本日は『びまん性肺疾患のCT画像所見』についてです。


このカテゴリーに該当する多くの疾患は特発性間質性肺炎に代表されるように原因不明であることが多く、呼吸器を専門としないDrにとっては分かりずらい分野であると思います。


鑑別疾患も多岐にわたり、画像所見からだけでは鑑別できないこともしばしばで、気管支鏡や胸腔鏡下肺生検をしないと診断に至らないことも多いです。


しかしながらこうした疾患のすべてを呼吸器内科医が診療することはなかなか難しいですね。


本日はびまん性肺疾患のCT画像を中心にどんな所に着目すべきなのかをお話してみようと思います。



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まずは『びまん性肺疾患』 の鑑別疾患についてです。


救急医の挑戦 in 宮崎


中でも『急性の経過』の主な鑑別疾患には下記のものがあります。


・薬剤性肺炎

・過敏性肺炎

・感染性疾患

・急性間質性肺炎(AIP)

・特発性肺線維症の急性増悪

・膠原病性間質性肺炎の一部(amyopathic dermatomyositis、SLE)

・びまん性肺胞出血(ANCA関連肺疾患、SLEなど)

・急性好酸球性肺炎

・肺水腫

・急性呼吸窮迫症候群



※筋症状を伴わない皮膚筋炎(amyopathic dermatomyositis:皮膚筋炎の約20%)では急速進行性の間質性肺炎を合併しやすく予後不良です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20827200



亜急性~慢性の経過』の主な鑑別疾患には下記のものがあります。


・特発性間質性肺炎

・膠原病肺

・サルコイドーシス

・慢性過敏性肺炎

・塵肺

・慢性好酸球性肺炎

・肺胞蛋白症

・肺リンパ管脈管筋腫症



このうち特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias; IIPs)原因を特定しえない間質性肺炎の総称であり下記7疾患に分類されます。

①特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF
②非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP
③特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia:COP
④呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease:RB-ILD
⑤剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia:DIP
⑥リンパ球性間質性肺炎(lymphocytic interstitial pneumonia:LIP
⑦急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia:AIP


頻度的にはIPF(約50%)、NSIP(17%)、OP(約10%)がほとんどを占め、喫煙との関連が高いとされるRB-ILD、DIPがそれに続きます。


LIPは血液疾患に伴うものが多く、原因が特定されないAIPと同様に臨床上極めて稀です。


こうした特発性間質性肺炎は基本的に除外診断であると心得てください。(下記の記事をご参考ください)


びまん性肺疾患のアプローチ

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11147580699.html


基本的なCT画像の読み方については


肺の解剖とHRCT』について

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11306474974.html



基本事項として下記のことも押さえておきましょう。


①有意な画像パターンは何か(high/low attenuation, reticular, nodular)

②2次小葉のどこに分布するのか(centrilobular/perilymphatic/random)

③肺のどこに分布しているのか(upper/lower/central/peripheral)


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小葉中心性陰影では胸膜表面に病変はなく、5-10㎜離れたところにあります。perilymphatic distributionの場合、サルコイドーシス、癌性リンパ管症、肺水腫、リンパ球性間質性肺炎(稀)などが鑑別に挙げられます。



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上図は2次小葉を示しています。centrilobular artery (青: oxygen-poor blood)と終末細気管支が中心を走っています. リンパ管と肺静脈 (赤: oxygen-rich blood) は小葉間隔壁を走行します。


※肺動脈は右心室から一本の主幹として起こり、直ぐに左右の主肺動脈に分かれます。気管支に伴行し、肺静脈は小葉間、区域間を通り肺門に達し、左右それぞれ上下二本の肺静脈となって左心房に注ぎます。ちなみに気管支動脈は下行大動脈よりの分枝で肺、気管支、リンパ節などの栄養動脈です。


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それではまずはIIPsのCT画像所見についてみていきましょう。


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IPF(特発性肺線維症)/UIP(usual interstitial pneumonia)


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両側肺底部、胸膜直下に牽引性気管支拡張を伴った蜂巣肺、網状影を呈します。


時に急性増悪を起こし予後不良です。


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右のCとDが急性増悪を起こしたIPFです(新たににGGOが出現しています)。consolidationを呈することもあります。



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IPFの急性増悪の誘因ははっきりと分かっておらず、ウイルス感染も多くないことが分かってきました(→COPD急性増悪との違い)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21471095


COPDの気腫性変化がCTで蜂巣肺のようにみえることもありますが、fine crackle、ばち状指、血清KL-6などのマーカーの上昇はIPFを支持する所見です(肺気腫では意外とばち指は多くありません。むしろ肺気腫でばち指が見られる場合には肺癌がないか検索しましょう)



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ばち指』について

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10988925372.html


間質性肺炎のマーカー:KL-6,SP-A,SP-D』について

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11818324


蜂巣肺を認めるからといっていつもIPFとは限りません(特異的ではありません)。NSIPやDIPの他にも線維化の強い肺疾患の終末像(慢性過敏性肺炎、サルコイドーシス、アスベスト、膠原病肺など)でも認めることがあります。ただし、その場合は分布と広がりが鑑別点になります。(両側肺底部、胸膜直下で拡がりも大きい)


RAによる間質性肺炎はこのUIP typeになります。他にも後述するNSIP type、COP typeの3つがありますが、ほとんどはこのUIP typeです。NSIP typeには特に強皮症や筋炎が多いです。COP typeの場合にはステロイドへの反応が良好なため積極的に治療します。



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NSIP(nonspecific interstitial pneumonia 非特異性間質性肺炎)


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IPF/UIPと同様に両側肺底部の牽引性気管支拡張、網状影、すりガラス状陰影が主体ですが、通常は蜂巣肺は認めません。


※下肺野に有意な所見を呈するびまん性肺疾患の鑑別疾患→IIPs(IPF/NSIP)、膠原病肺(皮膚筋炎、強皮症)、石綿肺


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RB-ILD(respiratory bronchiolitis interstitial pneumonia 呼吸細気管支に伴う間質性肺炎)

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呼吸細気管支レベルのGGO主体で喫煙が関与。後述するDIPとはCT所見もoverlapするためにはっきり鑑別できません。RB-ILD/DIPと一緒にすることも。


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Desquamative Interstitial Pneumonia(DIP:剥離性間質性肺炎)


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下葉のGGO、喫煙が関与


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Cryptogenic Organizing Pneumonia (COP:特発性器質化肺炎)


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斑状、気管支周囲、胸膜下の浸潤影。時に移動性の浸潤影となります

Aspiration pneumioniaとしばしば誤診されます。(慢性好酸球性肺炎との鑑別大切)通常は数ヶ月にわたるnonproductive coughを訴えることが多い。

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Acute interstitial pneumonia(AIP:急性間質性肺炎)


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びまん性スリガラス状陰影、画像ではARDSと区別がつかないこともあります。予後不良。


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lymphocytic interstitial pneumonia(LIP:リンパ球性間質性肺炎)

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稀な疾患で、CTは非特異的な所見を呈します。膠原病ではSjogren's syndromeに伴うものが多いです。


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それでは次にその他の代表的な『びまん性肺疾患』を呈する疾患のCT画像所見についてです。



ニューモシスチス肺炎(PCP)


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びまん性GGOであり、PCPに特異的ではありませんが、immunocompromised hostでは考慮する必要があります。


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サルコイドーシス


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サルコイドーシスは非乾酪性肉芽腫を多臓器で認める疾患ですが、肺病変は約90%の患者でみられます。



特発性以外にも膠原病や薬剤、化学物質を背景に発症することがあります。UIPと異なり予後良好です。分布パターンはperilymphatic distributionで上~中肺野優位になります。BHLは特徴的ですが、肺野病変だけのこともあります。


上図のように肺門周囲の気管支血管束に集中する粒状影が見られることが多いですが、気管支血管束の不均一な腫大として見られることもあります。


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慢性好酸球性肺炎


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上肺野優位の両側末梢の浸潤影、 末梢血で好酸球増加を伴うこと(20%程度)もあります。


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急性好酸球性肺炎


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喫煙開始後に発症することがあります。急性呼吸障害で来院し、CTでは両側のGGOと浸潤影、小葉間隔壁の肥厚、胸水を認める。末梢好酸球数は正常


→喫煙歴は大事。間質性肺炎では(DIP/RB-ILD)


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薬剤性肺障害

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抗癌剤などのように直接に細胞障害を起こす場合と間接的に炎症・アレルギーにより発症する場合(抗菌薬など)の2つの機序が想定されています。


薬剤性障害は様々な画像パターンをとり、びまん性肺胞障害パターン、急性好酸球性肺炎パターン、特発性間質性肺炎(COP,NSIP)、過敏性肺炎パターン、ARDSパターンなどのパターンをとることが知られています。基本的に除外診断。


http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0887217106000023

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NTM(non-tuberculous mycobacteria)非結核性抗酸菌症(左)/DPB(びまん性汎細気管支炎)(右)

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DPB

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NTM,DPBともに細気管支炎を反映した小葉中心性陰影と気管支拡張の所見が最もコモンなCT所見ですが、DPBの方がより広範囲の所見を呈します

 


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