夫は昔から

自分が思ったようにしか動かない人だった

結婚を決めるのもそう

私より条件の良い相手はいくらでもいたし

現に、親同士で勝手に盛り上がり

進めようとしていた縁談もあった

名の知れた中堅どころの会社の社長令嬢

あちら側は大層乗り気だったらしい

それをあっさり断り

親の反対を押し切り、私と結婚した

夫は世間体とか常識とかには

全く囚われない人間

故に、離婚はマズイと思ってるなんてあり得ない


それに、会社に知られたところで

痛くも痒くもない筈だ

お堅い会社でもないし、取引先も一緒の緩い体質

夫以外の役員達

妻子を捨て、不倫相手と再婚

そんな連中もざらにいる

別に珍しくもない

それに、今さら夫に注意したり

苦言を呈する人間など一人もいないのだから

夫の不倫が明るみになったとて

降格される訳でも、減給される訳でもない

怖いもの無しだ


不倫者の多くは

その辺の連中とは事情が違うとばかりに

欲に負けた己の弱さを

もっともらしい言い訳で覆い隠し、

自らの正当性を主張するけれど


悪いけど、こちらからすれば十把一絡げ

みんな一緒だと思う


夫だけが、不倫者の中では別格で
離婚はしないと言う私の意思を尊重しつつ
家族とは一線を引き、
義理堅くも約束を守りながらも不倫を続ける
自己犠牲の人だとは思わない
(そもそも…んな律儀な不倫男はいないえー

夫はどこにでも居る
ただの不倫者Aであり、
結局は大した信念もある訳じゃない

たまに

「夫さんが自宅に帰るのは、あなたとの約束を守る為だけ」とか

「夫さんに好きな人がいるのなら、一緒にさせてあげたら。家庭に縛りつけるのは可哀想」と、そう言われる事もある


要は全て私の一人相撲だと…


確かに、夫は心を無にして帰宅してきて

約束通り娘の世話をして泊まり、また別宅に帰る

別宅では、女と夫婦のように過ごす

それが事実だとしても、


女が夫にとってのオアシスだと言うのなら、それは違うと思う

我が家が帰る場所ではなくなったと同時に

夫にとってのオアシスもまたなくなったのだと思う


たとえ

夫がそれを期待して、新たな部屋を借りたのだとしても、そこは二度とオアシスにはなり得ない

あの日を堺に、夫にとってのオアシスは

きれいサッパリ消えてしまったのだと思う


夫も、今となっては

それは誰よりもわかっている筈

息子達に尊敬の眼差しを向けられる事も

皆で涙目になるほど笑いあう事も

さりげなく私に触れる事も

当たり前にあった日常はもうどこにもない



誰にも知られていなかったからこそ、

そこが癒しだったのだと思う

帰る場所があったからこそ

そこに浸る事ができたのだと思う


今、別宅で女と過ごしても

そこに癒しがあるとも

そちらこそが生きがいとも思えない


夫にとってもまた

全てが明るみに出てからというもの

どこにも安らぎはなく

どこにも真の幸せはないのだと思う


不倫は

バレるまでは当事者だけの秘め事でも

バレてからは周りを巻きこんで

凄まじい勢いで全てを破壊していく


これまで、どちらにも良い顔をしていたオトコも

本当の苦しみはそこから始まるのかもしれない

どっちつかずの執着心と罪悪感

自己肯定感は自己嫌悪に変わり

抑揚感のない惰性というレールに乗っかり

出口のない迷路を

ただグルグル走り続け、月日ばかりが経っていく


結局誰も幸せにはならない

心から満たされる事はない



夫の疲れ切った横顔を見ながら



そんな事を考えていた