「いつも通りの関係が一番素敵だ。」
実家の近くに“キャプテン
”という喫茶店がある。この店に27年間通っている。というよりもマスターとママさんの人柄に惚れて関係が切れずにいる。
僕がイタリアから東京に戻り、夢を求め生活を始めたのだが、何を遣っても上手く行かずリプレイする為、福岡の実家に戻りコックの修行を始めた時からの付き合いである。店もオーナー夫妻も全く変わらないのだ。本当に気持ちの良い人達である。
僕が23歳だった頃、月々の給与が7万円だった。朝7時から夜22時までの勤務。休みと言えば、ランチの時間が終わり、賄いを摂った後の2時間だ。
この時間に“キャプテン
”に行ってコーヒーを啜り、マスターの優しい顔を
見る事がリラックスタイムであり最大の息抜きであった。また、職場に戻ると、牛肉の足の骨を流水で洗い、オーブンで焼き、寸胴鍋に入れグツグツと茹でてフォンドボーを作る、前日,捏ねて寝かした小麦粉を延ばしピザ生地を作っていく。延ばすのは本当に大変だった。それからホールでのディナーの準備だ。閉店までキッチンもホールも兼務だった。休みは月に2回の月曜日。金も無く、時間も無く。何も無かった時代だがマスターとママさんと話をする事で、現状の不満や不安を解消して未来への希望のエネルギーに変えることが出来た。ただ、普通の世間話をするだけで僕には十分だった。
その後、無職で結婚、髪結い亭主のプーターロー時代も、転職し仕事に張り切り、多忙な時代も、東京に単身赴任であまり会えない時も、独立し、現在に至るまで全く変わらない付き合いをしている。
何も特別な事はないのだ。人間は年を重ねても、ポジションが変化しても、家族が増え、家庭環境が変っても普段通りに付き合えるのだ。信頼関係があるから付き合えるのではない。普段通りに付合いが出来るから信頼出来る関係になっているのだ。気負わず、いつも通りの関係が一番素敵だ。
僕には一番のリラックスできる空間と人間関係かもしれない。
“キャプテン
”に顔を出すと変わらない人たちがいる。そこに僕もいる。