作者も知らなかったPALMのあの辺 | AID - Animals In the Dark

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Blog by graphic novelist Yeasty Kemonogi.
漫画家獸木野生のオフィシャル・ブログ。著作PALM(パーム)、
ペット、アニマルライツ・コミュニティAID活動、旅行記他。
甲斐犬MIXハリーと黒猫ジェームスをはじめ
ブログに登場する主な犬猫は、保護された子たちです。


長い長い長〜〜い話な上、構成が環状で結末や途中経過がところどころ暴露されてるPALM。
その割に比較的?矛盾がないので、初めから緻密に構成されたストーリーと言っていただいたりもしたが、何しろ80年代からの連載だからもちろんそれは無理。

最終話に近い過去編のため、作者がなんも知らないで書いてる証拠?がたくさんあるエピソード、蜘蛛の紋様の作品解説(以下リンク)でその辺が詳しく暴露されてるが、このブログにも絵入りでサクッとまとめておこう。

http://www.magiccity.ne.jp/~bigcat/WORKS/PALM13.html


ちなみに蜘蛛の紋様は、1984年(作者23歳)にボツとなった短い第一稿、正式に使用された第二稿が蜘蛛の紋様連載を行いながら2005-2011に書かれている。
以下に出てくる関口さんというのは、第一稿執筆当時の担当さんのこと。

 




・ジェームスの幼なじみ(?)フィル・マッサリは「午前の光」で発想されたキャラクター。
従って「蜘蛛の紋様」のジェームスの幼児期のビーチハウスでのエピソードは連載時になってはじめて挿入されたもの。
いぢめられてた模様




・カーターの学生時代のエピソード(反戦運動、プレイボーイ生活)はほとんどすべて第二稿執筆時に発想された(第一稿当時、23歳の自分では思いつかないような内容も多い・・)
第一稿では、学生仲間のウォーレンはベトナムに行かず、カーターが勝手に彼がベトナム参戦を決意したと早合点して騒ぐという内容で、そのときの関口さんのアドバイスを守って、第二稿ではウォーレンは戦死している(関口さん以降は連載前にあらかじめシナリオを編集部に見せることはなくなり、担当さんたちからストーリーの内容について進言を受けることも一切なかったので、これは編集さんのアドバイスが話に生かされた、PALMでは非常にめずらしいケース)。
またカーターも参戦しようとした、という設定は、探偵免許取得に兵役(か警官などの)経験が必要と判明したシリーズ後半に設けられた。



・エリー崩壊の設定について/
エリー幹部殺害や、エリー崩壊の具体的な過程は今回の「蜘蛛の紋様」連載時にはじめてストーリーが作られた。

・シド・ブライアン以外のブライアン兄弟(ゾーイ、ルガー)、ジョージ・ブライアンとその息子のザックとボーの双子、コナー5兄弟などは第二稿で初めて生み出されたキャラクター。
つまり「あるはずのない海」で語られていた「ジェームスわ'がエリーから脱出する際行った殺人」についての経緯、詳細(ゾーイが処刑されることを含む)のすべては「蜘蛛の紋様」連載時に考えられたもの。


・サロニーが幹部殺害を行ったことは、第二稿執筆時に思いついて挿入されたエピソード。(サロニー自体「星の歴史」ではじめて発想・デザインされたキャラで第一稿執筆時は存在していない)

・上と同じ理由から、ブライアン・ファミリーの双子の生き残りや、その父ジョージが、ジェームスに殺意を持ったためサロニーに殺されたエピソードなどはあとから付け足された




・レイランダーがジェームスの居場所を知った経緯/
上と同じくサロニーが「星の歴史」以前は存在しないキャラだったため、サロニーがレイランダーにジェームスの所在を教えたシーンは「蜘蛛の紋様」連載時に思いつき、付け加えられたもの。
(サロニーがスタン・マティックとすれ違ってマイケル・ネガットが生き延びたことを知っていたことは、「星の歴史」で発想し、書かれている)



・「ナッシング・ハート」でエリーがアーサー・ネガットに「若い衆のあやまちをとりなすため、油田を渡した」とき、その若い衆がシドとゾーイであることはまったく設定されていなかった(誰かは当時ストーリー上問題でなかった)



・ジェームスの傷について/ 
  腕の傷は番外編「お料理教室」(デビュー当時の作品)で気まぐれに描いたもので、この傷のついたエピソードはあとからのでっち上げ(背中と犬のかみ傷と散弾のあとは何で付けられるかは決まっていた)



・グリフィン親子の存在は「愛でなく」の回想シーンではじめて発想された(それ以前はまったく考えられていなかったため登場しなかった)。
「愛でなく」の段階では、ロゼラがジェームスの初恋の相手になることは、設定上かなり無理があるためまだ決定していなかった。


・シドがジェームスを撃ってから殺されるまでの台詞/
PALM初〜中期の作品に登場するこのシーンの回想では、ストーリーの詳細は不明だった(決まっていなかった)ため、あとで融通が利くようセリフは抽象的な断片のみを使い、「蜘蛛の紋様」時に、それを埋める形でシナリオを再構成した。



・ジェームスがエリーの組織から脱走したシーンについて/
ジェームスが渋滞中の車から脱走するこのシーンは、「あるはずのない海」の冒頭と、26年後の作品「蜘蛛の紋様」の後半で二回描かれている。
ジェームスがシドの散弾銃で撃たれたあと車椅子の生活を送ったこと、それを利用して脱走したこと、またエリーがジェームスに渡した銃が空であったという設定や、ジェームスが前日にゾーイから弾丸を入手した経緯は「蜘蛛の紋様」連載時に発想し書き加えられた設定。
「あるはずのない海」でこのシーンが描かれた段階では、ジェームスが弾倉を開けてみる部分、マイアーがジェームスが走れることを知って驚くショットは描かれていない。
のちのストーリーの詳細を伏せておくためにカットしてあるようにも見えるが、実際は逃げる前後のストーリーが未定だった(PALM的には「作者もまだ知らなかった部分」とも言う)。

ちなみにこのシーンの「あるはずのない海」バージョンで初登場したマイアーは、「蜘蛛の紋様」ではかなり重要なキャラクターとなるが、「あるはずのない海」のこのシーンで登場した時は、チョイ役的ポジションで、詳しいキャラクター設定はなにもされていなかった。


蜘蛛の紋様(2011)のジェームスの脱走シーン



あるはずのない海(1985)の同じシーン

ウエストコースト派の新鋭、待望の大長編連載開始!というアオリが.....w




・祖先の部分の加筆を決めた時期/
第一稿執筆時はPALMにカーターの祖先(の話)は存在しなかった。 作者がクロニクルとしてのPALMに祖先の話を入れるべきと考え始めたのは「星の歴史」以降。
....そしてその部分は小説でハッピーされた





・PALMがクロニクルになった時期
作者は「スタンダード・ディタイム」の習作版と、「あるはずのない海」のシナリオの持ち込みによって作家デビューが決定しているが、この段階ではPALMは探偵物で、クロニクル(当時は大河ものと呼んでいた)としてスタートしたのは、「ナッシング・ハート」が発表されてから。
作品のスケールが現在の規模へ拡大、定着したのは、転機となった「星の歴史」以降。それまでは過去編3作(「ナッシング・ハート」「胸の太鼓」「蜘蛛の紋様」)以外は時間の経過しない探偵物(「スタンダード ディタイム」のような)になる可能性もあった。