前回『髄膜炎とJolt accentuation』の記事の中で尤度比(ゆうどひ:likelihood ratio:LR)がでてきましたね。特異度は高いのに尤度比でみるとそれほどでもない。この尤度比と感度や特異度の関係はどのようになっているのでしょうか?
感度、特異度は理解していることを前提にして本日は『尤度比』についてお話してみようと思います。
まずは最初に意味からです。尤度比とは簡単にいうと尤も(もっとも)らしさを数値化したものです。
この『尤もらしさ』って何でしょうか?下の例をみて考えてみましょう。
ある疾患を疑い検査した結果はpositiveであったとします。しかしこの中には2つの異なるものを含んでいます。一つは有病である場合であり、もう一つは健康である場合です。前者はtrue positive(真陽性)であり、後者はfalse positive(偽陽性)です。
positiveの結果がどれだけ『尤もらしい』かは『尤度比』を使うと分かります。
真陽性率と偽陽性率を比率で表すのです。
つまり、尤度比(陽性尤度比)LR+ = 真陽性率 / 偽陽性率
真陽性率 = sensitivity(感度)
偽陽性率 = (1 – specificity 特異度)
ですからLR+=(感度) / 1-(特異度)
また同様に考えていけば、LR-=(1-感度) / (特異度)ということもわかりますね。
陽性尤度比は所見が陽性の時の『尤もらしさ』であり、陰性尤度比は所見が陰性の時の『尤もらしさ』を表しています。
感度と特異度を使用して直感的に判断することが有用性のひとつです。
それでは、次に『感度』や『特異度』との違いもみていきましょう。
前回の『髄膜炎とJolt accentuation』の記事の中に、感度6.06%、特異度98.9%という数値がでてきましたね。
これを見て特異度98.9%なら、検査陽性ならほぼ確定と思ってはいけません。
確かに特異度が高い検査陽性であれば、その疾患を確定(rule in)しやすいのですが、この場合のように感度が極端に低い場合はそうではありません。
特異度はあくまで、疾患をもたない人の内のなかでその所見がない人達の割合を示しているにすぎません。
特異度98%の検査で疾患の検査前確率を50%と設定します。疾患のある群が100名、ない群が100名それぞれいると考えると疾患のない群で検査が陽性である確率は特異度98%なので100名中、2名ですね。感度を70%とすると検査が陽性であった場合の疾患である確率(検査後確率)は70/72ですから、約97.2%と検査前確率50%から著名に上昇します。
次に感度を6%にすると、検査が陽性であった場合に疾患である確率は6/8で約75%になります。
検査後確率に与えるインパクトはこのように変わります。
検査後確率を評価する際には検査前確率は勿論、感度、特異度を考慮しなければなりません。尤度比は感度、特異度を一緒にすることで、検査前確率だけ考慮すれば検査後確率を算出することができます。
尤度比を使用しての検査後確率の求め方にはオッズの概念が必要ですが、今回は省略します。
オッズの計算は煩雑なので検査前確率と尤度比から簡便に検査後確率を計算できるノモグラムがあります(直線をひくだけで簡単に推定できます)。
まとめると、『尤度比』は感度、特異度をまとめることで最も大事な『検査後確率』を計算する際の直観的に検査が有用なのかどうかを判断する指標になります。
最後に『意識障害におけるバイタルサインの診断的価値』を検証されたstudyの表をご覧ください。
意識障害患者529名を対象にバイタルサインの各項目を調べて、バイタルサインが意識障害患者における脳病変の有無の判定に役立つかを調べたとてもimpactのあるstudyです。
529人中、312人に脳病変を認めていますので、検査前確率は59%です。LRは90mmHg以下で0.04、170mmHg以上で6.09であり、脳病変の除外、診断にそれぞれ有用であったとの結論を出しています。
この表を眺めると感度、特異度、LR、検査後確率の関係がよくわかりますね。
感度と特異度の別の記事はこちら
https://ameblo.jp/bfgkh628/entry-12591496735.html
本日は以上です。