【オーストラリア】【有為転変】第198回 モリソン前首相と「神の計らい」(NNA) - Yahoo!ニュース

 

オーストラリアの現代史について、卓越した視点と深い考察を発信されているNNAオーストラリア代表・西原哲也氏の【有為転変】シリーズの最新記事が載っています。

 

以下、記事の抜粋。

【オーストラリア】【有為転変】第198回 モリソン前首相と「神の計らい」

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NNA

スコット・モリソン前首相の回顧録は異色の内容となっている

 最初に、筆者によるジョークでお目汚しを。スコット・モリソン前首相と岸田文雄首相の2人が、融資の相談で銀行にやってきた。ところが2人は身分証明書を持ってくるのを忘れてしまった。銀行の担当者は2人に言った。「では、首相しか知り得ない情報をお教えくだされば、身分証明書は不要としましょう」。そこでモリソン前首相は、安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」をどう取りまとめたかについて細かく説明した。銀行担当者は「あなたは間違いなくモリソン前首相であることが確認されました。融資課へどうぞ」。次に岸田首相が答えた。「私には何も功績はないですが、組織的裏金作りの方法を説明しましょう」。すると銀行担当者は「あなたは間違いなく岸田首相であることが確認されました。当行の資産管理課へどうぞ」――。  今年2月末に政界を引退したモリソン氏が、首相時代の回顧録「Plans for Your Good:A Prime Minister's Testimony of God Faithfulness」を5月上旬に出版して話題となっている。書名は「神の計らい:ある首相による神の誠実さの証」とでも訳すべきか。  この本が特徴的なのは、政治家による回顧録にありがちな、自分の功績を自賛したり、ライバルを非難するといった内容ではなく、モリソン氏が首相を務めていた時期の「宗教的な道程」を描いたものだということだ。  モリソン氏は、敬虔(けいけん)なプロテスタントのキリスト教徒(オーストラリア長老派教会)である。2021年4月のオーストラリア・キリスト教会会議での講演で、「自分は神の仕事をするために首相に選ばれたと思う」と述べている。  そのため同著の内容は、宗教色を嫌う一般的な日本人が読めば、うさんくささを伴う感情さえ抱くかもしれない。だがキリスト教文化を持つ一般的欧米人には、神の意志を常に意識して国を率いた人物の葛藤は、実に興味深いだろう。  面白いエピソードとして、2018年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、モリソン氏は信仰が近い福音派のマイク・ペンス米副大統領(当時)と2人で、中国の威嚇に対する方策について祈りをささげた場面が描かれていることだ(ペンス氏は同著に序文を寄せている)。  ■うつ病を公表  モリソン氏は出版に際してメディアに、首相在任中にうつ病などの精神疾患を患い、投薬に頼っていたことを赤裸々に告白している。担当医は、モリソン氏の症状が重く、初めて通院するまでよく持ちこたえたと驚いていたという。一国の首相が、重いうつ病で薬漬けになっていたという、プライベートな弱みを自らさらけ出したのは聞いたことがない。  新型コロナウイルスのまん延による政策立案のプレッシャーや、横暴を極めた中国による政治的、経済的威嚇、メディアによるバッシングなどで、オーストラリアの首相というプレッシャーは、想像を絶するほどすさまじいものだったようだ。  実際に、幸か不幸か、モリソン氏が首相に就いていた18年8月から22年5月の約4年間は、干ばつや山火事、新型コロナウイルスの大流行、中国との政治的対立激化など、政治的にも環境的にもまれに見る大激震に見舞われた期間だった。モリソン政権のこの4年間に比べれば、その前後のターンブル政権や現アルバニージー政権の政治状況は、安定した時期にさえ見えてしまう。その意味で、モリソン氏は首相としてらつ腕を振るわねばならなかったし、逆にメディアの批判の矛先にもなっていた。  しかしモリソン氏の手腕がなければ、オーストラリアは今頃、政治的にも経済的にも中国になめられ続けていたはずだ。オーカスが締結されなかったのは疑いようがないし、貿易面で中国に頼らない輸出先開拓が進んだ功績もある。現在の中国は、依然としてオーストラリアに大国のプライドを押し付けては来るものの、一目置いた対応を示すようになった。  またコロナ政策についても、モリソン政権の政策が奏功したのは外国人としてはたから見ていても分かった。モリソン氏は「コロナによる死亡率は先進国では3番目に低く、失業率や自殺率も低水準に抑えた」と自負している。  また「ジョブキーパー」といった生活支援を矢継ぎ早に投入して国民を経済的に支え続けた。当時、常に後手後手に回って右往左往を続けた日本政府とは明らかに異なり、日本人としてはため息をついたものである。  日本人記者の立場から見ると、モリソン政権はさほど落ち度がなく、実に奮闘していたように見えたが、一般のオーストラリア人にはそうは映らなかったようだ。  ■渦巻いたモリソン批判  オーストラリアの公共放送ABCが今年2月に、保守連合(自由党・国民党)政権の転覆について放送した特集番組「NEMESIS」では、モリソン氏はヒール役にさえ描かれていた。モリソン政権の回では、19年の末に大規模な山火事があった渦中にモリソン氏がハワイ休暇を取ったという話題だけで、約3分の1も費やしていたほどだ。  コロナ禍にあった当時、モリソン氏が首相のほかに複数閣僚の役割を密かに兼任していたことも大いにたたかれていた。だが正直、「密かに」ということ以外には、何がそれほど悪いのか理解に苦しむ(与党が組織的な裏金作りをしていたり、首相が責任逃れに終始したことに比べれば、よほどリーダーシップに長けている)。  モリソン氏率いる保守連合は、22年の総選挙で惨敗した。だが政策面で労働党との差はさほどなかった。モリソン政権の失態というよりも、国民の中に「保守連合疲れ」があったはずだ。その意味では、モリソン氏を引退させる「神の計らい」だったのかもしれない。  【NNAオーストラリア代表・西原哲也】

以上、抜粋終わり。

 

オーストラリア元首相、モリソン氏についての記事。私も、モリソン氏の功績はかなり大きなものであったと思います。記事でも触れられているAUKUS結成が無ければ、中国は今よりももちょ我が物顔南シナ海や南太平洋を侵略していたことでしょう。