先日、私にとってかけがえのない方が天国へと旅立って行かれました。

私がセラピストとしてNYで駆け出しの頃から、

日本に帰国して現在に至るまで、

ずっとケアさせて頂いた一番長いクライアント。

私の成長はその方と共にあったと言っても過言ではありません。

NYのスウェディッシュインスティテュートを卒業したてで、

マンハッタンのサロンを複数掛け持ちしていた頃、

ストレッチの指導もしていたのですが、

最初の出会いはストレッチの個人セッションでした。

その後私はストレッチを教えていた所を辞め、

サロンでのマッサージワークに専念したのですが、

偶然新たに働き始めたサロンで再会し、

それ以来、週に一度のマッサージを担当することになりました。

大学を卒業し、武者修行中の二年目ですので、

知識はあってもまだまだ経験の浅い私にとって、

毎週毎週同じクライアントに

2時間のセッションを継続していくことは、

とてもチャレンジングでもありました。

あるコンディションをお持ちでしたので、

できるだけ痛みが緩和できるように、

そして、痛みが治まればそれがぶり返さないように、

いつも自分ができる最大限のパフォーマンスをするよう

一生懸命でした。

決してお世辞を言ったり素敵な言葉を掛けてくれる方では

なかったのですが、

続けてトリートメントを受けて頂くという、

それが言葉よりも何よりもの表現方法だったと思い、

とても光栄に思っています。

私より先にNYから日本に帰国されたので、

その間はブランクがあるのですが、

その後間もなく私も帰国し、

またトリートメントを再開することができました。

それから6年経った昨年、病状が思わしくない事。

それよりも、施術するごとに身体の変化が如実に現れていて、

私もある覚悟をしました。

その時は、病気に対し、そして死に対して

本当に考えさせられました。

昨年末から緩和ケアとしてご自宅に訪問し始めたのですが、

最初は一週間、そして2日お会いしないだけで、

どんどん悪化されて行かれる様子に、

次回お会いできるだろうか?といった

焦りに似た気持ちが湧きました。

アポイントの当日、ご自宅に向かっている時、

奥様からの電話で悲しいお知らせを受け取りました。

気丈な奥様の声に私の方がなんと言っていいか解らず、

お悔みの言葉をお伝えするのが精一杯になってしまいました。

もう一日早くアポイントをお取りしておけば、

最後にお会いできたのに。。。

訪問が急遽取りやめとなり、

行き場を失った私はとぼとぼと銀座を歩いていると、

その方が最後に私のサロンに来られた時、

「ちょっと時間があったので、茜屋で珈琲飲んで来ました。」

と言われていたのをふと思い出し、

茜屋珈琲店に立ち寄ってみました。

私も以前何度か行ったことがあるのですが、

「珈琲屋の店主」を絵に書いたような初老のマスターが

本格派のコーヒーを淹れてくれる名店です。

珈琲1杯が995円ですので、いつもガラガラ。

その日もお客は私一人でした。

香り高く運ばれてきた珈琲で献杯し、

私なりにお弔いさせて頂きました。

静かに、じっくりと一口一口を味わいながら、

ただただ珈琲と向かい合いました。


茜屋を後にしてサロンに戻る間

こらえ切れない思いが溢れて、

ぽろぽろぽろぽろと涙が出てきました。

去年初めてご自宅を訪問した時に奥様が、

「主人は藤田さんをとても信頼していますから。」

と言って下さった言葉。

2002年からの12年間。

あえて言葉にするなら、「感謝」でしょうか。

言葉が見つかりません。

最後までクライアントとセラピストとしての関係を

それ以上でもそれ以下でもなく保ち、

お互い信頼し合った月日でした。

こうして今その思いを綴りながらも、

あふれる涙を止めることができません。

プロフェッショナルのセラピストとして、

セッションを離れた時に思いも離さなくてはいけないという

倫理的ルールがあるのですが、

その中には収まり切れない多くの思いがあるのです。

澄み切った冬の空が蒼く広がるあの朝、

私が見上げた空の上にすでに行ってらしたのですね。

本当にありがとうございました。

心からご冥福をお祈り致します。

合掌。