T車の車速センサーを用いたVVVFインバータ粘着制御は1988年の日立評論に載っていますが、M車の車輪径は摩耗して小さくなってしまうので、車輪径補正をしないと空転していると錯覚して逆に空転させてしまいます。その車輪径補正の特許を紹介します。
(特許4430080号)(特許権者:三菱電機)
1C4M2群制御でSi-IGBTを採用したVVVFインバータ装置(小田急2000形)
同じく1C4M2群制御ですが、SiC-MOSFETを採用したもの(京急1000形6次車)
【背景技術】
三相のリニアインダクションモータを搭載した電気車では、VVVFインバータは、電気車に給電される直流電力により三相交流電圧を発生し、この三相交流電圧によりリニアインダクションモータを駆動する。このVVVFインバータは、インバータ制御ユニット で制御され、リニアインダクションモータの同期周波数に、すべり周波数を加算または減算した周波数の三相交流電圧を発生する。
リニアインダクションモータの同期周波数は、一般には、電気車の所定の車軸に設置したパルス発生器の出力パルスの周波数に基づいて演算される。しかし、パルス発生器を設置した検出対象車軸に取り付けられた車輪が磨耗すると、その車輪の車輪径が変化し、車輪の一回転当たりの周期が変化して、パルス発生器の出力パルスの周波数が変化するので、車輪径に応じて同期周波数を補正する必要がある。
この車輪の磨耗に伴なう車輪径の変化については、一般に、電気車の運転台に車輪径デ
ータ手段を設置し、この車輪径データ手段に、電気車の定期検査で計測された車輪径データを記憶することにより、対応している。車輪径データ手段に記憶された車輪径データは、運転台からインバータ制御ユニットへ伝送される。インバータ制御ユニットでは、伝送された車輪径情報を用いて、同期周波数を補正する。しかし、運転台の車輪径データ手段が故障し、またはインバータ制御ユニットへの車輪径データの伝送にエラーが発生し、車輪径データ手段からの車輪径データがインバータ制御ユニットで正常に受信できない場合には、同期周波数の補正を行なうことができない。
先行技術である特開昭61-231805号公報には、地上子を用いて電気車の絶対速度を求め、この電気車の絶対速度に基づいて、同期周波数を補正するものが開示されている。しかし、この先行技術に開示されたものでは、地上子と、この地上子に対応する絶対速度センサを特別に設置する必要がある。地上子は、地上の複数箇所に特別に設置する必要があり、地上での保守、点検を必要とする。
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、地上子を使用せずに、同期周波数を補正することができる改良された電気車の駆動制御装置を提案するものである。
日立評論(1988-7)
最近の直流電車制御システム
4.最近のVVVFインバータ制御技術
4.3粘着制御
VVVFインバータ方式は,その主回路特性によって高粘着
特性が期待されている。すなわち,インバータ周波数が固定されている条件では,主回路的には空転滑走による電動機回転数の変化が,そのまま再粘着方向への急激なトルク減少となる,いわゆる分巻特性を示す。図11は誘導電動機4台を並列にして,全電流をフィードバック制御した場合の空転時でのオシログラムである。
この例では,進行方向の1軸から順に空転が生じ,遂に全軸空転に至っている。全軸空転に至る途中は分巻特性によって微少空転にとどまっているが,全軸空転に至ると走トルク制御が作用して,分巻特性が殺され空転が一気に加速されている。このようにVVVF方式でも,分巻特性による自己再粘着容易性だけでは不十分であり,空転を検出して積極的に再粘着制御を行う必要がある。再粘着制御の最も重要なポイントは,いかに早期に空転又は滑走を誤動作なく検出するかにある。微少空転のうちに検出すれば,トルクの絞り量も少なく,電車として高い加速力を維持することができる。空転・滑走の検出方法は次の2種類に大別される。
(1)電動機の回転速度変化率又は電動機間の差速度変化率を監視する方法
(2)車両の絶対速度を基準にして各電動機の速度を監視する方法
(1)は制御部のソフトで容易にできる利点がある。しかし,レール継目通過時などに生ずる過渡的な回転軸の速度変化に対して誤動作しないように,検知感度に余裕を見込んでおく必要がある。このため,設定された基準速度変化率により小さい変化率の空転が検出できず,全軸大空転に発展することがある。
(2)の具体例を図13に示す。
電動機の付いていないT車軸速度を検出し,惰行中に車輪径差の補正を行い,基準速度と各電動機の回転速度差により空転・滑走を検出する。T車の軸速度センサはATCの速度センサと兼用することもできる。前後振動などによる車両間の速度差によって誤動作しないように感度を設定する必要があるが,実用例では1km/h以内の精度で空転・滑走を確実に検出できている。この方式によれば全軸大空転が発生することはない。
T軸速度検出方式による空転再粘着制御オシログラムの例 を図12に示す。
レールに散水し人為的に粘着係数を下げて加速を行ったものであるが,高い粘着利用率が得られていることが分かる。
東芝32ビットRISC マイクロコントローラ
TMPM375FSDMG
ベクトル制御
ベクトル制御の全体像を描いたものが下の図です。まず、ベクトル制御はモーターを駆動するU、V、およびWの波形をモニターすることから始まります。そのモニターのための信号がモーター・ドライバーの出力a、b、およびcです。このa、b、およびcの信号の振幅は非常に小さいのでアンプで増幅してADコンバーターに入力します。3相信号a、b、およびcはADコンバーターでデジタルの電流値Iu、Iv、およびIwに変換されたのち、さらに2相の電流値Iα、Iβに変換されます。
次に、この2相の電流は固定座標から回転座標へと座標変換され電流Id、Iqとなります。このId、Iqをあらかじめ決めておいた理想値 Iqref、Idrefと一致させるのがベクトル制御の目的です。Id、Iqはモーターの電流をモニターし、それを変換した値ですので理想値からは、ずれています。そこで、そのずれを無くすようにPI制御で補正します。その補正値は電流ではなく電圧の値Vd、Vqで与えられます。
次に、回転座標から固定座標に逆座標変換を行いVα、Vβが得られます。この2相の電圧Vα、Vβからモーター・ドライバーの3相入力信号u、v、およびwを導き出しますが、このときは単純な2相3相変換ではなく空間ベクトル変換という変換を行います。これにより、モーター・ドライバーの入力信号 u、v、w、および、それらの逆相の信号x、y、zが得られます。これにより、U、V、およびWの信号がモーターに与えられます。
以上でベクトル制御の1サイクルが終了しました。このサイクルを繰り返して、理想の回転状態を実現します。
3相2相変換
回転座標変換
PI制御(固定座標変換)
空間ベクトル変換
モータードライバ
ベクトル制御の概要
ベクトル制御では、モータに流す電流を制御することでトルクを制御します*4。トルクの制御は、モータ/インバータを含めたフィードバック制御によって実現します。
ベクトル制御では、トルク指令値の算出に、機械を含めた含めた運動方程式を用いることで、回転速度制御や位置制御が行えます。これは、機械/モータ/インバータ系でのフィードバックによって実現します。
機械を含めてフィードバックを行う場合、通常であれば回転角度計や回転速度計が必要です。しかしながら、トルク制御や回転速度制御であれば、回転角度計や回転速度計が不要なセンサレスベクトル制御というも手法が存在します。