からか

要所要所で3分、5分と考えるが、久保沼四段は勘も良く

ほとんどのノータイムで捌きに冴えがあり、

滅多に間違えた手は指さない。

●大勝負には賭け将棋だけで食っているあまり評判の良くない

「くすぶり」連中も嗅ぎつけてやって来る。

当事者は玄関で彼らに帰ってくれとも言えず、仕方なく対局室に彼らを通す。

くすぶり連中は観戦を楽しむのが真の目的では無い。

主催者が皆に出す、夕食なり夜食、それと賭け将棋をやっていたことを

他言せぬようにという意味もあって主催者やスポンサーから客を選んで出される

3千円くらいのご祝儀が目当てである。

●朝の7時前に徹夜の10番勝負は久保沼四段の7勝3敗で終わった。

行事役の旅館主から「ではこれ。どうぞお改めを」と

久保沼四段は120万円もらって、無造作に褞袍の懐に入れかけ

「あ、そうだ。これ失礼ですが決まりによりまして」と

札束から20万円を数えだして行事料として相手に返した。

眼の下に黒い隈の出来た久保沼四段は、観戦を終え帰ろうとしている安治さんに

「あんたといっぺん指してみたいね。

そうだ。

あんた、今日、夕方頃、僕のホテルに遊びに来ないかね?

このすぐ近くだよ」と声を掛け、難波にあるホテルの名前を告げた。

●喫茶店に勤めているガールフレンドの貴志みはるさんから

借りた10万円を賭け金として、ホテルの5階で安治さんと久保沼さんは指す。

初戦は相振りで相手の攻めを誘い、上手く切らして安治さんが勝った。

2、3番のつもりが翌朝8時まで12番指すこととなり

安治さんが8勝4敗と勝ち越し40万円を手中にしてホテルを出た。

●容疑者として警察に追われる安治さんは退職間近で非番の馴染みの刑事さんに見つかるも

今回の事件のキーワードは将棋であり、

犯人を見つける為には将棋のことが分かる自分が必要なので

泳がせてくれ&手を貸してくれと頼む。

●被害者の遺品の虎斑の駒の価値については報道されていないので

今のうちに必ず駒は大阪の一流社交倶楽部で換金されるに違いないと動き始める。

●2年前に安治さんはやくざ者という噂の飛鳥さんに

郷里の四国から出て来た遠縁の10代の娘を親類に預かってくれる

ように相談に行くから、部屋を開ける1時間ばかり、

娘さんと一緒に留守番してくれと頼まれた。

地方から家出してきて梅田駅や天王寺駅でスーツケースを掲げてうろうろしている

お上りさんたちに、望みの美容院や服飾店や喫茶店に世話してあげると

巧みに話しかけ、札付きの飲食業者や海外に売り飛ばす一味のひとりが

飛鳥さんだったらしい。

安治さんは婦女誘拐幇助ということで前科者となり留置所に入り

大学教授の父からは勘当されてしまった。

大学は中退し、現在の安アパートで自活することとなった。

その飛鳥さんがその時の借りで助けてくれると言うので

待ち合わせの場所に待っていると、徒歩で飛鳥さんが現れるかと思いきや

黒塗りの白ナンバーのセダンがやってきた。

後部座席がのドアが開き、「おい、早く乗れ」と

飛鳥さんの人懐こい笑顔が表れたが、運転席には

黒眼鏡を掛けたやくざ風の男が座っていた。

走り出した車中で安治さんはこう言う。

「飛鳥はん、この車、久保沼さんが浮かんでいた岸壁へ

向かってるのと違うか?

お互いもう芝居ごっこは止めた方がええ」

●飛鳥さんが女を使って駒を売りに行かせたこと、

飛鳥さんが安治さんの名前を使ってホテルに電話をかけ

賭け将棋の相手がいると久保沼さんをおびき出したこと、

飛鳥さんが久保沼さんの最後の対局相手だったこと、

押収した黄楊駒から指紋を採取するよう要請したこと、

などを安治さんは車中で語る。

●遺書をポケットに入れて港に浮いてもらおうって青写真はあかんわ。

飛鳥はん、それから、そこの兄ちゃんも、パトカーと

トラックが産業道路いっぱいに通せん坊してるのが見えへんのかいな?

会話も録音してますぜ。

●車を乗り捨て立ち去り際の飛鳥さんに安治さんはピストルで腕を撃たれた。

激しい痛みの中で安治さんは病院のベッドに自分が

横たわり、ドアを開けてガールフレンドでしっかり者の

貴志みはるさんが花束を抱えて病室に入って来るシーンを想像し

「寄せが甘いぞ。

大鹿安治、しっかりしてくれや」と自分に向かって小さく叫んだ。

 

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●主人公の安治さんはアマ大会に出て最後の8人には残る程度の棋力なので

アマ棋界の俊英(学問・才能などが人より秀でていること)と呼べるのかなあ?

●嵌められた戦慄の罠って感じでも無くね?

●姿なき殺人者に追われる感じでも無くね?

●自ら新犯人を追い詰める必殺の大鬼手でも無くね?

 

(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)

 

●容疑者として考えられる人物として

旅館での賭け将棋の際にいた人物が箇条書きで

ピックアップされているんですけど

1)山福四段:対局相手

2)老パチンコ店主:山福さんのスポンサー

3)坂本四段:行司役、旅館経営者

4)小関三段:主人公と旧知の仲で一緒に旅館に行ってくれた老セミプロ

5)鰐(わに)川三段:久保沼さんの介添え役の東京のセミプロ

6)名村:観戦に来た大阪のセミプロ

7)下井:観戦に来た大阪のセミプロ

8)小豆川:金がなくていつも困っているくすぶり

9)鳥丸:金がなくていつも困っているくすぶり

飛鳥さんが含まれてねえ!!

●犯人は誰か?

読者と著者の対決みたいな構図の作品ではありません。

将棋といった題材が少し使われる程度のライトな読み物といったところでしょうか。

●信華さんは大阪彫りの芙蓉の銘で有名な増田弥三郎の娘さんで
豊島龍山(数次郎)さんと結婚しました。
その後は離婚してしまったようですが
駒は作り続けたようです。

びりたんが見たことがある信華さんの駒は

噂通り、小ぶりなものでした。

その駒がもっと本書中で詳しく描写してくれていない点は残念でした。

●リアルを描いたものかは知りませんが、賭け将棋のシーンの

描写は勉強になりました。

●まあどうしても「盤上の向日葵」と比較してしまいますね。

●もうちょっと駒袋も描いて欲しかったなーと思いました。

●普通の人は対局中は駒袋はポッケには入れないと思うけどなー。

対局を終えて、全ての駒を駒袋に戻してからポッケに入れるよね?