ERPを使った言語学習研究の紹介、続編です。過去記事はこちらから→ERPの授業より
日本語には L と R の区別がないので、日本語話者の L と R の聞き取りや発音はよく研究対象となります。
今日ご紹介する研究も、そのうちのひとつで、日本語話者の脳波を測定して L と R を聞き分けられているのかを調べます。
さて、どうやって調べるかというと、、
例えば「lip」という単語を何度も繰り返し聞いていて、急に「rip」という単語が聞こえたとします。その時、「おや?違うぞ!」と気づけば、P3またはP300と呼ばれる脳波が出ます。でも、「lip」と「rip」の違いに気づかなければ、「違うぞ!」の脳波は出ません。
そこで、脳波を測定する装置を頭に付けて、日本語を母国語とする人と英語を母国語をする人に、「lip」と「rip」を聞いてもらいました。
さらに、比較対象として、「lip - rip」以外にも、以下の組み合わせの音を聞いてもらいました。

では、結果です。
まずは、「ba」と 「pa」の聞き分けを見てみましょう。

縦軸は脳波の振幅、横軸は時間です。左側は英語話者、右側は日本語話者。
上の段は、「ba」がレアケースの場合。つまり、ずっと「pa」を聞き続けて、たまに「ba」が聞こえた場合の脳波。グラフの始点は「ba」が聞こえ始める瞬間です。
大きな山の部分がP3またはP300と呼ばれる脳波。音が聞こえ始めてから、およそ300ミリ秒後にプラスの方向(positive)に現れるからP300と呼ばれます。
下の段は「pa」がレアケース。ここでは、4つのグラフとも、P300が見られます。
つまり、母国語が英語の人も日本語の人も、同様に「ba」と「pa」の違いを聞き分けている、と言えます。
次は、怒りの感情のこもった「Bob」とハッピーな感情のこもった「Bob」。

やはりどのグラフにもP300が見られます。感情の違いにも気がついて反応しているということです。
平叙文の「Bob!」と疑問文の「Bob?」はどうでしょうか。

これも、4つのグラフともP300が見られます。
では、最後に問題の「lip」と「rip」を見てみましょう。

日本語ネイティブのグラフには、英語ネイティブに比べて、大きな山がないですね。特に下の段、「rip」がレアケースの場合、ほとんど違いに気がついていないようです。
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なるほど。聞き分けられているのかどうかが、脳波でわかっちゃうんですね。
でも、わかったからって、何になる?と言われればそれまでです。聞き分けられていないことは、脳波を見るまでもなくわかることですから。これは、うちの教授も言っていましたが、分かっていることを、脳波を見てやっぱりね、と言っても大して面白くない。もちろん、最初に脳波を見て明らかにするということには大きな意味がありますが、その後、そこから何かにつなげていかなければならない。どうやったら、聞き分けられるようになるのかとか。
ところで、この P300、脳指紋とも呼ばれ、先日テレビでウソ発見器のように使えると採り上げられていました。どのように使うのかというと、例えば殺人の容疑者に脳波測定装置を付けて、犯人しか知りえない凶器の写真と、ナイフや銃など凶器になりうる物の写真を何種類か順番に見せます。すると、犯人なら、犯行に使った凶器を見たときだけ、P300が出てしまう。
脳波は、意識的にコントロールできるものではないので、信憑性が高いそうです。
私も、L と R の聞き分け実験で、二度ほど脳波を測定されたことがありますが、最初の時は、すごく忙しい時で、しかも夜4時間くらいかかったんです。それで、あとで脳波を見せてもらったら、波の形はちゃんと出ているのだけれど、すごく弱かった。疲れてたんだね、ってすぐにバレてしまいました。
頭の中が科学装置を使って見えちゃうなんて、だいぶドラえもんの世界に近づいてきている気がします。使い方次第ではちょっとこわいですね。
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今回紹介した論文のタイトル:
Influence of Language Structure on Brain-Behavior Development
著者:Buchwald, J. S., Guthrie, D., Schwafel, J., Erwin, R.J., & Vanlancker, D
雑誌:Brain and Language, Volume 46, Issue 4, May 1994, Pages 607–619
今回紹介した論文のタイトル:
Influence of Language Structure on Brain-Behavior Development
著者:Buchwald, J. S., Guthrie, D., Schwafel, J., Erwin, R.J., & Vanlancker, D
雑誌:Brain and Language, Volume 46, Issue 4, May 1994, Pages 607–619