経済発展目覚しいインド。
デリーは建設ラッシュで、近所でも大型アパートの建設や
改修・増築をする家が何軒もある。
そんな建設現場でよく見かけるのが、
女性労働者の子どもたち。
サリーを着た若い女性が、頭の上に砂やレンガを積んで運んでいる。
その傍らで、小さな子どもたちが砂にまみれて遊んでいるのは
よく目にする光景だ。
こんなところで遊んでいたら、ケガをするだろうし、
事故もあるだろう。
乳幼児が育つような衛生的な環境とは全く言えない場所だが、
労働者たちは、家族揃って建設現場に寝泊りしていることが多い。
一つの建物が出来上がったら、また次の現場を寝床にする。
要するに仕事と同時に住居も転々とする、根無し草のような暮らしだ。
わが家の2件隣の家も、大増築工事をしている。
先月末にデリーに帰ってきたら工事が始まっていたのだが、
ここでも赤ちゃん連れの一人の若い女性が働いている。
ある日、赤ちゃんが工事に使う砂山でハイハイしているのを目にした。
下半身は裸。
全身砂だらけ。
近くにいた母親に聞くと、赤ちゃんは生後7ヶ月だという。
特に子どもを生んでから、こういう光景を目にすると心が痛む。
居ても立ってもいられなくなって、誠一郎が着られなくなった
お古の服や布オムツ、おもちゃをあげた。
数日後の昼間、赤ちゃんが泣いている声が聞こえてきた。
いつもより長い時間泣いているのが気になって
様子を見に行ったら、1階の車庫で足首をロープに繋がれていた。
赤ちゃんの下には布一枚敷かれておらず、
相変わらず下半身裸で、汚れたコンクリートに直接置かれている。
赤ちゃんのそばには、若い労働者の兄ちゃんが一人。
特に赤ちゃんに構っている様子でもなかった。
赤ん坊をロープで繋いでおくのには抵抗を感じるが、
やむを得ないのだろう。
しばらく赤ちゃんに構っていると、上から母親がゴハンを持ってやってきた。
私は特に何をするでもなく近くに座って見ていると、
「仕事をくれないか」
と言ってきた。
一時帰国前に雇っていたメイドは連絡なしに休んでばかりで
クビにしてしまったので、少なくとも掃除婦を雇わなければと思っていた。
掃除と食器洗いならできると言うので、賃金の交渉をして
翌日から来てもらうことに。
運よくこの家の住人が出てきて通訳してくれたし、
わが家で毎日2時間働く許可ももらえた。
うちで仕事をするときは赤ちゃんを連れてくるよう伝えた。
少なくともうちにいる時間は、建築現場よりはいい環境だし、
誠一郎のおもちゃもたくさんあるから、それで遊んでいればいい。
その翌日から、彼女は赤ちゃんと一緒に毎朝わが家に来て
よく仕事をしてくれている。
若そうな彼女の年齢を聞くと
「分からない」
と言っていた。
インドの地方や田舎では、生年月日がはっきりしないのはよく聞く話。
見た目は20歳そこそこくらい。
田舎の習慣で若くして結婚したが、村では食うに食えないので
家族で都会へ出てきて働いているのだろう。
朝、母親はわが家で赤ちゃんの世話をしながら2時間ほど働き、
それを終えると建設の仕事に戻る。
誠一郎の遊び相手にもなるので、
夫-寅次郎が家にいる週末や、平日の夕方などは
赤ちゃんをうちで預かったりしている。
ミサールという名前のこの赤ちゃん(男の子)。
厳しい環境で育っているだけあって、ものすごく逞しい。
遊んでいて頭をぶつけたりしても全然泣かないし、
食事も日本の育児書ではまだおかゆの時期だが、
ミサールは既に大人と同じ硬さのご飯をムシャムシャ食べている。
月齢のわりに力が強く、動きも活発で、
誠一郎にしがみついてよじ登ってくる。
そんな勇猛果敢なミサールに泣かされてばかりの誠一郎・・
これじゃあまるで情けない箱入り息子である
負けるな、誠一郎!
労働者仲間と建設現場で働き、
寝起きをしているミサールの若い両親。
今回の増築工事が終われば、またどこかの現場に行ってしまう。
私にできるのは、その間、母親に仕事を与えて収入を増やし、
1日数時間、ミサールをわが家に置いておくくらいが関の山。
この赤ん坊は一体どんな人生を歩むのだろうと、
行く末を案じてしまう。
無力感に苛まれつつも、「何もしないよりはマシ」と思うことにしている。



