第11室5話 「老いることは、美しい。」
第5話 「老いることは、美しい。」
~真空管が教えてくれた人生観~
夜。
部屋の灯りを落とし、真空管アンプのスイッチを入れます。
しばらくすると、小さなガラスの球が、ゆっくりと橙色に輝き始めます。
私は、この時間が好きです、急ぐことはありません。
真空管は、すぐには鳴ってくれないからです。
若い頃の私は、何でも急いでいました。
早く成功したい。
早く認められたい。
早く結果を出したい。
しかし、真空管は、そんな私に何十年も同じことを教えてくれました。
「そんなに急がなくていい。」と。
真空管は、不思議な存在です。
最新の機械と比べれば、非効率です。
熱を持つ。寿命もある。手間もかかる。
それでも、70年経った今でも、多くの人が真空管を愛しています。
なぜでしょう。
それは「歳を重ねたものだけが持つ美しさ」があるからです。
私は最近、鏡を見るたびに思います、髪は白くなりました体も若い頃のようには動きません。
覚えることより、忘れることの方が増えてきました。
しかし昔より、少しだけ人の痛みが分かるようになりました。
昔より、少しだけ待てるようになりました。
昔より、少しだけ感謝できるようになりました。これもまた。
人生という真空管が、ゆっくりと温まってきたということなのかもしれません。
若い頃は、「老い」は失うことだと思っていました。
しかし今は違います。
老いることは、「削ぎ落としていくこと。」なのだと思うのです。
見栄を削ぎ落とす。
競争を削ぎ落とす。
執着を削ぎ落とす。
そして最後に本当に大切なものだけが残る。
真空管も同じです。
長い年月を経て。
必要のないノイズが消え。
丸みを帯び、柔らかく、深く、人の心に寄り添う音になる。だから私は思うのです。
「人間も、真空管になればいい。」と。
もし、今これを読んでいる方が、「もう歳だから」と思っているなら?
ぜひ、真空管を見てください。
70年前に作られた小さなガラスの球が。
今なお、人の心を震わせています。
ならば
私たちだって、まだまだこれからです。
真空管が教えてくれた七つのこと
1. 急がなくていい。
2. 手間のかかるものほど愛おしい。
3. 歳月は、価値を減らすのではなく深める。
4. 老いは、失うことではなく磨かれること。
5. 人は、ゆっくり温まる。
6. 本当に美しいものは、時代を超える。
7. 人生は、何歳からでも音を奏でられる。人生には、定年はあっても。
ときめきに、定年はありません。
恋にも。
夢にも。
挑戦にも。
そして、人生にも。
最後の一文「真空管は、70年経っても美しい。」
「ならば、人間もまた、老いるほど美しくなれるはずなのである。」
次回予告 第6話「人生は、何歳からでもときめく。」 ~70歳から始まる第二の青春~

