AVファンやゲーマーの間では、Apple TV 4KやXbox Series X/Sなどのデバイスを通じて耳にすることが増えた規格ですが、一言で言えば「ロスレスのマルチチャンネルLPCMに、Dolby Atmosのメタデータを埋め込んで伝送する技術」のことです。
仕組みやメリットを、わかりやすく整理して解説します。
1. Dolby MATの仕組み
通常、Dolby Atmosを伝送するには以下の2つのルートが主流です。
• Dolby Digital Plus (DD+) ベース: 圧縮音源(ストリーミング配信など)。
• Dolby TrueHD ベース: 無圧縮ロスレス(Blu-rayなど)。
これらに対し、Dolby MATは「再生機器側(プレーヤーやゲーム機)」で一度デコードを行い、非圧縮のLPCMという状態にします。そこにAtmosの「位置情報(メタデータ)」を載せてAVアンプへ送ります。
アンプ側から見ると、「Atmosデータが含まれたマルチチャンネルPCM」として届くことになります。
2. なぜDolby MATが必要なのか?(メリット)
① 遅延(レイテンシ)の極小化
ゲーム機などで効果を発揮します。音声をDD+やTrueHDにリアルタイムでエンコード(圧縮)して送ると、わずかな処理遅延が発生します。MATは非圧縮のLPCMベースで送るため、エンコードの手間が省け、映像と音のズレを最小限に抑えられます。
② システム音のミックスが可能
Apple TV 4Kなどがこれを利用する最大の理由です。
通常のビットストリーム出力(アンプにデコードを任せる方法)では、動画の音声をそのまま送るため、OSが発する「カチッ」という操作音や他のアプリの音を混ぜることができません。MATなら、プレーヤー側でAtmos音源とシステム音をミキシングしてから、一つのストリームとしてアンプに送ることができます。
③ 高音質(ロスレス)
ベースがLPCMであるため、TrueHDと同様に音質の劣化がないロスレス伝送となります。ストリーミングサービスのDD+ベースのAtmosよりも、ポテンシャルとしては高い情報量を持っています。
3. 注意点
• eARCが必須:
LPCMのマルチチャンネル伝送はデータ量が非常に多いため、従来のARC(Audio Return Channel)では帯域が足りません。テレビを経由してアンプに送る場合は、テレビとアンプの両方がeARCに対応している必要があります。
• アンプ側の表示:
お使いのアンプによっては、入力ソースが「Dolby Atmos」と表示されるものもあれば、「PCM + Dolby Atmos」のように表示されるものもありますが、どちらも正しく動作しています。
ハイエンドなオーディオ環境をお持ちの方にとっては、**「再生デバイス側で処理を完結させつつ、ロスレスでアンプに届けられる合理的な伝送方式」**と捉えていただければ間違いありません。