読み始めて、そのままにしてしまっていた本。
西加奈子さんの『きいろいゾウ』
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ツマという妻。
ムコさんという夫。
2人の視点で交互に書かれる。
ツマ視点が多いかな。
そして、圧倒的。
作者の西さんに近いのだろう。
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ツマの世界は、右脳の世界。
圧倒的な、右脳の世界。
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庭の虫、樹の声が、どわ~っと聴こえてくる。
右脳の世界に、分析、分断はない。
よく来る野良犬は、カンユさん。
チャボは、コソク。
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まるで、近所の人と同じあつかい。
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私は、ずっと田舎で暮らしていたけれど、そのねっとりとした
監視しているようなつきあいが嫌いだった。
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でもこの世界は、とてつもなく、やわらかい。
ツマが、分析、分断なく、全体として受け入れているからだろう。
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もちろん、嫌いな子もいたりするけれどね。
その子に好かれようとしてストレスになるんじゃなくて、
大人げなく、ふつうに嫌いな子を嫌ったりしている。
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なんだかね、と~ってもいい世界なんだ。
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でも、そんな変わったツマは、これまで大人たちから、
変わった子として扱われてきた。(ひどい感じじゃないけれど)
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そういうツマを、ムコさんは大事にしている。
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ツマの、ムコさんにプロポーズされた時の感想がすごいのだ。
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「これから恥ずかしいことが起こるのが怖い」という、頭のいい不登校の小学生に、
たどたどしい言葉で説明するんだけどね。
なんというか、人と人が出会うって、
人が人をかけがえがなく想うって、こういうことだね、と。
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ツマさんの言葉。
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「そのときまでのうちの人生がな、
あの瞬間に、ムコさんが結婚しよう言うたあの瞬間に、ぱちりと合うた」
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「恥ずかしいことも、ムコさんに会うて、結婚しようて言われたあのときから、
きちんと収まってきてん。~~~
それまでの恥ずかしいことも、全部、ぜ~んぶ、
かちりと収まった」
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「そうゆう恥ずかしいこともな、ぜんぶ、今この場所、コーヒー豆と
ムコさんの声に、向かってたんやって思ってん。
ああー、やっと着いたーゆうか、な。」
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これね、わかる。
ブログのコメント欄でやりとりしていた、心通じる女性と話していて、
そう思ったもん。
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これまでの経験、嫌なことも辛いことも、楽しいことも、
こんなふうにぴたりとわかち合うためにあったんだ、って。
なんだか、現れなくなった彼女を魂は探していて、
人魚姫を探している王子さまの気分。(あ、それた)
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で、ちょっと特殊で変わっているツマは、
そんなふうに思えたムコさんがとっても大事でかけがえがなくて、
男の子とはなしているうちに、
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「夏祭りのようなその屈託のない匂いは何故だか私の涙腺をゆるめて、
ああまた、ムコさんがいないと、私はだめになると思った。
私のこの貧相な体は、圧倒的にムコさんに頼っている。
『ムコさん。』」
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ツマにとっての、この、ムコさんのかけがえのなさ。
なんだかね、涙が出てくる。
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互いにかけがえがないと思えた時、
それぞれの生は、それぞれの存在によって輝くのだろうな。
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で、ここまで、
ツマのムコさんへの想いを描いておいて、
ムコさんが「いなくなる」状況へともっていく。
(まだそこまで読んでないけど)
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いや~、西加奈子さん、すごいっすね。
そりゃ切ないでしょう。(まだ読んでないけど)
以前読んだ、『さくら』より、こっちのほうが、私はだんぜん好き。
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3分の1までの、このゆったりのんびりした圧倒的な右脳の世界だけでも、
やられる。
豊かだわ~。
これよね、これ。
生きている豊かさ。
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人は、自分のなかのツマ、右脳の世界、
圧倒的な感覚の世界を大事にしたとき、
もうその瞬間から、豊かに幸せなんだよ。
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作家コンサル 亜沙みりえ
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