本日は『びまん性肺疾患のアプローチ~特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)の診断~』についてです。


外来や入院患者さんの胸部CTで偶然みつかるケースは稀ではありませんね。IIPsの臨床診断基準に合致した正確な罹患率は不明ですが、人口10万人あたり、20名程度と推測されています。さらに呼吸器症状が乏しく診断に至っていない患者さんはさらに10倍程度存在することが推定されています。



救急医の挑戦 in 宮崎
間質性肺炎の患者さんは上図のように肺胞壁にある間質に炎症をきたし、線維化を起こすとこの間質が厚くなってしまいます。


そうすると酸素の取り込みが悪くなる(拡散障害)のでSpO2が低下します。さらに労作時や発熱などで組織の需要が増えても酸素の取り込みは悪く対応できないためSpO2は著名に低下します。


肺胞を通過する間に酸素を受け取れないRBCがでてくるためです。


この少し動いただけでもSpO2が著名に低下するのは間質性肺炎に特徴的です。


他にも同様の拡散障害を示す病態は心不全による肺胞壁の浮腫もあります。


ちなみにCOPDは肺胞壁が破壊され終末細気管支より末梢の気腔が異常に拡張した状態のことでしたが、上述のような病態とは異なっています。


病態を整理して覚えておくといいですね。


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では、プライマリケアレベルでどのようにアプローチしていけばよいでしょうか?


下図の『びまん性肺疾患』の鑑別疾患を参考にしてください。



救急医の挑戦 in 宮崎

(クリックすると大きな画像でみることができます)


『びまん性肺疾患』を呈する疾患にはたくさんありますね。特発性間質性肺炎だけではありません。


さらに特発性肺疾患も7つの疾患が含まれています。最も頻度が多いのが肺線維症(IPF)です(約50%、次に多いのは非特異型間質性肺炎(NSIP)で17%、次が器質化肺炎(COP)で約10%が、予後が不良(5年生存率約30-50%、10年生存率約20%)であり、他の間質性肺炎との鑑別が重要になります。


しかしながら『特発性間質性肺炎』と診断する前にまずこの『びまん性肺疾患』の鑑別が必要になってきます。少しみてみましょう。


原因のある疾患として


①感染症(細菌、ウイルス、結核、真菌、ニューモシスチス) ②心不全 ③ARDS ④悪性腫瘍 ⑤薬剤性(抗癌剤、抗生物質、抗リウマチ薬) ⑥じん肺 ⑦過敏性肺臓炎 ⑧膠原病肺(抗核抗体関連膠原病やANCA関連膠原病) ⑨びまん性汎細気管支炎


IIPs以外に原因不明な疾患として


①(肺野型)サルコイドーシス ②慢性好酸球性肺炎 ③アミロイドーシス ④肺胞蛋白症


などがあります。なかなか覚えるのは大変ですね。『心不全』でもこのように見えることがあることは覚えておいてください。


また鑑別するうえで臨床経過も大事になってきます。IIPsのうちに急激な経過でくるものはAIPとIPFの急性増悪です。急性増悪の死亡率は約80%にも達します。



・・・では、ここからどのようにアプローチしていけばよいでしょうか?


下図の『特発性間質性肺炎の診断のアルゴリズム』を参照にしてください。



救急医の挑戦 in 宮崎


このアルゴリズムのように最初に問診、身体所見、検査データでIIPs以外の間質性肺炎を除外することが最初のステップになります。


年齢、性別、家族歴、喫煙歴、職業歴、薬剤歴、環境歴(住居、ペット)、旅行歴などの患者背景にせまる問診がとても大事になります。また、自覚症状としての関節痛、筋力低下、皮疹、レイノー現象、口腔乾燥など膠原病関連の可能性はないか見ていくことも大事です。


検査ではBNP、KL-6、SP-D、抗核抗体、ANCA、RF、末梢血、赤沈、喀痰、マイコプラズマ、ウイルス抗体価を必要に応じてします。


その上で胸部CTで典型的な特発性肺線維症(IPF)の像:肺底部、胸膜直下優位、蜂巣肺などがあり、以下の4項目中3項目を満たせば臨床的にIPFと診断することができます。(最も頻度の多いIPFに限っては必ずしもBALや生検をしなくとも診断してよいということでコンセンサスが得られています


・50歳以上

・緩徐な発症

・3か月以上の経過

・両肺野の捻髪音


身体所見ではこのfine cracklesを見逃さないようにしてください。IPFの90%以上に聴取され、ほぼ必発と考えられています。また『ばち指』も30~60%前後で認められると報告されています。



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頻度の高いIPFやNSIPは両側下肺野を中心とした粒状網状影となります。COPは浸潤影を呈することもあり、しばしばinfectionとして治療されています。


IPF以外ではAIP(急性発症)とNSIPの一部を除いて予後は良好ですが、典型的なIPFといえない場合は専門施設でのBALや外科的肺生検が診断のために必要になってきます。IIPsの診断における気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar lavage:BAL)の有用性には限界があり、補助的診断として用います。


ニューモシスチス肺炎、結核、サイトメガロウイルス肺炎等の感染症の除外や肺胞蛋白症などの診断には有用です。


早めに呼吸器内科医にコンサルテーションし早期に介入、治療することで予後が改善する可能性があります。亜急性、慢性に発症した間質性肺炎の治療適否の検討のために一度は専門医へのコンサルテーションが望ましいでしょう


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本日は以上です。