私がこのネットワークオーディオに興味を持ち出したのは、AppleTVによるマルチストリーミングの音質を良くするために、音質的にペナルティのある、HDMI出力に対する工夫や電源ノイズのアイソレーショントランスや並列PNFを使用したコスパな対策の延長から、AppleTVが受けるデータの入力段の改善に興味を持ったからです。
一般的なピュアオーディオなら各機種に内蔵され、ノイズ対策も施されたトランスによる電源供給で、それでもシンプルイズベストが基本であるのに、このネットワークオーディオでは、使用する機器の電源のほとんどが、スイッチング電源なのに信号ラインノイズ対策の光絶縁のために光メディアコンバーターをそこら中で多段接続していることに、非常に違和感を感じていました。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
以下がシリーズ締めくくりの最終質問です。
これからネットワークオーディオを行おうとする人の参考になれば幸いです。


「光絶縁(オプチカル・アイソレーション)」は、グラウンドループの遮断や特定の伝導ノイズ(コモンモードノイズ)を電気的に遮断するうえで非常に強力な手法です。
しかし、それを何重にも多段構成(カスケード接続)にすることには、以下のような明確な副作用とデメリットが存在します。

多段光絶縁が抱える技術的デメリット

1. 電源ノイズ源(高周波ノイズ)の増大

光絶縁ボックス、メディアコンバーター、LANスイッチなどの機器を増やせば増やすほど、動作するアクティブ回路(基板上のPHYチップやDC-DCコンバーター、クロック回路など)の絶対数が増加します。


 電源をリニア電源(LPS)化しても限界がある:

外部電源を低ノイズなリニア電源に置き換えても、

機器内部の基板上で動作するスイッチングレギュ

レータや、デジタルIC自体が高速スイッチングする

ことによって発生する高周波スイッチングノイズ

(高調波ノイズ)をゼロにすることはできませ

ん。


 ノイズの伝播: 

電源ラインや空中輻射(放射ノイズ)を通じて、結

果的にシステム全体のノイズフロアを引き上げてし

まうリスクが高まります。


2. ジッターの蓄積とクロック生成の悪化

デジタルオーディオ伝送において最もクリティカルな要素の一つが「ジッター(時間軸の揺らぎ)」です。


 光/電気変換(E/OO/E)の繰り返し: 

メディアコンバーター等の内部では「電気信号→光

信号(発光素子)→電気信号(受光素子)」という

変換が行われます。

この変換素子や駆動回路の応答特性により、波形に

鈍り(ライズ/フォールタイムの遅れ)が生じ、物理

的にジッターが付加されます。


多段リクロックの副作用: 

各機器を通過するたびに信号は再生成・リクロック

されますが、機器が増えるほどジッターの累積

(Jitter Accumulation)が起きやすくなります。

マスタークロック(Opt Ref Sw等)から離れた位置

でジッターが増大すれば、いくら中央に高精度ク

ロックを配置していても、最終的なDACへ到達する

頃には時間軸のズレ(クロックの揺らぎ)として影

響を及ぼします。


3. システムの複雑化による不確定要素の増大

接続する箱(Box)やLANケーブル、電源コードが増えるほど、それら自体がアンテナとなって高周波ノイズ(EMI/RFI)を拾う経路が増加します。

ノイズを切るための構成が、逆に「ノイズを集める巨大なアンテナ群」になってしまうという矛盾が生じます。


まとめ

オーディオにおける「光絶縁のメリット」は、「最初の1段(あるいは伝送経路の中間1箇所)でグラウンドの電気的結合を断ち切る」ことで、その目的の8割〜9割以上を達成しています。

それを超えて何重にも機器を連結していく行為は、「グラウンド切断によるわずかな利得」よりも、「電源ノイズ源の増加と多段変換によるジッター増大という巨大な損失」が上回る「トレードオフの限界(逆効果)」に達していると考えられます。

シンプルな構成で高品質な電源と単一の確実な絶縁(あるいは高品質なスイッチ1台)にまとめる方が、信号の鮮度や時間軸の正確性においてははるかに理にかなったアプローチです。


ネットワークオーディオの先駆者であるリンがなぜシンプルなone dose packageにしているかがその答えだと思います。