歴史を動かした勘違い&早とちり

先ほど見ました、「光る君へ」の第19回 放たれた矢。時代は995年頃のお話です。

今回も歴史用語がけっこう出てきました。第19回の用語集が番組公式サイトに出ていますので紹介します。

 

 

こういう用語集などの解説をドラマと合わせて見ると、当時の時代の歴史勉強の効率が上がるのでおススメです。

余談ですが、大河ドラマは、特に「光る君へ」は、字幕付きで見た方がわかりやすいので、字幕表示で見ることをおススメしています。

 

ここからはネタバレになりますので、まだ見ていない方はご注意ください。

大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

なお、私は歴史ドラマは「ドラマとして面白ければいい」と考えています。歴史にあまり興味がない人が興味を持つきっかけになることが一つの重要な効果だと思います。なので、通説や異説と異なるストーリーであっても構わないと思っています。むしろ、説得力があって斬新な切り口で描かれた方が面白いと思っています。感想はあまり飾らずになるべく素直に書きますが、大河ドラマや『光る君へ』を貶めるつもりはまったくありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・頭角を現した右大臣・道長

右大臣に就任し、公卿のトップの座に就いた道長。早速、リーダーシップを発揮して「民のことを考える政治」に取り組み始めました。上級貴族の三男坊だった頃に抱いた志を果たすべく、職務に取り組む姿はカッコよかったです。特に、一条天皇から関白に就任しない理由について尋ねられた時に

「関白になると陣定に加われないから。公卿たちの顔を見ながら、議論の場に参加したい。」

と答えました。政治を決める最上流にいたい、という明確な意志が表れていて、とてもわかりやすかったです。これまでの兼家・道隆の時とはまったく異なる政治スタイルに代わり、辛口コメンテーターの藤原実資も満足そうでした。

 

ちなみに、前回の感想で(光る君へ 第18回 岐路 | big5historyのブログ (ameblo.jp)

「藤原道長が関白にならなかった理由」を考えてみましたが、その理由はもしかしたら「陣定に加われなくなるから」なのかもしれませんね。

 

 

・早とちりと勘違い→大事件という意外さ

第19回の重要場面は、後半の「伊周の勘違いと隆家の暴走」でしょう。これをきっかけに、伊周一派の凋落が始まり、後に「長徳の変」と呼ばれる事件になります。

現在発見されている史料は、事件の詳細までは記載していないので、どのように描くかは脚本家の腕の見せ所でしょう。「光る君へ」では、シンプルながらも笑っちゃうような「勘違い」として描かれました。道長との出世競争に敗れて傷心の伊周は、妾の家の前に立派な牛車が停まっていただけで「自分の女が取られた」と早とちり。光子の姉妹がいることを知らなかった可能性は無いと思うので、これは完全に伊周の早とちりです。彼の当時の精神状態が、この早とちりの原因でしょう。そして嘆きながら家に帰りながら、弟の隆家に事情を話します。武闘派の隆家は、

「せめて相手が誰なのかは確認しましょう」

と兄の伊周を連れていきますが、そう言った本人が相手を確認する前に矢を撃って脅すという、挑発行為に出てしまいます(笑) あの状況なら、「すみません、この牛車はどちらの方のでしょうか?」と待っている従者に聞けば済む話です。なのに、それもしないでいきなり弓矢で射撃、という手段に出る隆家は、喧嘩っ早い武闘派と言えるでしょう。

(ただ、藤原隆家はこの事件の約25年後の刀伊の入寇(1019年)で、侵入した外敵を撃退する活躍を見せることになるのですが、これは後の話。)

 

 

ちなみに、2年前の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも、源頼朝が反平氏で挙兵した直接の理由は、都にいた慌て者の三好康信が「平家は頼朝様を殺すと決めたので早く逃げて下さい」という、フライング手紙を送ってしまったこと、とされていました。一般庶民の勘違いなら、日常茶飯事なので歴史を動かすことはかなり稀ですが、社会的地位の高い人の勘違いは、歴史の流れに与える影響度が強いから要注意、という事例の一つですね。

 

それにしても、藤原斉信には美人姉妹が多いみたいですね。花山天皇の寵愛を受けた女御の忯子をはじめ、光子は伊周の妾で、儼子は花山法皇の妾(姉妹のうち2人が花山法皇の妾、というところがまたなんとも)と、「光る君へ」に登場するだけで3名もいます。

 

 

・まひろが憧れた科挙

第19回のもう一つのテーマは、「政治とまひろ」でした。宋の科挙の制度を知り、まひろは「身分の低い者でも政治に参加できる素晴らしい制度。日本にも取り入れることが私の夢。」と語りました。確かに、理論上は科挙は能力主義の人材登用方法です。学があるのに官職に就けない父・為時を身近に見ていたまひろには、まさに理想でしょう。

ただ、科挙を採用したとしても、人材登用の幅はまひろが思うほど広がりません。というのも、試験に通るためには勉強しなければなりませんが、一般庶民はそもそも字も読めないレベルなので、通るわけがありません。そのため、科挙に合格できる可能性を持っているのは、子供に勉強させられる環境を持っている家だけであり、実際には貴族や富豪の子にしか門戸は開かれていませんでした。

なので、本当に広く人材を登用しようとするのであれば、現代のような公教育が必須になるわけですね。

 

 

というわけで、第19回も楽しかったです。「光る君へ」もそろそろ前半の山場です。今後の展開が楽しみですね!