チャレンジャーA子、明日への挑戦![ビンディング練習走行 その1]
いよいよその日が来た。
A子はちょっと緊張していた。正直、怖さは少しある。
だから執拗なまでに室内のローラー台での練習を繰り返した。
たかがビンディング…そう、たかが自転車のペダルのためにこれほど準備練習をした人も、世界にそれほど多くはないはずだ。A子がこんなに頑張り屋さんだったなんて…。ローラー台の上で必死にペダルのキャッチ&リリースを繰り返すA子を見ながら、B夫は正直驚いた。そして感心した。ビンディングペダルの室内練習なんて聞いたことがなかった。彼はそんなことを思いつきさえしなかった…。
カレンダーには○印を付けた。練習後には毎回、B夫に“合格”の印鑑までもらった。期間で言えば約20日間、回数で言えば10回以上は室内練習を繰り返した。もう足は“捻る”動きをほぼ完璧にマスターしている。
最初は捻り方がちょっと違っていた。“足をはずさなきゃ”という意識が強すぎ、足を引きながら捻ってしまうので、うまく外せなかった。だけどそれも完璧に矯正された。
それにこのペダル、クランクブラザーズの「スマーティ」は最高にリリースがしやすいペダルだ。それがちょっとだけA子に安心感を与えている。
だけどやっぱり少し怖い。そう、今日はA子のビンディングペダル練習の“仕上げ”の日。B夫と連れ立って都内30kmのサイクリングに出かけるのだ。
途中には坂道もあるだろう。信号ストップも何度もある。クルマだって往来するし、どんな突発的な障害物に遭遇するとも限らない…。
だが、今日こそは成し遂げねばならないのだ。
今後のA子の自転車ライフをより良いものとするために…、いや、彼女の人生をより素晴らしいものとするために、この“試練”への挑戦、もっと言えば“自分自身への挑戦”は是非とも必要なことだったのだ!だから今回のA子のチャレンジに“挫折”の2文字はない。
何が起ころうとも、挑戦はやめない、絶対に!
A子は何度もそう自分に言い聞かせると、今回の検定員をつとめるB夫とともに、いよいよ世田谷B地区を出発、多摩川サイクリングロードを目指し、2台のロードバイクをスタートさせる。
★試練は訪れるのか?A子のビンディングペダル習得卒業検定!
多摩サイクリングコースには信号はない。だからそれほどペダルのキャッチ&リリースのことは心配しなくて済む。少なくとも平日は。
だが、今日は日曜日。予想通り、多摩サイでの散歩を楽しむ人や、不規則に行き交う自転車、子供、老人など、障害物はあまりにも多く、油断はできない。
A子は最大限の注意を払い、いつ緊急ストップをしなければいけない状況になっても対応できるよう、脳味噌の片隅にある「ビンディング・リリース回路」をONにしながら走行を続けた。
本来ならB夫が持つ「ご機嫌モニター」には、「短・短・長」、つまり「ツ・ツ・ツー」というイエローLEDの断続的な発光でそのことが示されるはずなのだが、あろうことか今日のB夫の「ピナレロ君」には「ご機嫌モニター」は装備されていない。捜査局からの使用許可が降りなかったのだ。
「ビンディングペダル練習は任務ではない。」
その一言で片付けられた。あたりまえだ。そんなことは誰でも知っている。
また、緊急事態を回避するための様々な特殊装置も同様の理由で今日は使用不可となった。だから今日のサイクリングはあくまで丸腰勝負だ。A子の真の実力が試されるのだ。
あくまで慎重に…注意深く。ロードバイクの二人連れとしては比較的遅めのペースで多摩サイを進む。いつ緊急事態が起きても対処できるよう、全神経をロードバイク操縦に使いながらのサイクリングだ。まるで特殊任務のようだ。
第一の目的地は、大田区の某所にあるパン屋。オリジナリティ溢れるおいしいパンが売られているらしい。
それをより一層おいしく食べるために今回、B夫とA子の二人は朝食を食べていなかった。朝、起床してから水とブレンディ入り牛乳以外なにも口にしていない。
だから二人は、この時点ですでに空腹感を覚えていた。自転車に乗るというのに何も食べないなど、まさに危険な賭け、いや狂気の沙汰とさえいえるかもしれない。万が一ハンガーノックに襲われたら走れなくなってしまうだけでなく、A子が冷静さを失い、さらなる“試練”を引き起こす可能性すらある。
そう、この時点の二人の最大の敵はビンディングペダルでもなく、ましてや道を行き交う障害物でもなく、“空腹”という自らの身体からの反応そのものだったのかもしれない。それにこの二人はまだ気づいていない。
世田谷からの多摩サイを大田区方面へと走る。国道一号と交差するところまでは多摩川の南側を走るが、そこからは一旦サイクリングロードが途切れてしまうため、川の反対側へと渡り、今度は川の北側を走る。ちょっと道が広くなり走りやすい。
「気持ちいいね。ビンディングは大丈夫?」
B夫はA子に語りかける。まるで甲子園を目指す野球部員のような厳しいビンディングペダル練習が効いたのだろう、A子はここまでの約10kmほどの道のりで一度も危険な目には会っていない。ペダルをはずしたのはおそらく10数回ほど。だが何の問題も起きていない。A子にしてみたら、まさにパーフェクトゲームだ。
「大丈夫! ここは広くて走りやすい。パン屋さんはもうすぐかしら?」
パン屋のことを考える余裕も出てきたみたいだ。B夫は少しほっとした。ここまでの行程でA子が予想通りビンディング・キャッチ&リリースのスキルを上げてきたのが証明されたからだ。これなら心配しなくても大丈夫かもしれない。まずパン屋を見つけないと。B夫は自身の脳みそのモードを変更した。“A子の動向監視&心配モード”から“パン屋捜索モード”へと。
その評判のパン屋へ行くのは今日がはじめてだ。だから二人はその正確な場所を知らない。唯一の手がかりは雑誌の記事だけ。二人は今日に限っては地図を持ってきていない。後でそのことを二人はどれほど後悔することになるのか…。
あまりに平和なある日曜日、時刻はだんだん昼時に近づいていた。A子のビンディングチャレンジ、そしてパン屋捜索はまだ始まったばかりだった。
【次回へ続く】
やっぱり長くなりそうか??? 次回は急展開があるのか???A子は大丈夫なのか???
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A子はちょっと緊張していた。正直、怖さは少しある。
だから執拗なまでに室内のローラー台での練習を繰り返した。
たかがビンディング…そう、たかが自転車のペダルのためにこれほど準備練習をした人も、世界にそれほど多くはないはずだ。A子がこんなに頑張り屋さんだったなんて…。ローラー台の上で必死にペダルのキャッチ&リリースを繰り返すA子を見ながら、B夫は正直驚いた。そして感心した。ビンディングペダルの室内練習なんて聞いたことがなかった。彼はそんなことを思いつきさえしなかった…。
カレンダーには○印を付けた。練習後には毎回、B夫に“合格”の印鑑までもらった。期間で言えば約20日間、回数で言えば10回以上は室内練習を繰り返した。もう足は“捻る”動きをほぼ完璧にマスターしている。
最初は捻り方がちょっと違っていた。“足をはずさなきゃ”という意識が強すぎ、足を引きながら捻ってしまうので、うまく外せなかった。だけどそれも完璧に矯正された。
それにこのペダル、クランクブラザーズの「スマーティ」は最高にリリースがしやすいペダルだ。それがちょっとだけA子に安心感を与えている。
だけどやっぱり少し怖い。そう、今日はA子のビンディングペダル練習の“仕上げ”の日。B夫と連れ立って都内30kmのサイクリングに出かけるのだ。
途中には坂道もあるだろう。信号ストップも何度もある。クルマだって往来するし、どんな突発的な障害物に遭遇するとも限らない…。
だが、今日こそは成し遂げねばならないのだ。
今後のA子の自転車ライフをより良いものとするために…、いや、彼女の人生をより素晴らしいものとするために、この“試練”への挑戦、もっと言えば“自分自身への挑戦”は是非とも必要なことだったのだ!だから今回のA子のチャレンジに“挫折”の2文字はない。
何が起ころうとも、挑戦はやめない、絶対に!
A子は何度もそう自分に言い聞かせると、今回の検定員をつとめるB夫とともに、いよいよ世田谷B地区を出発、多摩川サイクリングロードを目指し、2台のロードバイクをスタートさせる。
★試練は訪れるのか?A子のビンディングペダル習得卒業検定!
多摩サイクリングコースには信号はない。だからそれほどペダルのキャッチ&リリースのことは心配しなくて済む。少なくとも平日は。
だが、今日は日曜日。予想通り、多摩サイでの散歩を楽しむ人や、不規則に行き交う自転車、子供、老人など、障害物はあまりにも多く、油断はできない。
A子は最大限の注意を払い、いつ緊急ストップをしなければいけない状況になっても対応できるよう、脳味噌の片隅にある「ビンディング・リリース回路」をONにしながら走行を続けた。
本来ならB夫が持つ「ご機嫌モニター」には、「短・短・長」、つまり「ツ・ツ・ツー」というイエローLEDの断続的な発光でそのことが示されるはずなのだが、あろうことか今日のB夫の「ピナレロ君」には「ご機嫌モニター」は装備されていない。捜査局からの使用許可が降りなかったのだ。
「ビンディングペダル練習は任務ではない。」
その一言で片付けられた。あたりまえだ。そんなことは誰でも知っている。
また、緊急事態を回避するための様々な特殊装置も同様の理由で今日は使用不可となった。だから今日のサイクリングはあくまで丸腰勝負だ。A子の真の実力が試されるのだ。
あくまで慎重に…注意深く。ロードバイクの二人連れとしては比較的遅めのペースで多摩サイを進む。いつ緊急事態が起きても対処できるよう、全神経をロードバイク操縦に使いながらのサイクリングだ。まるで特殊任務のようだ。
第一の目的地は、大田区の某所にあるパン屋。オリジナリティ溢れるおいしいパンが売られているらしい。
それをより一層おいしく食べるために今回、B夫とA子の二人は朝食を食べていなかった。朝、起床してから水とブレンディ入り牛乳以外なにも口にしていない。
だから二人は、この時点ですでに空腹感を覚えていた。自転車に乗るというのに何も食べないなど、まさに危険な賭け、いや狂気の沙汰とさえいえるかもしれない。万が一ハンガーノックに襲われたら走れなくなってしまうだけでなく、A子が冷静さを失い、さらなる“試練”を引き起こす可能性すらある。
そう、この時点の二人の最大の敵はビンディングペダルでもなく、ましてや道を行き交う障害物でもなく、“空腹”という自らの身体からの反応そのものだったのかもしれない。それにこの二人はまだ気づいていない。
世田谷からの多摩サイを大田区方面へと走る。国道一号と交差するところまでは多摩川の南側を走るが、そこからは一旦サイクリングロードが途切れてしまうため、川の反対側へと渡り、今度は川の北側を走る。ちょっと道が広くなり走りやすい。
「気持ちいいね。ビンディングは大丈夫?」
B夫はA子に語りかける。まるで甲子園を目指す野球部員のような厳しいビンディングペダル練習が効いたのだろう、A子はここまでの約10kmほどの道のりで一度も危険な目には会っていない。ペダルをはずしたのはおそらく10数回ほど。だが何の問題も起きていない。A子にしてみたら、まさにパーフェクトゲームだ。
「大丈夫! ここは広くて走りやすい。パン屋さんはもうすぐかしら?」
パン屋のことを考える余裕も出てきたみたいだ。B夫は少しほっとした。ここまでの行程でA子が予想通りビンディング・キャッチ&リリースのスキルを上げてきたのが証明されたからだ。これなら心配しなくても大丈夫かもしれない。まずパン屋を見つけないと。B夫は自身の脳みそのモードを変更した。“A子の動向監視&心配モード”から“パン屋捜索モード”へと。
その評判のパン屋へ行くのは今日がはじめてだ。だから二人はその正確な場所を知らない。唯一の手がかりは雑誌の記事だけ。二人は今日に限っては地図を持ってきていない。後でそのことを二人はどれほど後悔することになるのか…。
あまりに平和なある日曜日、時刻はだんだん昼時に近づいていた。A子のビンディングチャレンジ、そしてパン屋捜索はまだ始まったばかりだった。
【次回へ続く】
やっぱり長くなりそうか??? 次回は急展開があるのか???A子は大丈夫なのか???
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