∞ Virgo × Virgo ∞ -7ページ目

∞ Virgo × Virgo ∞

ふまえて渋谷 (・_・|

 

 

 

6. 屋上

 

春休み明けの、部活。

サンチェから、選抜大会の出場枠メンバー発表があった。

何とか、何とか、、、

ダブルスの三番手で、名前を呼ばれて。

嬉しくて、口を抑えてしまう。

ペア後衛は、はるはるまんちゃん。

足ひっぱらないようにしないと。

「よろしくね!私、頑張るから!」

彼女の手を取って、握りしめた。

 

そこから二週間。

ダブルス強化練でお互いの息を確認し、自分なりに納得できる状態に仕上げることが出来た。

 

大会を翌日に控えた昼休み。

 

 

じん子、理美で机をくっつけて弁当を食べる。

明らかに、周囲の会話がオカシイ。

 

「ほら、よー噛んで食わな、アカンで!」

「アタシのスコッチエッグあげるわ!」

「よかったら、このかにパン食べて!」

「このプリン食うか〜?」

 

オマエら、、、

 

楽しむなよ、、、。

 

コッチは口からブロッコリー出てきそうなぐらい、緊張しとるがな!!

 

 

そんな雰囲気の中。

通常営業の渋谷くんは、すーっと席を立ち、後ろのドアから出ていった。

 

 

 

 

3

 

2

 

1

 

 

弁当袋をガサッと、カバンに突っ込む。

サイドバックから、小さなポーチを取り出す。

 

 

ガタタタタッ!

勢い良くたちあがったら、机の角に骨盤をぶつけた。

あうッ!、、、ッつーーーっ涙

 

腰を押さえつつ、よろよろしながら、後ろのドアから廊下に出る。

 

 

トイレ前の鏡で、前髪チェック。

校舎奥の階段に向かって歩いた。

 

 



 

 

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教室内、後の扉から顔を出す4人。

 

横山、村上「行きよった、な、、、」

 

じん子、理美「行ったわ、、、」

 

4人で目を合わせ、吹き出す。

 

 

 

がんばれよーーー!!

 

突然どこからか声援が飛んできたから、4人同時に脊髄反射を催した。

階段に消えたウタマロに、国分先生が手を振ってエールを送っていたから、さらに4人は大爆笑したのである。

 

 

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何度、この階段を登ったろう。

 

いつでも、半開きのドアは。

いつもと変わらず、私を迎えてくれる。

 

 

そのドアを、この手で開ける日が来た。

 

 

 

ギィ

 

 

ふわっと鼻をかすめる風。

 

東側のフェンスの前に、その姿を見たとき、

このまま踵を返して、教室に戻ってしまおうかと思った。

 

コンクリートの段差に腰掛けた渋谷くんは、こっちを見て、少しだけ笑った。

 

「おう、なんや、午後サボリか?」

 

 

 

 

 

 

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Next:オモイダマ
 


 

 

 


5. リストバンド


結局
「すばる、部屋におんで」という村上信五情報を生かせないまま、帰りの新幹線なうです。

えー、だってさー、、、
だってだってじゃない?

男子が大勢いる中に(しかも他のクラスの宿泊部屋に)乗り込んでくって。
それ出来たら、とうの昔に彼氏できとるわ!

じん子は…、まだ「報告」は来てない。
でも、さっきじん子の席通りかかったら、イヤホンしながら、窓の外じっと見てて。窓枠に肘ついて頬杖してて。

そのまま、通り過ぎた。
いい結果では、なかったと思う。

翌日からの部活に、じん子は顔を出さなかった。



数日後。

部活終わりの部室にて。
理美と私で片付けしてたら、バンっ!とドアが勢いよく開き。

じん子がずかずかっと入ってきた。
 

「理美ブチョー!私、部活辞めます!」

ちょ!前置きなしでいきなりの退部宣言。
理美の事、部長呼びなんてしたことないのに。

口をポカーンとしていた私達に、じん子は言った。

「やりたい事ができた。そのためにテニスは辞める!」

?マークを飛ばしまくってる私達に、退部届けを押し付けてくる。






「アタシな、、、やっぱダメだった。
横山くん、ずっと好きな子がいるんだって」

私・理美「………じん子」

「でも、横山くん。
ありがとうって。

ありがとうって、言われた。
ごめんね、じゃなくて、ありがとうだよ。

フラれたは、フラれたんだけど。
なんか、そのありがとうって言うのがさ、、、

ヤバいよ。告る前より、好きになっちゃった、、、」

じ、じ、じ、、、


じん子ぉーーーーーーー!!涙

たまらなくなって、理美と私でじん子をロックオンして、ライオンの赤ちゃんをヨーシヨーシヨーシするみたいに、頭をぐしゃぐしゃして、ギュうーーーってハグして、背中をバッシバッシ叩いた。


じん子「つーか、あんたたち、ムツゴロウ?!」

一通り、ヲイヲイ泣いて、最後大爆笑。

やっぱり、この三人ではちこー入って良かった。




テニス部を辞めたじん子は、学校が終わるとバスに乗ってどこかに通うようになった。
どこに行ってるのか、聞いても教えてくれない。

「決まったら言うわ」

何が決まったらなのか、謎のまま。
冬休みが来て、三学期になって。


そして、
二年生が終わってしまった。





始業式の二週間後には、地区大会が控えている。
夏のインターハイの予選にもなる、この地区大会。私の番手だと、インターハイ選抜の選手枠には、どうしても入れそうにはない。
この春の地区大会で、レギュラー入りしなければ、高校三年間一度も公式試合に出場せずに終わることになる。

そのために、春休み中の練習は、気合入れまくって頑張った。
人生一度でも、ガムシャラっていうのを、やってみてもいいかな…って。




このテニス部(女テニだけ)には、ひとつ“伝統”と呼ばれることがあって。

それは、三年生が試合に出る時。
いつも練習でつけているリストバンドに、試合の前日に好きな人(彼氏ならさらに効果が高まるとされている)にサインをもらうこと。
サインでも何でも。頑張れ!とか、負けるな!とか。そんな何かを書いてもらい試合に望むと、勝ちにいけると…。

このちょーーー乙女ゴコロくすぐりまくりの伝統行事。新三年生である私達も、しっっっかりと受け継がなければ、卒業していった先輩たちへのメンツが立たない。

事実。先輩たちが、日々の練習の励みに、そのリストバンドを大活用していたのを見てきたから、すごくすごーく憧れていた。

か、書いてもらいたい、、、。



高校一年の夏休みに買った白いリストバンドは、何度も洗濯を繰り返して、すっかりくすんでしまったが。

日の目をー
見る日がー
来るかもー
しーれーぬーーーと。

大事に、大事に、扱ってきた。



始業式。

クラス発表ーーー

渋谷、横山、村上
理美、じん子、私 With国分先生





ガッツポーーーーーーーズ!!
(in my Heart)

ありがとう涙
ありがとう、ロマーンスの神様
どうもありがとう~

3年で、一緒のクラスになれば!
「卒業写真(集合)」特典付与です!!
おめでとう、私!!!


理美「ウター、アレ、もらうんでしょ?!」
ニヒヒって笑ってる。

悪友めが!面白がるとこじゃないですよ←そこは。
 

じん子は、横山くんと同じクラスになって、一瞬気まずそうな顔したけど。
横山くんの方から、じん子に近づいてきて、
「一緒やったな、残り一年たのしもな」

ぉ?お?!これは?!
雨降って地固まるパターンですか?(使い方ちがう)

下向いて、「うん、、、」って頷くじん子。

ぐっへーーー、可愛ぅいヤツ!(ノ´∀`*)
ニヤつく~!



渋谷くんの方、チラ見したら、ちょうど大あくびしてた。

三度目の、春です。

 

 

 

 

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Next:屋上

 

 

 


 

 

 

4.  何でもお見通しやで!
 

高校三年間のメインイベント「修学旅行」。

集合場所に行くまでの電車の中で、じん子が言った。

 

「あたしさぁ、、、見る専卒業するわ」

 

つり革を持つ手が一瞬揺らぐ。ま、まじか。

 

「この旅行中のどこかで、横山くんに言う」

 

…、ザ!青春。

 

外の景色から視線を動かさず、そう言い切ったじん子の横顔は、通常の8割増しでキレイだった(私調べ)。夏以降、少し髪を切って大人っぽくなったせいもあるけど。う~~~む、恋する乙女は何かが違うね☆ミ

 

 

 

「で、アンタは?どーする??」

 

へっ?!どーするとは?

 

「渋谷くん、どーすんのよ?このままずっと"聴く専"続けんの?」

 

 

 

…?

 

…??

 

…???

 

 

隣で肩を揺らして、笑いをかみ殺している理美。

じん子の問いかけに、今にも吹き出しそうだ。

 

「ちょ!っと待ってくれ!私と渋谷くんが?はっ?え?!」

 

「堪忍して認めなよー!顔に❤好き❤って書いて毎日歩いてますけど、アナタ!」

 

理美が辛抱たまらんと盛大にフイタ。

じん子もつられて大爆笑。

 

 

えーーーーーーーーーーーーーー嘘でしょ?!

バレてる…。

 

つうか、私、一ッ言も

 

 

「渋谷くんが好き」

 

なんて口に出した事がないんですけど!!

 

 

 

 

「あのボウリングん時だってそうじゃん。たまたま来た渋谷くんにキョドって地蔵みたいに固まっちゃってさ。私と理美で自販機に隠れて見てて大爆笑だったわ笑」

 

こわい、このこたち、こあい…。

あー、変な汗出てきた。

 

「ま、この旅行中に無理に言えとは言わないけどさ。アンタも聴いてるだけじゃ、向こうは寄ってこないからね!いくら部活内恋愛禁止つったって、あんだけオンナだらけの環境でさ。誰かに持ってかれても文句言えないっしょ」

 

あのー、ごもっともすぎて…。閉口。

 

また肩に理美の一撃が飛んできた。

「漢(オトコ)見せてイケよ!ウタ!!」

 

いや、肩いてーし!その前に私オンナだし、オトコじゃねーし!

恋愛方面もスポ根で立ち向かう、理美からの檄を受けた。

 



 

 

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「…ご案内いたします。この電車はのぞみ155号博多行きです。途中の停車駅は…

Ladies and gentlemen, welcome to the Shinkansen. This is the NOZOMI Superexpress bound for …」

 

プルルルルルル

 

出発のベルはさながら、リングの上のゴングか笑

 

あちらこちーらでー、Love,Love,Love♡

恋が溢れてる~|д゚) わいわいわーいわーい♡

 

 

 

 

クソッ!リア充どもめ。爆発しろ←

 

 

 

ちらーーーっと盗み見た渋谷くんは、どでかいヘッドホンで耳を覆い、早速寝ていらっしゃいました。。。

 

 

 

九州各所をめぐり、3泊4日の旅。

やっぱりクラスが同じでないと、切っ掛けはつかみにくい。

あれ?渋谷くん、いる??ってぐらい存在を感じない。

 

 

3日目の夕食後、自由行動@旅館内。

旅館内のお土産屋を見たり、UNOやったり、荷物まとめたり。

写真撮ったり、告ったり、告られたり。あちこちがザワついている19時半。

 

自宅に宅急便で荷物を送るため、宿のフロントで順番待ちをしていた。

 

「おー!生きとったか!」

ガサッとした挨拶に、安心を覚える(笑)。

 

 「なんや、お前。ちっとも姿見せんから。

ハラでも壊したんかぁ?」

 

別に腹も壊してませんし、なんならこの旅行中はあなた達(メイン渋谷すばる)の姿を見つけるのにHP800ぐらい消費してますけど?

 

 

 

そしてこのわいわいタイムに、村上くん一人がブラついてるのが不自然ですけど?

 

 

「横がなぁ〜、ほれ、おまえさんのツレ、あれなんやったっけ、じ、じん子?ゆう子に呼び出されてなぁ。ほいでピーンきたもんやから、気ぃ効かせて、時間つぶしとるっつーわけや」

 

!!

 

じん子!動いたか!!

やったな、、、御武運を(祈)。

 

「あの子、よぅ横の事、見とったからな。まあ、横がどうでるかは、しらんけど。でもなー、、、」

 

 「え?!何その歯切れ悪いコメント、、、どうなの?ぶっちゃけ、どうなの?じん子勝算ありそう??」

 

「う〜〜〜ん、ま〜〜〜、なくはない、、、。

けどな、あいつずーっと想っとる子がおんねん。俺とすばるは、よう知っとるけどな。」

 

まじか…。

 

その見込みウスーな情報に、私が気が抜けそう。

 

「人の事はどーでもええやろ、他人がクチ突っ込むんのも、不粋やで。

それよりも、おまえはどーなっとんの?」

 

 

 

 、、、あれ?似たよーなツッコミ、つい3日前に朝の電車で聞いたような…?

 

「すばる、部屋におんで」

 

 

 

 

いやいやいやいや!

ちょい待て、ちょい待て!

 

デジャブ?ですか?テンドンってやつですか?

 

じん子理美からと同様に。

ツッコミ&ハッパ掛けを、男子軍からも受けるとは!

村上信五バージョンのソレ。予想していなかっただけに、破壊力バツのグンなんですけど!

 

口が閉まらない私に対し、ウフフフフっと両目尻に皺を寄せながら、八重歯をキラリと見せた。

 

「何でもお見通しやで!!」

 

 

 

 

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Next:リストバンド

 

 

 

 

 

3.  不意打ち

 

そんなこんなで、雨の日雪の日風の日以外、ほとんどの昼休みを渋谷くんは屋上で過ごしていた。

私もそれに従うように、雨の日雪の日風の日以外、ほとんどの昼休みを、屋上の扉の前で過ごしていた。

 

我ながら、気づかれないのってすごいと思ってる。

あ、これ自虐ね。

 

 

あっと言う間に、一年は過ぎ。

 

次の春がまたやって来た。

今度のクラス替えは、三馬鹿くんたちとは離れてしまった。

その時の崖から突き落とされた感はスゴイ。東尋坊レベル。

なんだかんだで、あの三人が教室で絡んでいるのを見るのが大好きだから。

なんか不思議な魅力があるのよ、あの三人には。

あーーー、二年で一緒のクラスじゃないって痛恨の極み。

修学旅行の楽しみが…。

 

理美とじん子とも、やっぱり別クラスで。

でも部活は毎日あるし、帰りも一緒だから、中学の時と生活リズム変わってない感ある(笑)。

 

 

理美はサンチェのしごきを愛ととらえ、メキメキと腕を上げていった。

じん子と私は、その足元にも及ばないけど、球拾い要員からの脱却を図り、部活の方も(!)まあまあ頑張っていた。ちなみにいうと、ここのテニス部めちゃくちゃすごい。来年3年になって、レギュラー取れたら御の字だわっていう状態。

 

そんなはちこーテニス部に、超大型新人が入部してきた。

松本潤くん、通称マツジュン。

サンチェが中学から目を付けていて、引っ張ってきたとの噂。

通常、2年以降の春に出場する地区大会の一番手を、入学早々かっさらい、しかもストレート勝ちをおさめた。ルックスも良く、マツジュン目当ての見学者が後を絶たない。

ただし、ウルトラスーパーストイックメンなので、やや近寄り難い印象ではある(…いや、だいぶ近寄り難い)。

 

女テニの方でも、新入部員がたくさん入ってきた。その中でも秀でる存在は、はるはるまんちゃん。走り込みが得意で、もろ後衛タイプな子。最初の乱打ストロークを見ただけでも、理美の後を追う子だなって予感した(上から)。

 

毎日、毎日。

ボールを追う日々。

 

 

♪~~~、♪♪♪~~~

  ♫~~、♬~~♪~~~

 

本校舎4階、一番奥の音楽室から聴こえる音。

 

あー、

青春だーーーーーーーッ!!!!!!!

(但し、自己満100%)

 

気がつけば、周囲ではカレカノの話ばーっかりになってるけど!

私はこれで満足ナンデス…。

 

そして、

あっという間に、夏休みになって。

あっという間に、お盆が来て。

 

渋谷くんの音と歌が、聴けないという状況に、ただただくすぶっていたら、久々中学のメンツで遊びに行かないかと誘いの連絡が入った。

 

集合はバイパス沿いのボウリング場。

特におしゃれしていく要素のない集まりなので、テキトーな格好で出かけた。

 

 

「おー、ウタマロー、久しぶりじゃんか!」

 

懐かしい面々が次々とやって来て、近況報告に花が咲く。

もちろん、理美じん子もいる(笑)。

 

グー・チョキ・パーでグループ分けして、ボウリングをやることになった。

靴を借りて、レーンに向かう途中。

 

自動ドアの先に、まさかの…。

 

 

まさかの…。

 

 

 

まーさーかーのー!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渋谷くんがいるんですけどーーーーーーー‼!!!!!!

 

 

 

 

伸びた髪をポニテ位置で纏めて、アロハシャツ。

 

ちょ、ちょ、ちょーー、待ってくれ。

 

 

 

 

 

(深呼吸)

 

 

 

 

 

 

くっっっっっっっっっそ

 

 

 

 

 

 

 

 

カッコよすぎるんですけどーーーーーーー!!!!!!!

(阿鼻叫喚in my Heart)

 

 

 

そして、知らない男の子と一緒に、ボウリング場に入ってきた。

色が黒くて、一言で言って「男前」なコ。誰だろ?

 

 

貸靴持ったまま固まってる私に気がついたみたいで、ぱっと視線があった。

 

ひぃ!

 

目はあったものの、連れのコと話してるもんだから、私に声かけるとか、そーいうのなくて。

 

バクバクバク…心臓うるさい!

 

ひー、こっち来るんですけどー?!

 

 

 

固まってる私に。

 

何も言わず。

 

すれ違う。

 

その瞬間、頭頂部に何かの感触を感じた。

 

 

 

それが、所謂

 

 

「頭ポン」

 

だったなんて信じられます??奥さん!!

 

 

あの萌きゅん設定に欠かせない壁ドンと双璧をなす「頭ポン」ですよ?!

 

 

し、ん、じ、ら、れ、な、い _(´ཀ`」 ∠)_

 

 

しかも!

頭ポンの衝撃から、5秒あと

振り返ってみたら、、、

 

後ろ手で、バイバイって感じで手を振ってる。

 

 

 

バイバイって、

 

声に出さないバイバイって…。

 

 

こんなにも殺傷能力高いワザだって、初めて知りました。

 

それも、「後ろ手」っすよ?!

コッチのこと、ノールックなんですよ?!

 

 

 

 

お客様の中で、お医者様はいらっしゃいませんか?ってアナウンスしてもらいたい、今すぐ。

 

 

 

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「え?すばるくん、あれ誰っすか?知り合い?ツレ?友達?彼女じゃないっすよね???うちの学校のヤツでしたっけ?!

なんか固まってますけど、あの女…。えっていうか、すばるくんって頭ポンとかするタイプでしたっけ???」

(↑ノンブレス)

 

「、、、りょお〜、オマエ何キョドってねん笑。

ツレ言うか、まー、ツチノコ発見したよーなモンで、物珍しさ、、、やな」

 

「ツチノコ?!(声裏返る)ツチノコって美術部の大野くん以外にもいるんですか?!うちのガッコ?!」

 

「、、、まぁな笑」

 

 

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そんな会話が男前くんと交わされていた事は、知る余地もなく。

 

ビリヤードのコーナーに消えていく二人をじっと目で追い続け。

 

なんでこんなテキトーな格好で来ちゃったんだろう…。

もうボウリングのピンと一緒に、ストライクで散って行きたい…。

 

渋谷くんの私服。初めて見たよ。

ちょーーーオシャレさん…。

 

 

 

「ウター!何やってんのよー!」

 

その声でハッと我に帰って、みんなの方に行ったけど、まぁーーー10フレ中8フレがガターで、もちろん最下位。

 

「なんか、調子悪いみたいで、帰るわ…」

その後のご飯も、断っちゃって。なんだよーみたいになったけど、だめだ。

 

きょーーーは、もうだめだ。

 

 

 

 

 

 

帰り、夕暮れの道をチャリで走ってたら、涙出てきた。

 

 

 どおしてなーのー

 きょうにかぎってー

 

 やーすい さーんだーるを

 はーいーてたー

 

 

 

Yuming先生…天才か。

 

 

 

 

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Next:何でもお見通しやで!

 

 

 

 

 

2.  NON!Breath
 

八幡高(通称:はちこー)に入学し、半月が過ぎた。

 

見学や新歓をチェックしたところ、残念なことにテニス部内に美男子を見つけることはできなかった。

だが、顧問の岩崎先生(サンチェさんと陰で呼ばれている。由来は謎)が、理美的にドンピシャ来たらしく

 

「さ!入部届出しに行くよー♡」

 

帰宅部宣言は、無事撤回となって良かった良かった!

理美に吊られるような形で、私とじん子もテニス部員となる。

 

じん子は、じん子で。

入学式の日以来、ちょくちょくうちのクラスに来ては、横山くんをただただ…眺めていった。

 

「ホントステキ…かっこいい…。」

 

あの3人が吹奏楽部に入部することも、私より早く知っていた。

恋する乙女の情報ネットワークシステムは、ISDNより早い。

でも、じん子は何の楽器経験もないので、一緒の吹奏楽部に入るというつもりはないらしい。

いまんとこ「見る専」を貫いている。そこんとこ、昭和な女。

 

 

 

私はと言うと。

 

 

二人には内緒だが、密かな「楽しみ」が出来た。

 

 

 

入学式の後、屋上から聴こえてきた音は「ハーモニカ」だったという事。

そしてそれを吹いていたのは同じクラスの渋谷くんだという事。

それらを知り得るために、時間を要さなかったのは、今でこそ「運命」だったんじゃないかと思う。

 

 

入学式から数日たった昼休み。

音楽科の準備室に、国分先生に頼まれていたコピーを持っていった。

 

 

全開だった窓の外から、入ってきたのはあの音。

 

「あ…」

 

一言発した私に、国分先生が書類から目を上げずに言う。

 

「渋谷だよ。あいつ屋上でよくハーモニカ吹いてる」

 

そっか、入学式は腹痛を訴えていたけど、やっぱりサボりだったんだ。

 

耳を掠める微細な振音に、しばし聴き入る…。

 

「もう行っていいぞ、ご苦労さん!あ、ちなみに屋上は生徒立ち入り禁止だからな、カギはかかってないけど」

 

若干の含み笑いで、国分先生が言う。

 

「失礼しまーす」

 

ギィっと準備室の扉を閉めた。

 

 

立ち入り禁止なのに、屋上行っちゃってるのか…渋谷くんは。

 

『ほんのちょっとの好奇心』を抑えることのできない15の春。

抜き足差し足で、目の前の階段を上がる。

 

踊り場を回ったところで、目に入った光に一瞬視界が奪われた。

 

 

屋上への入り口の、ガラス扉が半開きになっている。

 

その扉の前まで上がったら、ハーモニカの音が途切れた。

やば、気付かれたかな…?

 

息を殺して、その扉の向こうを伺う。

 

 

 

 

♪なんどーも かさねたーきすはー

たーららーらー もろくてー

 

ねーむーれーない こいーは

たらららーたららーうちゅうー ♪

 

 

鼻歌交じりの、ラフな歌声。

 

 

「ギューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」

 

という音がカラダの中から聞こえた(気がする)。

 

な、なんだ、今の。

ギュンってなったぞ、ここが、ギュンって!!

胸を押さえてみたら、明らかに普段より早い。

 

え、つか、ジュディマリよね?

は?え!

吹奏楽部の人ってクラシック(このハナウタも“クラシック”だけど!)しか聴かないし、興味がないって(勝手に)思ってたから、なんかチョー意外だったし、渋谷くんの口から歌が…っていうのが、なんか不意打ちすぎて。

 

…やばい。

 

とりあえず、トイレの個室に逃げ込み、息を整える。

この身体の状態の変化を、どう説明すればいい?

 

 

 

その日以降、昼休みになると屋上へ向かう渋谷くんを目で追うようになってしまった。

 

 

5分ほど待って後を追う。

気付かれないように。

ガラス扉の前にしゃがみ込んで。

 

最初はスケールっていうのかな?

↗ドレミファソラシドー、↘ドシラソファミレドーみたいに、音階を順番に上がったり下がったりを何度か繰り返す。

 

叙情ゆたかなフレーズだったり、小刻みに揺れる音だったり。

ハーモニカの事もそうだけど、音楽の事はちっとも分からないが。

聴いてるだけで、キュッとなる…。

 

 

時々、流行りの歌だったり、古い歌だったり。

寝転んで歌ってるような…。

すー、はー 呼吸法かな?あんなに体が小さいのに、ハーモニカから飛び出す音のパンチと言ったらスゴイ。

 

直接、その姿を見ているわけではない。

あくまで聴覚のみの情報だけで想像してる。

 

 

この屋上が彼にとっての“唯一”の息抜きだとしたら…

邪魔したら悪いし。

 

「何やってんのぉー?」と扉を開ける勇気もない。

 

 

だから、息をひそめる。

 

 

 

 

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