天童将棋駒祭り、私にとっての最終日です。

4)書き駒の体験教室

書き駒師の坂本ヨシ江様に色々とお伺いしてみました。

●坂本ヨシ江様は平成9年の「天童市将棋駒後継者育成講座」で
森恵治(号:天恵)さんの書き駒講座を受講されて
駒師様になったようです。
同時期に受講されたのは書き駒が麻生留美子様、
彫り駒天竜さんの講座を受けた中島比登美様、
と、天竜さんの自伝に書いてあります。

●坂本様は基本的に商品は作っておられないそうです。
イベント等があればお手伝いされているそうです。
ただし、天童将棋駒祭りのこの会場にも私の駒が
実は展示してあって、色々な号で作っているので
号は内緒なんですけどね…とのお話でした。

わたくし、先ほどもお話しましたが、
書き駒を一組購入しようかと考えておりました。
で、天童将棋駒祭りの会場で目をつけて
悩みに悩んでいました駒がこちら!!



(有)ホリコシ様の商品として並んでいたと思われますが、
一字書き駒でございます。
玉将の駒尻には「江芳書」の銘が書かれています。
江芳という号は全く知りませんでしたが、
作者は誰かとかは関係なく、私好みの書であったので
買おうかどうしようかと悩んで眺めておりました。
書き駒に関してはこの巻菱湖書に似た書き方の
「歩」の書体のものが私好みなのですよ。

書き駒というのはどれも、シャム黄楊の駒のように
普通磨きレベルのものしか見たことがありません。
木地に直接字を書くという性質の為、
光沢のあるほどに木を磨き込むと
漆が乗り難いとか事情があるのかもしれません。
あるいは価格を抑えるためとか。
とにかく、この江芳書の書き駒も光沢のあるような
磨きレベルではありませんでした。
私が所持すれば、きっとお手入れが大変だろうなと
思ったので、泣く泣く購入を見送りました。
ただ、帰宅後も、買えば良かったかなぁ?と
時折思い出していた駒でございます。

江芳という作者を検索していましたら、
ねこまどShop様の商品でみつけてしまいました。

92枚の大型将棋
中将棋
本黄楊書き駒
価格 50,000円
国産の黄楊を使用。
天童の書き駒師坂本氏が漆で文字を入れた書き駒。
裏は赤字です。
玉将には「江芳書」の銘が描かれています。



「坂本氏」との表記の色々な種類の書き駒が
ねこまどさんで取り扱われていたことについては知っておりました。
特にどんな駒師様かとか調べたことはなく、
森恵治氏(号:天恵)
伊藤太郎氏(号:仁寿/太郎 )の
イメージで、何となく坂本という男性の書き駒職人さんが
おられるんだろーなー、ぐらいの認識で終わっておりました。
でも…今気づきました。
「坂本氏」って坂本ヨシ江様ですよね。

伊藤さんは「伊藤氏」ではなくて、「伊藤太郎氏」表記なんですよ
なのに坂本さんは坂本ヨシ江氏ではなく「坂本氏」表記なんですよ。
「坂本女史」表記でもなくて。
坂本ヨシ江様ご本人が、女性であることを分かり難くする為に
あえて「坂本氏」表記としたのでしょうかね?

●漆はどっぷりとつけて下さいとのアドバイスでした。
かすれるからだそうです。

 

伊藤太郎さんはビデオシアターの映像でも
拝見しましたが、勢いを重視した筆致で、
坂本様にも真似出来ないそうです。

●書き駒体験用にはかぶれない漆を使われているそうです。
漆を取り扱っている部屋の空気で駄目な方も
おられるぐらいですから、とのことでした。

●習字の先生に書き駒体験をさせたら
下手糞だったりするそうです。
習字が上手いからといって、漆を
思い通りに操ることができるとは
限らないようです。

●書き駒に必要な蒔絵筆の職人さんがいなくなって
入手が難しくなってきたそうです。
ビデオシアターでも見ましたが、
蒔絵筆は購入した後に、自分用に改造するとの
解説をして下さいました。

●これからの駒屋様は端材の有効利用、
これができるかどうかが、生き残りの
キーであろうとおっしゃっていました。
アルミ缶を使ってイヤリングを作るアイデアとか
黄楊の端材を使って小物を作るアイデアとか
非常にアイデアマン(ウーマン)でいらっしゃるようでした。

●天童でミスに選ばれた、駒の女王に
将棋駒のピアスをつけてもらったとのことで
携帯電話のお写真を見せて頂きました。
ショートカットのお姉さんで、
ひょっとしてこの方かな?という有名な方を
ネットで見つけましたが、間違えているかも
知れませんので伏せます。

●伝統工芸とは何かということについて力説して下さいました。
盛り上げ駒だけを作って、これが伝統工芸と言って
商売が成り立つなら良いけれど、
高級駒だけを作って、それが飛ぶように売れる
時代では無いのだから、書き駒体験で、
駒の裏にミッキーマウス描いてみたり、
サクランボ描いてみたり、
今ならジバニャンが大人気ね、
伝統工芸がジバニャン??って批判も受けるけど、
お客様に喜んでもらえるものを作らなきゃ。
とのお話でした。

 

坂本氏作「ヌコにゃん」
※左耳の欠損まで似ていますが
ジバニャンではございません。
天童市に行けばそのへんにウヨウヨいる
ヌコにゃんです。

小学生の男の子が書き駒体験に見えましたので
坂本さんが「このオレンジ色の猫知ってる?」と尋ねました。
回答「知らないっ!」
ご存じでない方もおられるようです。

 

東京駅で買いました、こちらは本物
ジバニャンでございます。
コンビニにも週刊将棋はおいてありませんが、
妖怪新聞はちゃんと売ってありました。

●では恥ずかしながら書き駒体験に。

 

私が書いた下書きを坂本先生が手直しして下さいました。
王の最下段の「一」は「へ」みたいに書くと良いらしいです。

 

これは末広がりに書いて下さいねという説明です。

 

このように、赤線部分の高さを揃えて書くそうです。
もちろん、宮松影水さんの筆法のように
少し大げさ目に、はね・とめ・はらい等を意識して書くと
メリハリがついて良いそうです。

 

坂本せんせー、書く前にめげるくらいに
異常にお手本の字が上手いんですけど。。。

 

あれー、今見て気づきました。
こんな向きで坂本先生書いていましたっけ?
書き駒も彫り駒みたいにクルクル回して書くのかな?

 
 
ビデオシアターの伊藤太郎さんの動画は
真正面からオンリーだったと思いますが。

 

マジックがもうどれもインク切れのようなので鉛筆で。

 

むむむ。ほんとだ。漆をどっぷりつけないと
かすれますね。
いや、かすれた味わいの駒も作ってみたくは
あるんですけど、いや、もう一度なぞって
漆を盛り直すか??むむむ。。。
坂本先生「お、上手いんじゃないですか?」
と写真撮影用に私が作成した駒を
箱の蓋を閉める前に持って下さいました。
これが坂本職人の手だ!!ぱしゃり。

「ぷっ。びりたん、下手す…(笑)」とか
坂本先生は本音はおっしゃいません。
皆さんに、「上手いね~」と褒め殺ししております。

 

漆の乾燥に4時間かかるそうでして、
箱に漆が接触しないように
このように駒の裏にセロテープをつけて

 
 
根付紐を別に駒箱に貼り付けて
持たせて下さいました。


  

帰宅しまして、箱をあけてみますと、
何か書いた時点より更に漆がぼやーんと??
もっと細く書かないと「将」が潰れて読めませんね。

 

びりたん作「新書体:ぼやにゃん」
見る度恥ずかしいんでお蔵入りっ!!

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2)将棋駒制作実演

 

秀峰(村川邦次郎)様でございます。
写真撮影&ブログ掲載の許可を頂きました。
ありがとうございました。

私の聞き違え、記憶違いにより
あやまったレポートになっている箇所が
あるかもしれませんので、その点に
つきまして、初めにあやまっておきます。
お話の言葉遣いも雰囲気だけ似せて再現させて頂いております。
意図せずほら吹きになっている箇所があるかもと
疑いの目を持ってお読みください。

※今思ったんですけど、わたくし、ICレコーダーを
持っておりました。
いえ、正確に言うと私の物ではありませんが
それを使えば良かったですね。
録音に基づいて記事起こしすれば、正確な
お言葉が思い出せたところでした。
次回に機会があれば検討してみます。
 
将棋駒に宿る匠の技:天童佐藤敬商店
をまずはお読み下さい。
リンク切れになるかもしれませんので
秀峰様に関する部分のみ箇条書きしておきます。

1)彫りの秀峰、腕前は日本一。
2)お父さんは習字に厳しかった。
3)入門一か月で中級品が彫れるように。
4)兄夫婦に養ってもらって4か月も
部屋に籠り巻菱湖を会得する為に
習字を書き散らす。
5)九州の習字の先生より「こんなに
素晴らしい字を見たことがない。
毎日一枚一枚手に取り、
賞味させてもらっています」と弱冠23才で
お礼状をもらえるレベル。

amebremenのブログでは「寡黙と多弁?の対比もさることながら」と
書かれていましたが
、私はそうは感じませんでした。

秀峰様も話をお聞きすればたくさん話して下さいます。
ただし、最初は話し掛けて良いものか、迷いました。
気難しい職人様で、話が弾まないようでしたら
すぐにお礼を言って切り上げようと思っておりました。

秀峰様に話し掛けようとしていましたら、
秀峰様は「休憩中」の札を席に出して立ち去りました。
あー、またチャンスを逸してしまったと思いましたが
秀峰様は会場の駒をウロウロご覧になられている風です。
そこで、そのタイミングでお声をかけてみることにしました。

佐藤敬商店様の佐藤稔様が書かれた文章を拝読したのですが…
と話を切り出しました。
1)びり「同じ駒作りのプロである佐藤稔様が
秀峰様のことを日本一と書かれていましたが?」
秀「いやー、日本一と言っても色々な基準がありますから」

2&4)び「家に籠って4か月も巻菱湖を書き散らしていたそうですが?」
秀「父に字を習得するには同じ字を100回書けと教えられていましたので。
(歩兵を100回、香車を100回、桂馬を100回…)
巻菱湖の残した筆跡には、龍(竜かも?)、角、桂、金、
王、玉…はそのままありました」

5)び「こんなに素晴らしい字は見たことがない!
毎日秀峰さんの駒を取り出して眺めておりますと
九州の習字の先生からお礼状をもらったそうですが?」
秀「23才ではなかったと思います。
九州ではなく、島根の方だったと思います。
駒字は習字とはまた違いますから」

●び「宮松影水さんの駒って、どこが凄いんでしょう?
私が見たことのある影水さんの駒って
にじみが生じていたり、今のところさっぱり良さが
分からないんです」(と、正直にお聞きしてみました)
秀「にじみですか?でも誰にでも習作時代はございますから。
現代の盛り上げ駒というものを確立したのは宮松影水ですから。
影水が手本ですから。
宮松も、死後評価されましたから…」

なるほどーと思いました。
宮松さんも生活の為に納得の行く駒ばかりを
販売できたわけではないと本で読みました。
今のところ、宮松影水さんの駒凄いなーと思える
作品には出会っておりませんが、
これはすごいという宮松作品の中でも群を抜いた
逸品を見る機会があれば、その凄さが理解できるかも
しれないなーと思っております。

どういう話の流れでそうなったのかは忘れて
しまいましたが、秀峰様に剣心様に制作して頂いた
蜀紅を見て頂くこととなりました。
会場でバッグの中から平箱を取り出しかけましたら
秀峰様が「では会場外のベンチで」と
気を利かして下さいました。

 

天童将棋祭りに出発する前日に届きました
剣心様の駒でございます。
「渾身の作をお届け出来るように全力で制作いたします」
とのメールを頂いておりました。
「第二百七十五作  蜀紅 中国黄楊 赤柾」でございます。
「駒のささやき」に「八代目駒権訪問記」として
赤松元一様が「蜀紅を彫ると命が縮む」とおっしゃっておられた
話が掲載されていますが、私は剣心様のメールの
「渾身の作を」と「全力で」の部分にその気迫を感じておりました。
駒師日向さんの文章で拝見した記憶があります。
それが、お世辞では無いのならですが、
現在、蜀紅書最高の作り手は「田中剣心師」ではないかと思います
とのことでした。
大阪の駒の博物館二歩様で剣心様の作品を一度拝見したことは
ありますが
、今回の作品の駒の表情がどのように
なっているのか、とてもワクワクしておりました。

『今回の中国黄楊ですが、はっきりと産地まではわかりません。
ただ中国黄楊は植林ではなく自然林なので
面白い木地が多いです。
推測ですが産地は雲南か黒竜江だと思います』

「将棋駒の世界」に掲載されています
滝の湯ホテル様所蔵の久徳様作の赤柾の
色合いが惚れ惚れとするぐらい好きです。
清安という女性的な柔らかい筆致は
個人的に好きではありませんが、
木目の具合としては、写真で見る限りでは
ですが、一番好きです。
上手い表現ではありませんが、
ちびまるこちゃんの顔に入る縦線みたいに
荒柾の赤柾が好きなんです。
でも児玉先生にお会いした際にお聞きしても、
「御蔵島の赤柾は伐採禁止区域になら、
まだあると思うのですけど、それ以外は
ほとんど出てきません」というお話でしたので、
中国産でも良いから赤柾でお願いしてみました。
赤柾が蜀紅に合うのかは私には分かりませんでしたが
剣心様が制作をお受けして下さったことが、
悪くない組み合わせの証であろうと信じました。

 

『磨きについてですが、私の場合は瀬戸磨きを2回かけて終わりです。
その後に油も蝋も使いません。
彫駒の場合は蝋を使うと彫り跡に蝋が入り込んでしまいますので
使用しておりません。
瀬戸磨きをする前段階までに結構細かな作業をしています』

二歩様で拝見した剣心様の駒よりも今回制作して
頂いた駒の方が磨きレベルが断然上のグレードになっている
印象を受けました。
二歩様で拝見した駒は木目も大人し目でしたので
そういった違いもあるのかもしれませんが。

 

『蜀紅という書体は一般的な四大書体と違い表現をする
のが非常に難しい書体です。
私は大坂駒に惹かれ駒造りを始めたので
最大の目標がこの蜀紅でした。
私は八代目も蜀紅の実物を三組実見しています。
あの八代目の駒は誰にも真似の出来ないものです。
彫りも決して全ての駒がそろっているというわけではなく、
一つ一つをみると欠点も目立つ、
そして漆をどっぷり入れるので細い線のところなどは
彫埋めのようになっている駒も多い
磨きも丁寧に磨いているような印象もありませんでした。
しかし、彫りに懸ける情熱というか、心意気が半端ではなく
見ていて心の伝わる駒でした。
そんな駒を作りたいなぁと思ったことが私の駒造りの原点にあります。
八代目が作った蜀紅は私が知る限り5組しか知りません。
非常に数が少ないので実物を目にすることはなかなか出来ない
駒であると思います』とのことです。

私の言葉に置き換えたくなかったので、
剣心様に、剣心様ご自身が書かれたままの
文章の使用の許可を頂きました。
蜀紅は難しいかもしれませんが、
略字彫りよりもグレードの高い駒レベルの
駒権さんの駒なら見せてもらえるかもしれないので
そのうちアプローチしてみようと思っています。

 
 
『最近、公私ともに忙しくなりしばらくは制作依頼を
受けることをやめることにいたしました。
この駒が最後の依頼駒になりました。
駒の制作はマイペースで続けていきますので
今後ともよろしくお願いいたします』と
剣心様よりメールを頂きました。
第二百七十五作の記念の作品をありがとうございました。

 

剣心様が撮影された、迫力のあるお写真に負けぬようにと
撮ってピンボケで、撮ってピンボケで…
一生懸命あれこれ実験して撮影しまくりましたが
駒の撮影がいかに難しいかということが分かりました。
私の目に映るままの絵は表現できていないけれど、
写真素人の私にはこれが今の限界です。
お許し下さい。

 

プロの写真屋さんに持って行って、
成人式の写真のように撮影してもらおうかなとも
考えましたが、やはり、下手糞でも
私自身でトライしてみました。

 

駒の彫りの部分に関しては
無限遠にピントが合って欲しいのですが、
下手糞なので駒の彫りの一部に
ボケる部分がどうしてもできてしまいます。

 

ネットで撮影ブースの作り方とやらも参考にして
撮影したのがコチラ。
駒尻の蜀紅の部分が影にならぬように
サブ照明を別角度からあてております。

 

その辺にあったペンライトを使いましたもので
照射範囲を変えることができず、
ちょっとスポット照明になってしまっています。
ライティングもあれこれ実験しましたが
私の目に映るままの「裏が透けて見える」と言われる
駒の谷底まで続く薬研彫りの迫力、
漆の艶やかな表情がどうしても表現しきれません。
でも、これでベストショットとします。

 

秀峰さん「これは気持ち良く彫れているね。
よく研究しているね。
私も駒権さんの駒を見たことがあるけど
この駒はちゃんと駒権さんの彫りになっているよ。
この彫りは我々とは道具が違うね」

天竜さんには初日の日に鑑賞のポイントを
お聞きしようと剣心様の駒をお見せして
お話を伺っていましたので、ここで合わせて
少しだけ紹介させて頂きます。

 

私が感じた剣心様の蜀紅と天竜様の蜀紅の一番の
違いは玉の縦棒です。
天竜様の蜀紅は根付ですので、
その点の違いはありますのでご了承下さい。
天竜さんは「レ」の形に斜めに印刀を入れています。
剣心様とは表現が違うように感じました。
初めて作品を手に取ったのが天竜様の駒
だったこともあり、私はこの斜めの彫りの一角にしびれました。
何て格好良いんだと。
そこで、天竜様にお聞きしてみました。
駒権さんのオリジナルは印刀が斜めに入っているのか
それとも天竜さんのオリジナルなのですか?と。
天竜さん「印刀は、真っ直ぐ45度ってわけには
いがねーから、少しはどっちかが斜めにはなるよ」
び「いえ、かなり斜めの『レ』の形に見えるんですけど?」
天竜さん「そうか?あはあは。まあ根付だから、斜めにね。
それの方が格好良いべ?にこにこ」
(ちなみに天竜さんの駒は天童流で、
漆どっぷり気味であるので、幾分彫りが
その分浅く見えるのかなと個人的には感じております)

そして、「剣心様の彫りは『レ』の形では無いのですけど…」
という流れで天竜さんに剣心様の蜀紅をお見せしてお聞きする
という流れでした。

天竜さんはそのお話の前に印刀の角度のことを
力説しておられました。
「俺の自伝にも書いてあったろ?
(測定したら)ぴったり30度。
これ(意識せずに研いでも体が覚えている)なんや。
鈍角で彫ってるの(人)が多いから。
あれは駄目。(駄目という身振り付き)
この秀峰さんの印刀の角度はまだ良い方だけど(と指差す)。
鈍角で彫ってる駒は彫りを見たらすぐ分かる…」

剣心様の蜀紅をお見せして、
かなり手厳しい意見が出たらどうしようと
幾分ドキドキはしておりました。
でも駒師日向さんが日本一とおっしゃっておられた
剣心様の彫りです。
その言葉がお世辞でないなら、
天竜さんの鑑賞にも耐えられるはずです。
もし、剣心様の駒で、ここはいまいちだねと天竜さんが
感じる部分があれがシビアな意見でも
それは正直に教えて頂きたいとも思っていました。

天竜さんの反応は正直予想外でした。
天竜さん「こりゃ、えらく深く彫れているな~」
天竜さんはしばらく駒に見入っていましたが、
顔を上げて目を丸くして笑ってこうおっしゃいました。
「俺が彫ったみたいだ。なぁ~?あはは」
蜀紅は皆深く彫ることができない。
それは印刀の角度が悪いからと力説しておられましたが
剣心様の彫りは天竜さん並に深いようです。

話を秀峰さんに戻しまして、
秀峰さんは小一時間、会場外のベンチに座って
剣心様の駒を見て下さっておりました。
ちなみにここで、彫埋め駒に関する質問も
させて頂き、まりもんたんの首にぶら下がっている
彫埋め駒の根付も見て頂きました。

スタッフの方より「お話の最中、恐縮ですが、
そろそろ、秀峰さん、お席の方にお戻り
頂けますか?」と声をかけられました。
お仕事のお邪魔をして申し訳ございませんでした。

秀峰さんがお席に戻りますと、
天竜さんが休憩に行かれました。
秀峰さんは字母紙を彫って駒を作る駒師様で
ありますが、本日は天竜さんが忙しい時は
根付の名前彫りを手伝っているそうでございます。

 

秀峰様は天竜さんとは違い、テルテル坊主みたいな
安定台は使わないようです。

 

天竜さんがお戻りになりました。

 

秀峰さんは鉛筆で下書きをして彫られています。

 

秀峰様は天竜様と違い、作業中に話掛けると
手を止めておられたので、作業中は
話し掛けるのを控えて、手空きの
時間にお話しさせて頂きました。
 
 

び「駒が盤にグサっとならないようにという
配慮なのだと思うのですが、
駒の天に向かって僅かになだらかなテーパーに磨いてある駒を
持っているのですが…」
秀「テーパーに磨くのは地域差もあると思いますよ。
●●地方で多いんじゃないかな。
でも駒の着手が上手な人に言わせれば、
そんな余計な仕様は要らないってことになるから。
お客さん次第ですよ」

なるほどと思いました。
私はその駒の天に向かってなだらかな
テーパーに磨いてある駒に感動しました。
私も金属を磨くことがありますので、
余り歩無しとしても40枚、テーパーに
磨くのがどれだけ手が痛くなるか、時間がかかるか、
下手をすれば形状を崩すのでどれだけ神経を使うか、
根気がいるのかが少しは分かるつもりです。
製品の最低限度の機能としてはテーパー形状でなくても何ら
支障はございません。
しかし、あえて、わざわざテーパーに磨いて
きめ細やかな配慮が施されているわけです。
私は感動を覚えました。
でも、確かに、その配慮が全てのお客様に
とってベストなフォルムであるとは限りません。
ひょっとしたらおせっかいな仕様であるかもしれません。
とても勉強になるお話でした。

 


光の反射具合で分かりますでしょうか?
僅かにテーパーになっています。
児玉先生の駒はこの系統のフォルムになっていますが
その他の駒師様は違う印象を受けていました。
ちなみにこの龍光書の駒は「面取り無し」ということで
購入致しました。
金属加工で面取り無しと申しますと、
文字通りピン角で、包丁やカッターナイフのように
触れれば指が切れます。
僅かでも角を殺してあるものは糸面取りと呼び、
面取り無しとは呼びません。
高校時代、高校受験の試験監督の助手を
したことがありますが、裁断機で切りたての
答案用紙はピンピンに鋭利で御座いまして、
私が受験生に配る答案用紙は血痕付きであった、
そんな笑い話を思い出してしまいました。

えー、話を戻しまして、
何度確認させて頂いても面取り無しとのことでしたが
面取り無しであっても製品として成り立つということで
販売なされているわけですので
どんな具合になっているのかが知りたくて
そのまま、龍光駒は面取り無しでお願いしました。
そして、駒が届いたわけですが、面取り無しどころか
しっかりと面取りがしてあって、
更に駒の天に向けて、なだらかにテーパーに
磨かれていたので感動したわけです。
木材加工における面取りと金属加工における面取りとでは
感覚が違うのかも知れませんね。
駒師様によっての違いもあるかも知れませんし。

 

び「拭き漆仕上げってどうなのですか?」
秀「駒師さんの考え方次第ですよ。
作った時がベストと考える駒師さんもいれば、
黄楊本来の良さは使い込むことで飴色に
変化することだと考える駒師さんもいます。
漆を塗ることは黄楊本来の良さを殺すと
考える人もいる。
どういう駒をお客さんが求めているのか。
考え方の違いの問題だから、
どの仕上げが一番良いとかはその人次第ですよ」

なるほどー。
天竜さんといい、秀峰さんといい、
とても勉強になります。
駒師さんによる色々な磨き仕上げの駒を見ると
自分が求める磨き仕上げがどんなものなのか
自分なりの好みが見えそうですね。

カート・ヴォネガットさんの「国の無い男」(2005年)
というエッセイ集に私の好きな話が書いてあります。
良い絵画と悪い絵画の見分け方についてです。
将棋駒に関して不勉強であっても、
自分にとっての良い駒と悪い駒は自分で判断するしかありません。
自分にとって向いた駒と、向いていない駒、
その見分け方のヒントになりそうな気がしています。

シド・ソロモンさんという方の言葉だそうです。
「百万枚、絵をみるんだな。
そうすれば間違えることはないよ」だそうです。
それを聞いたカート・ヴォネガットさんの娘で
絵描きのエディスさんの言葉も面白くて大好きです。
「ローラースケートでルーブル美術館を駆け抜け
『イエス、ノー、ノー、イエス、ノー、イエス…』と
採点して回りたい」だそうです。

小難しそうに見える芸術の鑑賞の仕方の真実が
ここにあると私は思っています。
 
 

び「秀峰さんって、ご棋力はどの程度なんですか?」
秀「名古屋にいた頃に板谷進さんにご指導頂いていました。
秀峰という号も私にとっては恐れ多いですが、
板谷先生につけて頂きました。
道場で1級ぐらいでした。
昔は小林先生とは親交がございました。
まだ小林先生が今よりももっと活躍されていた頃でございます」
び「あ、小林先生がスーパー四間飛車と呼ばれていた頃ですか?」
秀「ええ。板谷先生と、小林先生が確か一緒に
A級だった時期があったはずです。
杉本先生には一度お会いしたことは
ございますが、特に親交があるというようなことはございません」

東京道中膝蹴毛(天童将棋駒祭りレポート) 最終回 に続く