1  大家さんからの契約更新を拒絶された
  今日は、次のような事例を考えてみましょう。

  Aさんは、10年前から戸建て住宅(建物)を借りて住んでいます。建物の賃貸借契約の期間は2年で、これまで4回契約が更新されてきました。更新のたびに大家さんに更新料も支払ってきました。

  Aさんとしては、この住宅が気に入っているので、今後も長年ここに住み続けたいと考えていました。今の契約は今年の3月までとなっていますが、Aさんは、当然今回も今まで通り賃貸借契約が更新されるものと思っていました。

  ところが、半年前に大家さんから、この建物は築30年で古くて建て替える必要があるので、今回は契約の更新をしないと言われてしまいました。

  このような場合、賃貸借契約の更新ができず、Aさんは建物を大家さんに明け渡さなくてはならないのでしょうか。

2  借地借家法で定められた更新拒絶の「正当の事由」とは?
  この点、建物の賃貸借においては、借地借家法という法律が適用され、借主は相当手厚く保護されています。

  どういうことかと言うと、通常の建物の賃貸借契約においては、大家さん(貸主)が契約の更新の拒絶をする場合には、借地借家法28条で定められた「正当の事由」があることが必要です。

  この借地借家法28条では、建物の貸主が契約の更新拒絶の要件として、次のように書かれています。少し長いですが引用してみます。

「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

  法律用語では、貸している方を賃貸人、借りている方を賃借人と言います。

  まず、賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情とは、簡単に言えば、、大家さんが他に住むところがなく、貸している建物を返してもらってそこに住む必要性が高ければ賃貸人に有利な事情となります。しかし、そうでなければ、通常は現にその建物に住んでいる借主(賃借人)の方が、その建物の使用を必要とする程度は高いでしょう。

  次に、建物の賃貸借に関する従前の経過とは、要するに、これまでの契約更新の状況とか、借主がこれまで家賃の支払いをきちんとしているか、更新料を支払っているかといった事情です。

  また、建物の利用状況とは、借主が賃貸借契約の目的に従った使用をしているか、また借主がその建物を使用する頻度などです。たとえば、居住用の目的で借りたにもかかわらず、その建物を会社の事務所として使用したり、借主がその建物を使用する頻度が低い場合には、借主に不利な事情となり得ます。しかし、本件のAさんにはこうした事情はなく、問題はないでしょう。

  そして、建物の現況とは、その建物がどの程度老朽化しているか、その建物の補修のためにどのくらいの費用がかかるかといった事情です。

  最後に、「建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」とは、いわゆる大家さんが支払う立退料のことです。

  これらの事情を総合的に考慮して、大家さんの更新拒絶に「正当の事由」があるかどうかが判断されるということです。

3  建物の老朽化と更新拒絶
  上記の建物の現況の要件に関連して、建物の老朽化がひどく、その補修のために多大な費用を要するような場合であれば、「正当の事由」と認められ、大家さんの更新拒絶が認められる可能性はあります。

  しかし、裁判実務上は、この建物の老朽化の要件は相当厳しく判断されており、本件のように築30年程度では老朽化がひどいと判断される可能性は低いと思われます。

  また、たとえ建物が老朽化していたとしても、賃貸人がその建物の保守管理をきちんと行わなかったことが老朽化の一因になっているような場合には、「正当の事由」は認められないとされた判例もあります。

4  その後はどうなるのか?
  このように、借地借家法は借主を保護するための法律ですので、逆に貸主(大家さん)には結構厳しい解釈がなされています。

  上記のように、本件では、単に築30年で古くて立て替えたいという大家さんの希望だけでは「正当の事由」はなく、大家さんからの契約更新の拒絶はできないと判断される可能性が高いです。

  それでは、本件で、Aさんと大家さんの話し合いがつかずに契約の期限である平成27年3月が経過してしまった場合はどうなるのでしょうか?

  本件では、大家さんの更新拒絶の通知が無効ということになりますので、法律上は以前の契約と同じ条件で契約を更新したものとみなされます。これを法定更新といい、当事者間で更新契約を結ばなかったとしても、法律上更新がなされたという扱いになるのです。

  ですから、Aさんとしては、平成27年3月までに大家さんと話し合いがつかなかったとしても、建物を出て行く必要はなく、従前通りそこに住んでいることができるということになります。

  ただし、法定更新となる平成27年4月以降は、その建物の期間の定めのない賃貸借契約が結ばれたものと扱われます(借地借家法26条)。

  期間の定めのない賃貸借契約では、当事者はいつでも契約の解約の申し入れを行うことができます。ただし、大家さんから解約の申し入れを行う場合には、やはり上記と同様に借地借家法28条によって、解約の申し入れにも「正当の事由」があることが必要となっています。「正当の事由」の判断基準は、上記の更新拒絶の場合と同じです。

  このように、本件では、いずれにしてもAさんの借主としての立場は保護されることになります。

5  定期建物賃貸借
  このように、通常の建物賃貸借契約では、契約期間が満了しても、大家さんからの更新拒絶は厳しく制限されています。

  ただ、大家さんの立場から考えると、事情があって一定の期間だけ自分の建物を他人に貸したいというような場合、通常の賃貸借契約では更新拒絶には「正当の事由」が必要ですので、更新拒絶が認められるかどうか分からず不安定になってしまいます。

  そこで、契約の更新がないこととすることを定めた定期建物賃貸借という制度があります。

  この制度は、賃貸借契約を結ぶ際に、公正証書などの書面(通常は契約書)を作成する必要があり、その契約書に、賃貸借の更新がなく、契約期間の満了によって賃貸借は終了することを記載しなければなりません(借地借家法38条1項、2項)。

  このような定期建物賃貸借契約を締結した場合には、契約期間の満了によって賃貸借契約は終了しますので、借主は契約の更新を求めることはできず、契約期間の満了時に建物を大家さんに明け渡さなければならないことになります。

6  まとめ
  高度経済成長期に大量に建築された建造物が老朽化の段階に入っており、今後本件のような事例は増加するものと思われます。

  上記のように、築30年程度では「正当の事由」と判断される可能性は低いですが、実際の事例では、築50年、築60年といったより古い物件も多く、判断が分かれる事例もあります。

  今回は老朽化と更新拒絶というテーマを取り上げましたが、不動産の賃貸借をめぐっては、他にも賃料の不払い、立退料の問題、建物の修繕、借主の迷惑行為、敷金問題などさまざまな論点があります。

  今後適宜このブログでも取り上げてみたいと思います。

  


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