睡眠ほど心地よいものは、この世にないと思っている。
だから俺は眠る。 暇さえあれば、いつでも。
「そんなに寝てばっかだと、頭ぼーっとしない?」
眠る俺の隣でずっと本を読んでいた彼女は、そう尋ねる。
「いや、別に」
起き抜けのせいか、ボソリとした声で答える俺。
それを聞いた彼女は、口に手を当てて苦笑した。
「まあ、寝る子は育つって言うからね」
そうは言っても、俺は昔から寝てばっかりだったわけではない。
ガキの頃は寝ることより、外で遊ぶことの方が好きだった気がする。
日曜の朝も誰より早く起きてたし。
もしかして成長し足りなかった部分を今、睡眠で補おうとしているのだろうか。
「そんなわけないよな・・・」
「何か言った?」
訝しげな彼女の表情を見て、俺は慌てて「何でもない」と首を振る。
「たまに思うんだけど」
まだ読みかけの本を閉じ、彼女はぽつりと呟いた。
「何?」
俺が問いかけると、少し不安げな顔になって言葉を続ける。
「ちょっぴり怖くなるの。このままもう、起きてこないんじゃないかって」
「えっ」
彼女がそんなことを考えているとは心外だった。
当事者の俺は、夢の中で心地よい時を過ごしている一方で。
眠りっぱなしの俺を見つめる彼女はそんな不安を感じていたのか。
「ごめんね、変なこと言って」
「いや、別に・・・」
すると彼女は、不安を消し去ろうとするかのように笑顔を作る。
申し訳ない。なんとなく俺は、そう思った。
「あなたの夢に遊びに行けたらいいのにな」
故意にか無意識にか、独り言のようにそうもらす彼女。
睡眠はある意味、孤独だ。
だからこそ心身を十分に休められることができる。
だからこそ誰にも邪魔されることのない時間を存分に過ごすことができる。
だけど時々寂しくなるから、せめて誰かに添い寝をしてもらいたくなるのだろう。
そういえば最近、眠るときはいつも彼女が隣にいた。
睡眠がこんなにも心地よいと思うのは、彼女のおかげかもしれない。
俺は彼女の頭を胸元に寄せた。
夢の世界を共有することはできないけれど、現実では確かにふたり一緒。
だからどうか、寂しがらないでほしい。
お願いだから。