フィールドワーク2002・リポート(2)[55号 2002年9月15日] | ビフリュオレ通信<BIFLUORESQUEMENT VOTRE>

フィールドワーク2002・リポート(2)[55号 2002年9月15日]

 3月16日、シャルトル。久々に天気も回復、そして2週間前の落ち込みが嘘のように気分は上々。「泣き落とし」という我ながらつくづく情けない手段ながら、チケット取り損ないという絶体絶命のピンチから救われた。興行というものを知っているテレーズが、関係者用の席を融通してもらってくれたのだ。嬉しがって朝から町を歩き倒し(何と美しい町!)日も暮れていよいよ会場となるシャルトル劇場へ。入り口で約束どおりテレーズが、同行のファンクラブ会員2名と共に待っていてくれた。挨拶もそこそこに信じられない言葉を聞く。「コンサートのあと、アーティスト達と一緒に食事に行く?」…!!!
 今宵の宴の場は由緒正しき「劇場」、きらめくシャンデリアの下は開演を待つ観客で超満員。何でも会員制度があって、チケットはその中でさばけてしまったという。納得。
 明かりが落ちる…現れたのはシルヴァン一人、泣かせ上手のメロディーメーカー、且つヒット曲の歌詞すり替え知能犯。「僕は皿洗いをする…」と歌いだしたのは、今もカラオケの人気デュエット曲「またあのひとの夢を見た J'ai encore rêvé d'elle」の替え歌。2番の女声パートの部分でミシェルが登場、例の甲高い声で「あたしはしないわよ」「せいぜいがんばってね」と茶々を入れる。超ロマンチックなラブソングが皿洗いを巡る絶妙の掛け合いになっていて、会場は既に笑いの渦。エンディングでグザヴィエが加わって3人のコーラスへ持っていく、上手い導入だ。それにしてもこの6年間で何という進歩だろう。磨きのかかったハーモニーに堂々たるソロ。舞台進行もギャグ、トーク、「真面目な」楽曲と緩急自在のつなぎ。「トランペットに恥あれ Honte à la trompette 」では、いきなり頭上から二重唱が降ってきてあっと言わせた。シルヴァンが作曲者パーセルをネタにしたトークで笑わせている間に、2人が劇場独特の、左右に高く張り出した場所に移動していたのだ。
 レパートリーに新たに加わったカヴァー曲は、最新アルバム2枚組の片方に収録されている( = Pour de vraiと題されたディスク1。ディスク2の Pour de rireはパロディー集)。隠れた名曲的な心憎い選曲(ラファイユ G. Lafaille、ベランジェ Fr. Béranger、フュガン M. Fugain etc)にミシェルのヴォーカル・アレンジが冴える。こうした新趣向に加えてカルテット時代からの「イポタイタイイェ~」も健在だ。これはアイドルや大物たちの曲にのせて「イポタイタイイェ~」と歌いながらのフリ・声真似(ファンクラブのけったいな名称はここから)。今回は筆者もテレーズに借りたライターを揺らした、火傷をしない持ち方というのまで教わって。いつも何個か用意して誰彼なく貸しているそうだ。(曰く「たまにちゃんと返してくれる人もいるのよ」)
 周囲の反応が面白い。例えば「エメ・ジャケ Aimé 」。98年サッカー・ワールドカップ絡みのパロディー(元歌は同年大ヒットのミュージカル『ノートルダム・ド・パリ』中の「美しいひと Belle」だが、歌詞の「カランブーの奥さん」という一節にどっとウケる。トップモデルだか何だか、とにかく超美人で有名というのは聞いて知っていたが。或いは夫婦ぐるみの交際にまつわる感情のあやを歌った「友達の女房たち」では、友達同士では夫婦セイカツの話はしないものだと言いながら、b***だのt*** de c** だのとてもここには書けない単語を並べ立てるのだが、痙攣的にゲラゲラ笑う人と抑えてる人とにはっきり分かれるのである。但しミシェルの無邪気さを強調した歌い方故に、イヤラシイ感じは全くない。
 こうして「観察」しながらも3人の繰り出すユーモアと機智に弄ばれ、みんなと共に思い切り笑いつつ、笑いさえ忘れてしまいたくなるほどの音楽美に浸る快感、そして詩情にもあふれた完成度の高いステージに大満足。終演後のロビーは笑みを浮かべた観客の上機嫌でいっぱいで、極東の地の「古参」ファンとしては誇らしい限りだった。
 この後垣間みた素顔のアーティスト達のことは次回に。