我が国社会も、離婚は増えています。
離婚が増えれば、離婚経験のある人同士の結婚(再婚)も増えていくのが自然でしょう。
そうした場合、新たに再婚した相手に連れ子(前の配偶者との間の子ども)がいることも多く、こうした再婚相手の連れ子と養子縁組をするというケースも増えています。
他方で、離婚にあたって、子どもの養育費の支払いを取り決めていた場合、新たに再婚に当たって、再婚相手の連れ子と養子縁組を行った場合に、離婚の際に取り決めた養育費の変更(減額)を求めることができるかどうか、といった相談が最近多くなっています。
【離婚した配偶者が再婚した場合】
夫Aさんと妻Bさんの夫婦の間には、子どものCさん(16歳)がいましたが、離婚しました。
Cさんの親権者は妻のBさんになりました。
そして、Aさんは、Bさんと離婚するにあたり、Cさんの養育費の金額を取り決め、離婚後は毎月養育費をBさんに支払っていました。
その後、元夫のAさんは、Dさんと結婚しました。
Dさんも再婚で、Dさんは前の夫との間の子どものEさん(17歳)の親権者でした。
Aさんは、Dさんと再婚するにあたり、Dさんの連れ子であるEさんと養子縁組を行いました。
こうした事情のもとで、再婚し、Eさんと養子縁組をしたAさんは、Bさんに対して離婚の際に取り決めたCさんの養育費の減額を求めることができないでしょうか?
【離婚後の事情変更に基づく養育費の減額請求】
再婚相手であるDさんの連れ子であるEさんと養子縁組をしたAさんは、養子であるEさんに対して、Eさんの実父(Dさんの前夫)に優先して親としての扶養義務を負うことになります(民法887条1項、同730条)。なお、反面として、Eさんの実父がそれまでEさんに対して負っていた扶養義務は、二次的なものに後退することになります(たとえば、優先する扶養義務者であるAさんの収入のみでEさんを養育することが困難な事情などがある場合のみ、養育費の支払義務を負うなど)。
他方で、離婚の際に取り決める養育費は、あくまで将来の再婚や再婚相手との養子縁組などを考慮して決めるということは通常ありません。
ですから、離婚の際の事情と異なる事情が生じた(再婚と養子縁組)場合に、離婚の際に取り決めた養育費の変更(減額)を求めることができるかどうかということが、問題となるのです。
この点、実際の家庭裁判所において、こうした事例で養育費減額の申立がなされた審判例においては、やはり再婚相手との養子縁組をすることにより、その養子に対して実父に優先する扶養義務を負うこと等を根拠に、養育費の減額が認められる傾向にあります(たとえば、大阪高裁平成28年10月13日決定・家庭の法と裁判19号95頁)。
【実際の計算方法】
家庭裁判所の実務では、子どもの養育費は以下のように算定されます。
まず、子どもの生活費を算定します。
子どもの生活費は、義務者(養育費を支払う人)の基礎収入×{子の指数÷(義務者の指数+子の指数)}で算出します。
基礎収入というのは、その人の税込収入から公租公課、職業費(被服費、交通費、交際費)、特別経費(住居費、医療費)を控除した金額であり、いわば養育費を捻出する基礎となる収入のことです。
給与所得者の場合の基礎収入は、概ね総収入の0.34%~0.42%の割合で算出されます。
さらに、指数というのは、標準的な生活費の指数のことであり、親の標準的な生活費の指数を100とした場合、0歳から14歳までの子どもの指数は55、15歳から19歳までの子どもの指数は90として計算されます。
このようにして子どもの生活費を計算した上、次に具体的な義務者の養育費の分担額を計算します。
義務者の養育費分担額は、上記で算出した子どもの生活費×{義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)}で算定されます。
上記の大阪高裁での審判例では、義務者であるAさんの月額基礎収入が18万6718円、権利者であるBさんの月額基礎収入が6万8143円と認定されました。
そして、AさんがEさんと養子縁組をする前のCさんに対する月額養育費は、次のように算定されます。
Cさんの生活費=18万6718円×{90÷(100+90)}=8万8445円
Aさんの養育費分担額=8万8445円×{18万6718円÷(18万6718円+6万8143円)}=6万4797円
次に、AさんがEさんと養子縁組をした後の、Cさんに対する月額養育費は、上記計算方法によれば次にとおりとなります。
Cさんの生活費=18万6718円×{90÷(100+90+90)}=6万0016円
Aさんの養育費分担額=6万0016円×{18万6718円÷(18万6718円+6万8143円)}=4万3969円
そこで、具体的には、Aさんとしては、Eさんと養子縁組を行うことにより、Cさんの養育費については、月額2万0828円の減額を求めることができるということになります。
【まとめ】
家族のあり方も多様化しており、離婚・再婚が珍しいことではなくなってくると、それに合わせた法制度の整備が課題になってきます。
確かに、Aさんの立場に立てば、再婚・養子縁組という、離婚時には想定していなかった事情の変更について考慮してほしいという要求はあるでしょう。
ただ、子どものCさんの立場に立ってみると、実父が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組を行うことによって、自分に支払われていた養育費が減額されるというのは、時に理不尽な事情にも感じ、経済的にも厳しい立場に立たされることにもなりかねません。
そうした場合の母子家庭の公的な支援なども含めて、家族の多様化に対応した法制度の整備が望まれるところです。