1  増えている遺産相続争い
  高齢化社会の進展とともに、その高齢者がのこした遺産をめぐって、その相続人が相続争いをするというケースが増えています。

  日本弁護士連合会発行の2014年版「弁護士白書」によりますと、家庭裁判所の遺産分割調停事件(相続人同士が、遺産の分け方を巡って紛争になり、裁判所に調停の申立を行う事件)の総数は、2013年は1万2263件と過去最高の件数となっています。

2  相続争いの典型的なケース
  相続争いが起こる典型的なケースとして、次のような事例が考えられます。

  Aさん(82歳)は、B、C、Dの3人の子どもがいます。Aさんは、数年前に夫を亡くし、Aさん名義の自宅で子どものうちの1人のBさんと同居して生活していました。Bさんは、高齢の母親であるAさんの介護などを献身的に行っていましたが、そのほかの子どもであるCさんやDさんは、ほとんど実家にも帰らず、母親であるAさんの面倒はもっぱらBさんに任せきりでした。

  Aさんには、自宅の土地建物以外には特に財産はありませんでした。そこで、Aさんは、自分が死んだ後は、自分の面倒を見てくれたBさんにこの土地と建物をあげたいと考えており、そのようにBさんに話をしていました。

  ところが、そんな矢先にAさんは突然心筋梗塞で亡くなってしまいました。

  このようなケースでは、Aさんの法定相続人はBさん、Cさん、Dさんの3人で、Aさんの相続財産である自宅の土地建物について、それぞれ平等に3分の1ずつ権利を持っています(これを法定相続分と言います)。

  ですから、Aさんが生前に、自分の死後には自分の面倒を見てくれたBさんに土地建物をあげたいと考えていても、そのほかの法定相続人であるCさんやDさんが権利を主張した場合には、土地建物はBさん1人のものにはなりません。

  この場合には、結局自宅の土地建物を売却してお金に換えて3人で分けるか、土地建物を兄弟3人で共有という形で所有するかということになってしまいます。

  母親であるAさんの面倒を見たBさんからしてみれば、母親と一緒に住んでいた自宅の土地建物を売らなければならないのは辛いでしょうし、かと言って、土地建物を兄弟3人の共有にするというのも、将来に紛争の火種を残すことになってしまいます。

3  遺言の効用
  このようなことを防ぐためには、Aさんが生前に、自宅の土地建物を自分の死後にBさん1人に相続させるという内容の遺言を書くことが効果的です。

  遺言は、亡くなった方の遺志ですので、遺言の内容が法定相続よりも優先されます。ですから、このような遺言をAさんが生前に書いておけば、Bさん1人が土地建物を相続することができることになります。

  この場合でも、ほかの相続人であるCさんとDさんにも、遺留分(いりゅうぶん)という権利があります。遺留分というのは、相続財産のうちの一定の範囲のものを相続人に留保するという制度です。つまり、ある1人の相続人にすべての財産を相続させるという遺言を書いた場合でも、ほかの相続人は相続財産のうちの一定範囲の遺留分については権利を持っているということです。

  ただし、上記の事例で言えば、CさんとDさんの遺留分は法定相続分の半分(つまり、1/3の半分の1/6)ですし、遺留分の請求は1年間という期間制限があります(民法1042条)。そして、遺留分の請求権は、権利行使することによって初めて効果が発生するので、CさんとDさんがそれぞれ1年間遺留分の請求をしなかった場合には、確定的にAさんの遺言どおりに法的な効果が確定することになります(つまり、Bさんが1人で土地建物を取得できるということです)。

4  遺言の種類と特徴
  なお、上記の事例では、Aさんは口約束でBさんに自分の死後は土地建物をBさんにあげるという話はしていました。

  しかし、遺言は厳格な方式が要求される制度であり、単なる口約束では有効な遺言とは認められません。法律で定められた方式にしたがってなされる必要があるのです。

  遺言には、大きく分けて、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

(1)自筆証書遺言
   これは、文字通り自分自身で手書きで作成する遺言のことです。

   自筆証書遺言は、費用もかからず手軽に書けるというメリットがありますが、有効な遺言として成立するための要件が厳しく、またなくしたり、誰かに偽造されたりする危険がある点がデメリットです。

   自筆証書遺言は、その内容の全文、日付、氏名を自分で手書きで記載して、印鑑を押す必要があります。必ず手書きでなければならず、ワープロやパソコンで書いた遺言は無効です。

  日付についても、必ず何月何日まで書かなければなりません。たとえば「平成27年3月」とだけしか書かれていない遺言は無効です。必ず月日を書くようにして下さい。

  遺言は、複数書くことができ、前に書いた遺言の内容と、後に書いた遺言の内容が違う場合には、後に書いた遺言が有効になります。そこで、遺言の日付を厳密に特定しないと、どち5の遺言が有効かが分からなくなってしまいます。なので、月日まで書かなければならないのです。

(2)公正証書遺言
   次に、公正証書遺言は、公証役場で、公証人という専門家に作ってもらう遺言です。

   公証人というのは、主に裁判官や検察官出身の法律の専門家です。

   この公正証書遺言は、専門家が作成するため、後で無効になるリスクは少なく、また遺言書の原本が公証役場に保管されるので、紛失や偽造等のリスクはありません。

   ただし、公証人に公正証書遺言の作成手数料を支払わなければなりません。具体的な手数料の金額は、遺産の額によって異なりますが、おおむね2~3万円から高くても7~8万円くらいが多いようです。

   現在は、公証役場もホームページを備えており、メールでの申込も可能なところが増えているようです。

5  遺言書の作成を弁護士に頼んだ場合の費用
  最後に、遺言の作成を弁護士に依頼した場合の弁護士費用について簡単にご説明します。

  私の所属する澁谷共同法律事務所では、定型的な遺言書の作成の場合、作成手数料としておおむね10万円から20万円程度の費用をいただいています。

  ただし、複雑な遺言書作成の場合や、遺言の目的となる財産の金額等によっては、追加で費用をお願いする場合もあります。

  弁護士に依頼した場合は、弁護士が遺言を作成しようとしている方から直接丁寧にお話しを伺い、自筆証書遺言の場合も公正証書遺言の場合も、弁護士が遺言書の案文を作成します。

  さきほど、自筆証書遺言は要件が厳しく、要件を満たしていないと遺言が無効になるというリスクがあることを説明しました。しかし、弁護士に依頼すれば、このようなリスクをなくすことができます。

  さらに、公正証書遺言の場合は、必要となる戸籍謄本や不動産の登記簿謄本、固定資産評価証明書等の書類の取り寄せも法律事務所で行い、公証役場と遺言書の案文のやりとりや遺言書作成の日程調整などの、ご本人がやるには面倒な手続もすべて法律事務所・弁護士で行います。

6  ぜひ元気なうちに遺言を
   このように、遺言を作成するのはある程度お金もかかります。

  しかし、有効な遺言を作成しておくことは、上記のAさんのように、将来自分の死後に相続人が争ったり、一つしかない家を売らなければならないといったことを防ぐことにつながります。

  もし遺言書がなくて、死後に相続人が争い、それこそ裁判等になった場合には、解決までにもっと多くのお金や時間がかかってしまいます。

  そして、自分の家族だけは大丈夫だ、争いごとなどおこさないと安易に考えないで下さい。どんな方でも、将来相続で親子間、兄弟間で争いがおこる可能性はあるのです。

  のこされた家族が財産をめぐって争うことのないように、ぜひ元気なうちに遺言を作ることを考えてみて下さい。