『田うなぎ様』(最終巻)
父親と合流した後、母親は子どもの事が心配になったので、跡を追って学校まで行きました。
途中の横断歩道にいる緑のおばさんが、
『今日はお母さんと一緒じゃなかったね』
そして校門の前に立っている先生も、
『○○くん一人で学校に来れるようになったんですねー』
行く先々で驚きの声を聞きましたが、それは紛れもなく子もが本当に一人で学校に来たという証拠でした。
昼下がり
学校からかけ足で帰ってきた男の子
子『ただいまー!!ママ、田うなぎは?』
母親は朝の出来事を順追って説明しました。
母『パパが来てからはどうなったかわからないから、パパが帰ってきたら聴いてごらん』
子どもは、パパはきっと田うなぎを捕まえて会社に持って行ったんだ!と思うと、いつものようにアミを持って遊びに出掛けようとしましたが、
子『あれぇ?アミがないや…』
夕刻、父親が帰ってきましたが、もちろん何も持っていません。
子『あれ?パパ、田うなぎは?』
父親は田うなぎに逃げられた事を詫びるとともに、捕まえても家では飼えないことを説明しました。
子どもは泣きそうになりながらも、父親を責めることはしませんでした。
何故なら、きっとまた田うなぎに会えるような気がしていたから……
そしてその時こそ、ゆっくり自分の手で捕まえてやるんだ!と思ったのでした。
たがら、その時の為に子どもはある決断をしました。
先日捕まえたミドリガメを逃がすことにしたのです。
ミドリガメを持って父親と一緒に日暮れの道を歩いていると朝、田うなぎと出会った場所にアミが置き忘れられていました。
父『急いで会社に行ったから忘れてたよ…』
そして、ふと溝に目をやるとそこには田うなぎが!
子どもは咄嗟にアミを手に取り田うなぎを掬い上げようとしました。
いつもなら余裕で逃げていく田うなぎでしたが全く動きません。
難なく田うなぎを掬い上げた男の子。
子『やったーーーっ!!』
父『やったーーーっ!!』
さっそく入れ物からミドリガメを逃し、代わりに田うなぎを入れました。
早く帰ってママに教えてあげたい♪
そんな気持ちを抑えながら、二人(と1匹)は、足早に我が家へ向かうのでした。
おしまい