がん宣告から今日までのまとめ(8)
『声を失うということ』
★声を失ったことの辛さ★
気管癌が喉頭部にまで浸潤していることがわかり、気管の大部分を切除し胸に「気管孔」という息をするための孔を作り、声帯、甲状腺を含む喉頭部を全提出するという手術を受けました。
【声を失う前】
もともと能天気な私。
「喋れなくても余計なこと言わなくていいやん。」
「カラオケ?聞く側に回ればいいやん。」
「ギター?弾き語りは出来ないけど弾きは出来るやん。」
「電話?ライン、メールがあるやん。」
どっちかと謂えば、今まではしゃべり!「高倉健さんのような寡黙な男の人生もええやん」くらいに思っていました。
【入院中・特に手術直後】
しかし、実際に声を失ってみると、なんと不便なことか!!
《術後のICU、HCU、病室》
◎声がでないに加えて、
◎上体が思うように動かないこともありジェスチャーも出来ない。
◎首から左右上下に切開しているから仰向けに寝た状態から首も痛くて起こせない。
その状態でノートと鉛筆を持たされても手も上がらないから書きようがないのです。加えて老眼まじりの近眼ということも手伝ってノートが見えない。
◎『ここが痛い』と伝えたくても腕が動かせないので指でも示せない。
◎それが、周囲の家族、看護師ですらなかなか理解してもらえない。
読唇術を習得してない限り、いくら家族でも私の口の動きを見てもなかなかわからない。何度繰返してもわからない。
『なんでわからないんや』と思ってしまう私。
一生懸命理解しょうとしても『言いたいことがわからない』と途方に暮れる家族。
私が悲しそうな顔をすると家内も泣きそうな気分になる。
術後はそんな感じでした。
【一般病棟・退院後】
コミュニケーションは、主に人工電気喉頭と筆談(ノート・コミュニケーションボード)です。
最初は筆談だけでしたが、ノートにしろ、お絵かきボードにしろ、口での会話のようなタイムリーな相槌を打てませんし、隣にいればいいのですが、離れているとますますタイムリーなコミュニケーションが出来ないので面倒くさくなって伝えるのをやめてしまうこともあります。
そして、何を話したかったか忘れてしまう😢。
会話の内容をメモ代わりに残しておいたり、何度も複数の人に伝えたりするときにはノートを使った筆談が便利です。ただ、時間がかかり面倒くさいです。
★電気式人工喉頭★
手術の数週間後、主治医から「電気式人工喉頭」を試してみてはどうかという提案がありました。
声がロボットボイスになること、「は行」が「あ行」になり出せない。「か行」「さ行」は舌をうまく使うテクニックを習得しないと発音出来ないなど難点もありますが、よりタイムリーな相槌をうつには「電気式人工喉頭」が便利です。
『電気式人工喉頭ユアトーンのホームページ』
しかし、電話対応、訪問者対応、買い物、役所での手続きなどで複雑な説明を要する時は誤解を生じる可能性もあるので妻を頼らざるを得ないのが現状です。
退院後に気が付いたのですが、電気式人工喉頭では、電車内、駅構内、居酒屋のような飲食店、工場内のように人が多く集まる場所、騒音の多い場所では「ザワザワ」という音に人工喉頭の音声がかき消され使い物になりません。致し方なく満員の電車、バスに乗り合わせた時など、降りようにもその意思を伝えることが出来ません。
私の仕事は金属加工機械の営業マンでしたが、販売交渉、電話対応、時には重量物の運搬、工場内でのデモンストレーションが満足に出来ないことから退院後、復帰を断念。退社を余儀なくされたのです。
現役世代のがん患者にとって声を失うと言う事は切実な現実問題になります。
★声の障害マーク・ヘルプマーク★
最近、椎名林檎さんのグッズが極似しているということで話題になった「ヘルプマーク」や周囲の人に「声が出ません。話せません。」ということを伝えられる「声の障害マーク」などの正当な普及は我々障害を持つ者にとっては命に係わる問題です。日常生活において周囲に誤解を与えないためにもそれらの普及を切に願うところです。
(※筋トレの基本について語るBIGTOEの手術前の音声が出てきました。私自身、5年3か月ぶりに聞く自分の声です。)