Between The Sheets ~夢への抒情詩~ -18ページ目

Between The Sheets ~夢への抒情詩~

寝る前にちょこっと読んでほしい、素敵な物語をあなたにお贈りします。

 男と女は同じものを見ていても、違うとらえ方をする。
 どうしてなんだろう。あたしはいつも、不思議でたまらない。

 

 週末の夜。彼のベッドで過ごす、甘い時間。
 あたしと彼のやりたいことは一致しているけれど、そこにある意味まで、一致することはない。

 

 あたしは彼の汗ばんだ身体にずっと触れていたいのに、彼はすぐ、シャワーを浴びに行ってしまう。
 どうしてだろう。
 あたしは彼の心が欲しいのに。

 

 シャワーから戻ってきた彼に、ベッドから声をかける。
 「ねえ、知ってる?」
 「うん?」
 少し長めの髪をタオルドライしながら、ミネラルウォーターを飲んでる。

 「英語ではセックスのこと、Make Loveって言うんだって」
 「へえ。お前、英語って得意だっけ」
 「あとね、フランス語では、Faire l‘Amour」
 「すげーな、フラ語しゃべれるんだ」
 「何か、思いつかない?」
 「・・・何か、思いつくか?」

 

 やっぱりわからないみたい。期待してなかったけど。
 彼はその答えすら関心がないみたいで、テレビをつけてすっかりくつろいでいる。

 

 愛を育みたいの。あなたと一緒に。
 どうしてだろう。日本語じゃ、セックスは単なるセックスにすぎない。

 

 まるであたしとあなたの間の温度差を示しているみたいね。



 「爪、伸びてる」

 そう言って彼女は、俺の手を取った。

 ホントだ。こないだ切ったばかりなのに、いつの間にこんなに伸びたんだろう。

 

 「女の人みたいな爪ね」

 彼女は自分の爪と俺のを見比べ、そうつぶやいた。

 「ウソだろ? 冗談言うなよ」

 「ホントよ。いいなあ。長い指と細い爪先。理想的な形よね」

 

 うっとりと見つめる彼女の目。まんざら冗談でもなさそうだ。

 彼女は誉めたつもりなんだろうけど、男の俺にしてみりゃちっともうれしくなんかない。

 むしろショックだ。

 

 キレイな手は好きだ。

 自分の手がキレイだとは思ったことはないけれど、指先の動きや仕草がキレイな女には、正直、見惚れたりもする。

 だけどそれは、他人が対象物という場合の話。

 

 「爪切り、ある?」

 「あるけど・・・切るの?」

 「当たり前じゃん。こんな長ったらしい爪、ウザいだけだし」

 

 

 

 「だったらちょっと遊ばせて」

 彼女は楽しそうに、俺の爪を紅く塗っていく。

 

 「できた」

 俺は彩られた自分の爪をまじまじと見つめる。俺の手じゃないみたいだ。

 「やっぱり似合うわね」

 マニキュアなんて似合っても、しょうがないんだけど。

 

 でも、女の子ってこんなことして楽しんでんだ。

 いつもと違う自分。気分まで変わる。

 だけど俺はやっぱり男だから、こういうのはちょっと抵抗がある。

 彼女に除光液と爪切りを貸してもらい、いつもの爪に戻った。

 「たまにはいいでしょ、こういうのも」

 「いや、俺はもういいよ」

 苦い顔をする俺に、彼女は無邪気に笑ってみせた。

 1コ上の先輩に、ピアスをあけてもらうことになった。
 彼女の耳には、右側に2つプラス軟骨に1つ、左側には3つ、穴があいている。

 「覚悟はいい?」
 ピアッサーを持って俺に迫ってくる彼女。何だかいつも以上に、怖いんですけど。
 「ちょっと待ってくださいよ、まだ心の準備が・・・」
 「もう、往生際が悪いなあ」

 耳に穴をあけるのは、初めてだった。
 正直、ムチャクチャ怖い。だけど彼女から「男だろ!」と叱咤激励を受けながら、俺はピアスをあけることを決意した。

 理由なんて、ない。
 ただ、彼女に近づきたかった。こんな穴ひとつで彼女に近づいたと思うこと自体、おこがましいのはわかっているけれど。

 「もう逃げらんないからね」
 フフフと笑うその声が、まるで小悪魔みたいだ。そんな表情でもキレイと思わせてしまうなんて、なんて罪な人なんだろう。

 耳たぶがピアッサーに挟まれる。
 「じっとしててよ」
 針の先端が、皮膚に触れる。




 「やっぱりまだダメですーっ!」




 ・・・できなかった。
 勇気がない俺を笑い飛ばしてくれたのが、せめてもの救い。
 無事穴をあけられたら、先輩に告白しようと思ったのに。

 まだまだ俺は、半人前だ。

 経ちました。だけど、相変わらずわたしひとりだけの世界です(*_*)
 まあ気長にやっていこうかな、誰に自慢するわけでもないし。
 というわけで、訪問者(おそらく)ゼロでも、更新を続けます。
 
 それにしても、ゼロの割にはランキングがUPしているのは、なぜ?
 上の方で脱落者が出ているのか、あるいは日々の更新がランクアップにつながるのか・・・。
 うーん、謎です。

 「あーあ、雨・・・」
 どうしよう、傘、持って来てない。
 あたしは灰色に染まった空を見上げる。
 図書館に来るときは降ってなかったんだけどなあ・・・。


 当分止みそうにない様子。


 今日は五時から、バイトがあるのに。これじゃ間に合わない。
 入り口前で、傘を開いて空の下に踏み出していく人たちを横目で眺める。
 思わず舌打ちをしたくなった。




 「おい」

 後ろから、声がした。
 「あれ! 久しぶり」
 そこにいたのは、高校時代同じクラスだった男子。今は確か工学部だったっけ。
 話しかけられることなんて、昔からほとんどなかったのに。

 ちょっとクールだけど、部活でやってた剣道にはすごく熱中してた。
 学ランを着ていたときの、今より少し幼かったその姿を思い出す。

 「お前、傘ないの?」
 「うん。まさか雨、降るとは思わなくて」


 空を見上げるあたしに、彼はぶっきらぼうに何かを差し出した。

 傘だ。濃紺の、しっかりした立派なもの。
 「これ使えよ」
 「ええっ、いいよ。それに、人に貸したらあんたが困るじゃない」
 驚いた。彼がこんなこと、言うなんて。

 「いいんだって。使えよ。俺、これから部活だし」
 「あ、剣道?」
 彼はこくりと頷いた。
 「また今度返してくれたんでいいから」
 そう言うとあたしに傘を押しつけ、雨の中を駆けて行った。

 呆然とするあたしの手には、濃紺色の傘。

 「あ、急がなくちゃ! 遅れちゃう」
 傘を開いて、あたしは早足で歩き出す。




 彼の傘は、大きかった。

 
 留守録の発信音の後に入っていたのは、母さんからのメッセージ。

 『元気にしとる? ちゃんと食べよんやろか。
 母さんねえ、今度、パソコンやってみようと思っとんよ。そしたらあんたにも、メール? できるやろ。やけど、パソコンも今、種類がいっぱいあって、ようわからんねえ。
 まあ、気長に待っとってや。いつかはちゃんと、あんたにメール送れるようにするけん』

 俺は缶ビールのふたを開けながら、そのメッセージを聞いていた。
 
 就職して田舎を離れて、はや三年。
 実家に帰るのは盆と正月くらいで、自然と親のことも日々の忙しい生活のためか、頭から薄れていった。

 そうだよな。心配、してるよな。

 ケータイも持ってない、超アナログな母さんがパソコンでメールを送る、だって。
 父さんがついてるから、少しはできるようになるだろうけど、やっぱり不安だ。
 まあ使いこなせなくても、別に困ることはないけどな。今のままで、充分。

 

 母さんの留守録に合わせたかのようにタイミングよく、実家からダンボールが届いていた。
 トランクス姿になった俺は、カッターでガムテープの部分に切り込みをいれ、開封する。

 ふわりとした柑橘系のにおい。

 中からのぞいたのは、所狭しと詰め込まれた黄色い蜜柑たち。
 父さんと母さんが作ったものだ。
 形のよい姿が、「出来のいい子供たち」を思わせる。

 心配かけて、ごめん。だけど俺は、元気にやってるよ。

 蜜柑をひとつ、手に取ってむいた。
 ひと房口に放り込むと、甘酸っぱい味が広がる。

 父さん。母さん。今年も最高の出来だよ。
 
  秋の夜は、長い。
 少し冷たい空気が肌を刺すから、あたしはカーディガンを羽織る。
 マンションの屋上から見上げる空はやっぱり遠くて、永遠に手の届くはずがないことに失望させられるか、はたまた安心させられるか・・・。

 寝る前にベッドの中で本を読んだり音楽を聴いたりするのが、あたしの習慣。
 だけど今日は、ロレンスもビル・エヴァンスも必要ない。
 何もいらない。丸く満ちた月を見上げて、そう思った。

 どうして人は、全てを支配しようとするんだろう。
 ただ見ているだけじゃ物足りない。手に入れないと気が済まない。
 そんなふうにして失っていくものがどれほどあるのか。
 それすら気がつかないなんて、悲しすぎる。

 建物の光が、あちらこちらにあふれている。まるでイルミネーション。
 だけど天高く輝く唯一の光には、どれも敵わない。
 孤高の存在。あたしを含む全てのものを明るく照らす。

 遠いところに行ってしまった人。

 この月の光は、あの人のことも照らしてくれているだろうか。
 もしそうなら、それだけでいい。
 あの人があたしと同じように、あたしのことを想うなんてこと、ないだろうけど。

 I sing a song of Serenade for you in the moonlight.
 『風邪ひいた』
 あなたから一言、そんなメールが届いた。
 ひとり暮らしだから、体調悪くすると何かと不便よね。
 それに、こういうとき側に誰もいないと心細いし・・・。

 「熱、何度だった?」
 「サンパチ」
 「何か食べたの?」
 「なぁんも」
 「じゃあ何か作るね。食べたいの、ある?」
 「おかゆ。あと、りんご」

 キッチンに立つ。お米を洗って、ちょっと置いてから、火にかけて。
 それから、買ってきたばかりのりんごをむいて。
 きっと欲しいと言うだろうと思ってた。予想どおり。

 「できたよ」
 とろんとした目で笑うあなた。しんどいのに、無理しないで。
 でも喜んでくれてうれしいわ。

 口元に、おさじを近づけてあげる。
 「おいしいよ」
 「よかった。食べたらゆっくり休んでね」



 風邪をひいてるはずなのに・・・



 あなたの熱にくるまれて、あたしまで身体が火照ってくる。
 こうやって重なり合ったせいよ、お互いの体温が中和しようとしているの。

 こんな微熱なら、いつまでも続いてほしいわ。

  「価値観のちがい」。そんなもの、何の障害でもないと思ってた。
 だけど確かにそれは、ふたりの歯車を少しずつ狂わしていった。

 味付けの好み、起床・就寝時間、見たい映画、行きたいところ・・・
 ちがうことなんて、承知の上だったはずなのに。
 いつから互いのことが、受け入れがたくなったんだろう。

 ささいなきっかけが、大きな嵐を呼ぶ。

 初めて俺の手が、彼女の頬を打った。
 ひりひりした痛みが、生まれる。彼女の頬にも、俺の掌にも。

 ぶつつもりなんてなかった。そんなのただの言い訳だ。
 だけど我慢の限界だったんだ。
 それほど強い人間じゃない、俺は。

 
 
 俺たちはもう一度、やり直せるだろうか。
 彼女の頬の痛みは、きっと一生消えないだろうけど。

 俺は自分の掌の痛みを、決して忘れない。
 傷つけてしまったことの苦しみを、もう二度と味わうことがないように。
 あたしはひたすらあなたが帰ってくるのを待つ。
 薄い扉の向こうで響く、足音を聞き分けながら。

 ねえ、どうしていつも帰りが遅いの?
 ねえ、どうしていつも何も連絡してくれないの?

 テレビも面白くなくて、雑誌も読み飽きて、待ちくたびれて死にそうよ。
 ・・・ってグチったら、一度怒られたっけ。死ぬなんて簡単に言うもんじゃないって。

 だけどホントなの。
 あなたがこのままもう、帰ってこなくなるんじゃないかって、不安で不安で。
 押しつぶされそうなの、ホントよ。

 あたし、待ちぼうけ。
 何だか腹が立ってきて、つい意地悪しちゃおうって気になる。
 だからチェーンロックかけてやったの。これで内側からしか開けらんないわ。

 

 ひとりで包まる毛布は冷たくて、涙が出そうになる。

 

 あなたの足音が近づいてきた。
 夢の中にいるあたしを、とたんに目覚めさせる。
 あれは絶対に、あなたの足音。あたしにはすぐわかる。

 「おかえりなさい」

 悔しいけれど、笑顔になっちゃうの。あなたに早く、抱きしめられたくて。