今回、生体腎移植をして感心した事をまとめました。穴を3つ開けるだけの内視鏡手術や抜糸不要の溶ける縫合糸も凄いのですが、免疫抑制剤の進歩とその血中濃度測定装置の進歩が凄いです。
タクロリムス水和物の化学式


生体腎移植における生着率(東京女子医大泌尿器科)

現在、カルシニューリン阻害薬,副腎皮質ステロイド薬,代謝拮抗薬,mTOR阻害薬の4種類の免疫抑制剤を服用しています。
①カルシニューリン阻害薬
1984年に放線菌 Streptomyces tsukubaensis の代謝産物として,シクロスポリンより約100倍強い活性を示すタクロリムス水和物が発見された。又、2008年にタクロリムスの徐放性薬剤(商品名:グラセプター)が製造承認された。
従来1日2回服用が原則であるが、朝は内服できても夕方の内服を忘れる患者が意外と多い。そこで,1日1回の内服でよいタクロリムスの徐放性カプセルが開発された。これらに寄って生着率が飛躍的に向上した。
② 副腎皮質ステロイド薬
③ 代謝拮抗薬
ミコフェノー ル酸モフェチル(商品名:セルセプト)
代謝拮抗薬はT細胞,そしてB細胞抑制に用いられている。ステロイド薬もT細胞とB細胞の双方の抑制に働いていると考えられている。
④ mTOR阻害薬
エベロリムスは、2007年1月に心移植、2011年12月に腎移植に対する拒絶反応の抑制の効能が国内承認された免疫抑制剤である。エベロリムスはシロリムス(別名ラパマイシン)の誘導体であり,免疫抑制薬あるいは抗癌薬として使用されている。免疫抑制薬としては商品名:サーティカンとして, 腎細胞癌治療薬としては商品名:アフィニトールとして販売されている。
比較的副作用が少ない本薬剤をカルシニューリン阻害薬と併用して使用することで,カルシニューリン阻害薬を減量あるいは中止して,腎毒性の軽減を図れる。

「エムトア」とは

mTORは細胞の中に浮かんでいるタンパク質の一種ですが、細胞内の栄養状態を見張っているセンサーとして働いています。さらに、栄養の量に合わせて、細胞を大きくしよう!とか分裂して数を増やそう!といった判断をする司令塔としても働いていることが分かっています。

 そんな栄養状態を顧みずにどんどん増殖してしまうのががん細胞。その一部ではmTORが正常に働いていないことが分かってきています。またmTORは、2016年に大隅良典博士がノーベル生理学・医学賞を受賞した「オートファジー(自食作用)」のスイッチにもなっています。さらに、老齢マウスでmTORの作用を調節するだけで寿命が延びたというシンプルな実験結果が発表されました。これが大反響で、なぜ寿命が延びるのか、その仕組みが今世界中で研究されています。

⑤ LC-MS/MS測定装置
液体クロマトグラフィー質量分析装置。この装置に寄り、免疫抑制剤の正確な血中濃度を測定する事が出来、生着率が飛躍的に向上した。
MS測定では質量分離部は1つであり、イオン化された成分がそのまま検出されます。ESIなどのソフトイオン化法では、主に分子量関連イオンが検出されます(マススペクトル)。
MS/MS測定では1つ目の質量分離部(MS1)で特定のイオンを選択し、統くコリジョンセルで不活性ガスと衝突させフラグメンテーションを起こします。そこで生じたフラグメントイオンを2つ目の質量分離部(MS2)で分離し検出します(プロダクトイオンスペクトル)。
微量分析における質量分析では目的化合物を高感度で 検出するために MS/MS による選択性が必須となっている。ノイズレベルが妥当な方法で測定されるデータで あれば質量分析計の感度性能を表す指標の一つとしてSN比は有用であったが,MSの技術の進歩によりリアルタイムの信号処理でノイズゼロのベースラインが得られるまでに進化した。

今回腎移植をした病院はタクロリムスのみ病院内で測定し、その他は外注に依頼している。何故なら、タクロリムス以外は補助的に使用したり、副作用のあるタクロリムスを減量する為に使用しており、免疫抑制剤のコントロール(増減)はタクロリムスのみで行っている。


現在国内で使用されているタクロリムスの測定方法としては,CLIA 法,ACMIA 法,EMIT 法, LC-MS/MS 法,ECLIA 法がある(表2)。2009年度末にタクロリムスの主要な血中濃度測定システム(Microparticle enzyme immunoassay(MEIA)法を測定原理とする IMx®, アボット社)および測定試薬が販売終了となった。引き続いて,低濃度領域の測定精度が高いとされている CLIA法を用いた ARCHITECT® が開発された。タクロリムス は血液中において 90%以上が赤血球に移行することから,IMx® による測定は除蛋白の前処理が 必要であり,前処理を含めると結果がでるまで約 1時間かかる問題点があった。EMIT法を用いたViva-Eも前処理作業を必要とするが,測定器による作業時間は短いことを特徴とする。2007年には前処理不要の ACMIA 法を用いた Dimension(シーメンス)が開発され,2013年には,測定レンジが広いうえに測定感度が高い Electro-chemi- luminescence immunoassay(ECLIA)法の測定機器がロシュ・ダイアグノスティックス社より発売された。


血中ビタミン25(OH)D 濃度の測定は平成28年8月に新規保険収載された。認められた測定方法は化学発光免疫測定(Chemi- luminescent Immunoassay:CLIA)法と化学発光酵素免疫測定(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay: CLEIA)法である。